〈厄介な雑草とのたたかい方〉クズ大問題 まるでグリーンモンスター
山を覆い、すごい勢いで畑に侵入。つるでミカンに絡みついて枯らす。ブドウの棚に巻き付いて、雪が積もれば棚ごと崩壊。他の人の農地に侵入して、迷惑をかける……。まさに、やりたい放題! 最近はその手の付けられなさから「グリーンモンスター」とも呼ばれているそうな。
なんともやっかいなつる性雑草「クズ」。日本原産で古代からある雑草だが、放棄地が増えたり、草刈り回数が減ったり、さらには温暖化でつるの勢いが増したりして、昨今急激に問題化しているようだ。





まるでゾンビ、バラバラにされてもそれぞれ復活
対策するには、敵を知ることが重要だ。今回、緑地雑草科学研究所理事で雑草インストラクターの越智和彦さんに解説いただきながら、大阪府能勢町の畑や畦畔でクズをじっくり観察した。
クズは多年生の植物(宿根草)だ。最初はイモの上にある「発芽

クズの形態(『クズ、その野生の正体』、伊尾木稔、1989をもとに作図)

越智さんによると、クズの茎には地表を這う「ほふくタイプ」と、ものに巻き付き上に伸びる「よじ登りタイプ」の2種類があるという。ほふくタイプだった茎も、木などにぶち当たるとよじ登りタイプに変化。勢いよく巻き上がって、刈るのも取り除くのも難しくなる。一番上にきた茎は、再びほふくタイプに戻って横に伸長。まるでマントのように、下層植生を覆ってしまう。「あたり一面、クズに見える」というのは、この性質によるわけだ。

写真下:節からは3枚セットの葉(3出複葉)や茎、根が出る
そしてクズの大きな特徴が、旺盛な繁殖力。とはいっても、タネで殖えることは少ないんだとか。新しい茎や葉、根の発生する茎の「節」から、クローン個体を再生して殖えていくんだという。


「刈り払ったりすると、バラバラになった節から根が出て、それぞれの節が新しい株になるんです」
「ええーっ、じゃあ刈れば刈るほど殖えてまうんですか!」
越智さんの解説に、土地管理者のイチゴ農家、吉村聡子さんはびっくり。とくに節から根の出た多年生茎だと殖えやすく、当年生茎も湿度などの環境がよければ、節から根を下ろし新個体となるという。発芽瘤を取り払った後の塊茎からも、再生することがわかっている。まるでゾンビのようだ。



おとなしくしていてもらうには?
「クズはゾンビみたいで厄介なヤツですが、吉村さんの畦畔は大丈夫。クズを十分抑えられています。もし1〜2年草刈りを休んだら、つるで覆われて除草剤が必要になるかもしれませんが、年数回の草刈りを続けていけば、殖えることはありません」
「いつかクズだらけになるんじゃ」と心配していた吉村さん、越智さんの言葉にほっとした様子。大変でも夏場にちゃんと刈ると、勢いを抑える効果が大きいようだ(下図「クズの栄養消長」)。頻繁なロータリ耕でも、大きく減らせるという。いずれある程度管理しておけば、心配はいらないそうだ。

クズの栄養消長(『葛とクズ』p59、「雑草科学に基づいたこれからのクズ対策」、伊藤操子より作図)

ところが、次に訪ねた岡田正さんの畑では「刈らんでほったらかしやったけど、とくに伸びてこーへんのや」という場所があった。見ると、クズとササが混在してワシャワシャ。「これは、ササの根が先に張っているんで、クズの根が伸びず繁茂しにくいんですよ。見事にバランスがとれていますね」と越智さん。この場合、へたにササだけ枯らしてしまったりすると、拮抗状態が崩れ、クズが一気に繁茂する可能性もあるという。


除草剤にもコツがある
一面に繁茂してしまったり、定期的な草刈りが難しく根絶させたいような場合には、除草剤を使うことになる。クズは、畑周囲の林や法面などから侵入してくる場合が多い。こうした場所で使える専用除草剤として「ケイピンエース」が知られている。ただし、これは茎や根を出す株元(発芽瘤)ごとに処理する必要があり、手間がかかって大変だ。だから越智さんは、最初に「ザイトロン」
などを全体に散布し、全体数を減らすことを勧めている。(編)
*クズなど広葉雑草のみ抑える場合はザイトロン、下層植生のイネ科雑草も抑えたい場合はイネ科にも効くザイトロンフレノック
、農地ではラウンドアップ
なども使える。











*ザイトロンやケイピンエースは「非農耕地用」だが、この先作付け予定のない「耕作放棄地」にも使える。


- 『現代農業』2021年7月号「厄介な多年生雑草 地下組織のたくらみを暴け!」
- 『現代農業』2014年1月号「くず根が売れる くず湯で健康 だから根っこ掘りはやめられない」
- 『多年生雑草対策ハンドブック』
(伊藤操子著、農文協、税込2530円)
2020年発刊。クズを含む多年生雑草について、生態と防除のコツを詳しく紹介。 - 『葛とクズ』(緑地雑草科学研究所編、税込2547円)
記事といっしょに 編集部取材ビデオ

多年生雑草対策ハンドブック 叩くべき本体は地下にある
伊藤操子 著
やっかいな雑草の本体は地下にあり。多年草の特性と効果的な対策(草刈り、耕起、除草剤、防草シート、地被植物など)を平易に解説。草種ごとに地下部の貴重な写真とイラストを満載し、生態と管理法を具体的に示す