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【令和の米騒動に意見異見】石破首相に直接所得補償の実現を求む

2024年、スーパーの棚から米が消えた。小売価格が倍以上に急騰。「令和の米騒動」は、世間一般でも大きく報じられた。その原因は何だったのか、我々は、農政は、どう反省し対策すべきなのか。識者の方々に、今後の米の未来を聞いてみた。

米

明治大学教授・作山 巧

 2024年10月に石破茂氏が首相に就任した。農相経験者の首相就任は、1994年の羽田孜氏以来30年ぶりとなる。本稿では、農政通とされる石破首相の下での米政策を考える。

米が安ければ需要も伸びる!?

 現在の米政策は多くの矛盾を抱えている。その第一は、農政が農業の多面的機能をうたう一方で、それを損なう水田潰しを進めていることである。「多面的機能の発揮」は、食料・農業・農村基本法に規定された農政の基本理念の一つで、その源泉が国土保全や水源涵養などの多くの機能を持つ水田である。しかし、半世紀にわたって続けられてきた水田転作に加えて、今回の基本法改正では水田の畑地化まで規定した。そうした水田の多面的機能を損なう政策が、基本法の基本理念と矛盾するのは明らかである。

 第二の矛盾は、水田転作を通じて米価を引き上げる一方で、それと反する米の消費拡大や輸出促進に多額の予算を投じていることである。これに対しては、米は必需品で、米価と消費量は無関係という主張もある。しかし農水省自身が、23年産米の需要量が前年産より11万t増加した要因の一つとして、パンや麺類などに比べて米の価格上昇が相対的に緩やかだったことを挙げ、米が相対的に安ければ需要は増えると認めている。また、輸出に関しても、日本産米の輸出価格が1%低下すると輸出量は1.9%増加するとの試算もある。つまり、米価を下げれば国内消費は拡大し、輸出も大きく伸びるのである。

山が高けりゃ谷は深い

 主食用米の生産を抑制して米価を維持する政策の弊害は、下図に示した米価の大きな変動である。23年産米の相対取引価格は高水準にあり、生産者の手取り価格も上昇している。これ自体は、生産資材価格が大幅に上昇する中でコスト割れに苦慮してきた生産者にとって朗報に違いない。

 しかし、12年産の高騰から14年産の暴落に至る経験が示すように、山が高ければ谷も深くなる。今回の米価高騰も、それによって主食用米の作付けが増加し、数年後には価格が暴落する可能性もある。つまり、現在の米政策は、水田の多面的機能を損ない、米の消費拡大や輸出促進と矛盾するだけでなく、米価の大きな変動が避けられない点で生産者の利益にもそぐわない。

米60kg当たりの相対取引価格の推移 農林水産省「米の需給状況の現状について」(2024年10月7日)より

石破氏の直接所得補償への言及

 こうした中で、9月の自民党総裁選で石破氏は、米政策の改革を主張した。具体的には、米の生産調整見直しやその増産に伴う価格下落への直接所得補償に言及し、政策集では、米の国内消費と輸出の拡大を公約した。これらの主張が実現すれば、上記の矛盾は解消する。つまり、生産調整を廃止して米を増産すれば、米価が低下し国内消費や輸出は拡大する。米の需要が伸びれば転作や畑地化は不要となり、水田の多面的機能も維持される。

 また、財政負担は増えるものの、米価の下落で減少する生産者の手取りを直接所得補償で補填すれば、価格変動の弊害もなくなる。「米が余っている」のは米価が高すぎるからで、その引き下げと直接所得補償の組み合わせですべての矛盾は消滅する。

首相就任後には知らぬ顔!?

 しかし、首相就任後の石破氏は変節した。最初の代表質問で石破首相は、「所得を補償する政策は農業者の創意工夫や日々の努力にブレーキをかけ、農地の集積・集約化が進まなくなる恐れがある」という従来の答弁を繰り返したのである。代表質問が行なわれたのは首相就任からわずか6日後で、総裁選時の主張がすぐに実現できないのは理解できる。しかし、真の志があれば、米の生産調整見直しや直接所得補償の「検討」を表明することはできたはずである。にもかかわらず、従来の官僚答弁を棒読みし、総裁選時の自らの主張を反故にして直接所得補償を否定した言動は、極めて無責任で強い非難に値する。

 その一因は、石破首相が自民党内で孤立し、議員や官僚のブレーンが乏しく、知識が更新されていないことにある。麻生太郎政権下で農相だった石破氏は、生産調整の選択制への移行と主食用米に対するゲタ対策の導入を強く主張し、2009年の総選挙で勝利した民主党政権下で、米戸別所得補償として実現した。この結果、生産調整への参加は選択制となり、米に対するゲタ対策は廃止されたがナラシ対策は残っている。つまり、総裁選での石破氏の主張は、現在の米政策を理解せず、自身が農相だった15年前の構想を単に繰り返していただけではないか。

 石破首相の度重なる変節もあって自民党は総選挙で大敗し、今後の農政も不透明になった。それでも石破政権が継続するのであれば、農相時の改革への熱意を取り戻してもらいたい。

(明治大学教授)

現代農業』2025年1月号「令和の米騒動に意見・異見」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • 「水田で米をつくらせない政策」は時代遅れ 柴田明夫

  • 食管法的マインドからの脱却を 武本俊彦

  • 農家の苦労が報われる政策へ 小松泰信

  • 「減田」政策でいいのか 田代洋一

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