【あの厄介な雑草とのたたかい方】ナガエツルノゲイトウ&オオフサモ 田んぼ周りを脅かす2種の特定外来生物―秋以降の防除、丁寧な掘り起こし
2024-11-29ぐんぐん伸びて作物・樹木を覆うつる性雑草、除草剤が効かない抵抗性雑草、ますます広がる外来雑草。放棄地の増加や温暖化の影響などで、雑草もどんどん手強くなってきているようです。切り方、枯らし方、抑え方――これからのたたかい方を探ります。
農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で、ユーザによく見られている記事(現代農業の過去記事)の中から、すぐにつかえそうな情報を期間限定で公開します。
*文中に出てくるなどの記号は、ローテーション防除に欠かせないRACコードです
嶺田拓也
ナガエツルノゲイトウ
ナガエツルノゲイトウ
ヒユ科多年生
分布:茨城以南
クローンでのみ繁殖する
ナガエツルノゲイトウは、南米原産の水草です。世界各地の河川や湖沼などの水辺に侵入し、水路を埋め尽くすなどして、生態系や船の航行に大きな影響を与えています。
中空の茎は1m以上も伸長し、節から活発に発根・分枝を繰り返して旺盛に生育し、日当たりのよい肥沃な水辺で大繁茂します。水生植物にもかかわらず乾燥に強く、水田畦畔や畑地にも定着してしまいます。
原産地では種子でも繁殖しますが、日本に侵入したタイプはクローン繁殖しかできません。しかし、その再生力は極めて旺盛で、節さえあれば1~2cm程度の茎の断片からも容易に萌芽します。また、地中を横走するだけでなく、土中深く50cm以上にもなるゴボウ状の直根を伸ばします。この根も不定芽を形成しやすく、断片が増殖源となります。
収穫がほぼ皆無の場合も
日本では1989年に兵庫県の水田で初めて確認され、現在では茨城県以南の各地に広がっています。外来種のなかでも生態系や農林水産業などに悪影響を与えるおそれが多大なものとして、オオフサモなどとともに2005年に環境省から「特定外来生物」に指定され、栽培や移動が制限されました。
農業上の問題としては、河川や湖沼で大群落を形成して取水の障害となる、農業水路に繁茂して通水や排水の妨げとなる、などが挙げられます。水田で繁茂すると、イネにもたれるように伸長して競合し、収穫作業に支障が出ることがあります。ナガエツルノゲイトウは水分を多く含むため、刈り取り時にコンバインの胴内に詰まって、脱穀効率を大きく低下させます。蔓延する圃場では倒伏したイネを覆い、収穫がほぼ皆無となることも報告されています。
畦畔に定着した場合も厄介で、刈り払えば刈り払うほど、残された根やほふく茎から素早く萌芽し、他の植物より早く地面を覆って優占してしまいます。また、細断化した茎断片が周囲に飛び散り、周辺の水田などにばらまかれてしまいます。
水田へはおもに用水を経由して侵入しますが、トラクタなどの農機に断片が付着して広がることもあります。この草が蔓延してしまった水田では、耕起で細断された茎や根の断片が、代かきや田植えの落水時に水尻から排水路に流出することも確認されています。
このように、ひとたび河川やため池にナガエツルノゲイトウが侵入すると、「河川・ため池→用水路→水田→排水路→河川」といったかんがいシステムを通じて、流域内に広く拡散してしまいます。
秋以降の除草剤が効果的
ナガエツルノゲイトウが定着した地域では、さまざまな形で駆除活動が実施されていますが、根絶させるのは厳しい状況です。蔓延してしまった地域では、休耕せざるを得なくなった農地も出てきています。
しかし、水田内では初期剤と中期剤、または初中期剤と後期剤による体系防除で、蔓延を防止することが可能です。収穫後(~降霜期まで)の田面への茎葉処理剤(グリホサートなど)の散布も、効果的だとわかってきています。畦畔でも、生育盛期である夏期よりも秋の茎葉処理剤の散布が有効です。
水田内の防除に成功した後も、用水や畦畔からの再侵入を防ぐため、水口や給水栓に種モミ袋などを被せて断片の侵入を防止する必要があります。さらに、水源である河川やため池からの流入を防止するために、水源に繁茂する群落を除去したり、取水口にオイルフェンスなどを設置したりする対策も重要となります。
いったん地域に定着してしまうと根絶は非常に困難となるので、まずは水田内だけでなく、畦畔など水田周辺に侵入させないよう、農地や水路まわりを重点的に見回ることが重要です。侵入を発見次第、ただちに茎や根の断片を残さず掘り取り焼却するなど、適切に処理しましょう。
オオフサモ
オオフサモ
アリノトウグサ科多年生
分布:茨城以西、宮城、山形、北海道
初期の丁寧な掘り起こしが重要
オオフサモは全国の湖沼や河川、ため池、水路で見られる水草で、水田にも侵入します。よく分枝して水や泥の中に茎を伸ばし、水上に10~30cmほどの茎をこんもりと直立させた姿が特徴的です。
日本では雌株だけが野生化しているため、種子をつけずに地下茎で繁殖・越冬します。いったん水辺に侵入すると旺盛な繁殖力で大群落となり、在来の水生植物を駆逐し、通水の障害となります。最近では西南暖地を中心に水田に定着・蔓延し、イネと競合し収穫作業にも支障をきたしています。水稲用の除草剤が効いていれば定着することは少ないのですが、効きが悪い場合や水口付近では広がってしまうことがあります。
オオフサモの地下茎は土中浅いものの、横方向に長く伸びます。初期段階なら丹念に掘り起こし、地下茎を丁寧に取り除いて駆除できます。わずかな取り残しでも再生するので気を付け、除去後も1~2年は再生がないか確認を続けます。掘り起こしで駆除しきれないほど蔓延した場合には、収穫後の茎葉処理剤(グリホサートなど)の散布が効果的だと思われます。
(農研機構農村工学研究部門)
*月刊『現代農業』2022年7月号(原題:ナガエツルノゲイトウ&オオフサモ)より。情報は掲載時のものです。
ルーラル電子図書館だより Web連載【あの厄介な雑草とのたたかい方】
スギナ、クズなど、なるほど生態とかしこい対策
農文協 編
スギナ、クズなど、厄介な雑草たちの生態(「強み」と「弱み」)とかしこい叩き方、初期除草の知恵(芽生え段階での対策)、草刈りのコツ、除草剤を使いこなすワザなど、わかりやすく解説した雑草対策本の決定版。