編集部
農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で人気だった現代農業の過去記事より、すぐに実践できる情報を毎月1本ずつ公開します。
同じ除草剤ばかり使用していると、枯れない草ばかりが生き残るようになってきます。そこで今回は、そんな草をつくらないために、違う作用機構(農薬が効く仕組み)を持つ、違う系統の農薬を順繰りに使う「ローテーション防除」について紹介します。
*文中に出てくるなどの記号はRACコードです
RACコードとは・・・?
「枯れないオヒシバ」が、問題になっているという。ぞっとするような響きだが、この「枯れない」というのは「グリホサート系の除草剤で枯れない」という意味。下のオヒシバの写真のように、ラウンドアップを散布して他の草がすべて枯れたアゼに、オヒシバだけが生き生きとした姿で残る事例が増えているのだ。
ジェネリック普及で広がった
グリホサート抵抗性のオヒシバが日本で初めて報告されたのは、2015年。その後、各地で報告が相次いでいる。とくにここ最近、茨城や埼玉などの北関東で版図を急激に広げている(他に沖縄や岡山、三重などでも報告がある)。
オヒシバ
イネ科一年生
分布:本州以南
生育期間:4~10月
開花・結実時期:7~10月
田んぼの中に入ってはこないが、斑点米カメムシの棲み家になる。地域によって、グリホサート抵抗性を持つ個体が急増中。気温が高いと、時期に関係なく種子を残しどんどん増える。
グリホサートは植物体内へと浸透移行し、各部でアミノ酸の合成阻害を引き起こす。オーキシンなど生命活動に必要な物質を作らせず、雑草を隅々まで枯らす。ところが、標的となるアミノ酸合成過程の部位に変化が出ると、とたんに効かなくなることがある。散布を続けていると、変異個体ばかりが残るようになり、いつの間にか枯れないオヒシバばかり……となってしまうわけだ。
最近は、サンフーロンやコンパカレール、タッチダウンi Qなどラウンドアップのジェネリック、つまり安いグリホサート系の除草剤が続々登場してきている。抵抗性が全国に波及した背景には、これらジェネリックの広がりもあるようだ。
他系統の除草剤なら効く
埼玉の例を見てみよう。県の農業技術研究センターの丹野和幸先生の論文を見ると、県内だけでも数タイプのグリホサート抵抗性が見つかっているようだ。重要な二つの突然変異を同時に持つ厄介な個体(「TIPS」と呼ばれる)も見つかっており、通常のオヒシバはグリホサートの有効成分量で10a当たり27g程度で枯れるところ、1320g散布しても枯れなかったという。
ただし今回発見された抵抗性は、幸いにもすべてがグリホサートに特異的なもので、他の除草剤は有効であることがわかった。つまりグルホシネート(ザクサなど)、フルアジホップP(ワンサイドP)などの他系統の非選択性除草剤には、感受性があるということだ。
下に同県の加須農林振興センターから出されている防除体系の例を挙げた。
埼玉県が提案する水田畦畔・農道でのオヒシバ防除の一例(埼玉県加須農林振興センター、JAほくさい)
ローテーション防除が重要
便利なグリホサートだが、思った以上に抵抗性は発達しやすい。埼玉の例も、一つの抵抗性オヒシバから広がったのではなく、あちこちで同時多発的に発生していたようだ。
複数の剤に抵抗性を持ってしまうと、さらに厄介なことになる。マレーシアではグリホサートに加え、同じく非選択性の除草剤であるグルホシネート、パラコート(プリグロックスL)、さらにはACCase阻害剤に対して抵抗性を持つオヒシバが発見されている。
突然変異個体は通常環境では通常の個体より弱く、除草剤の連用さえやめれば消えていく場合が多い。上手なローテーションを組んでいきたい。
*月刊『現代農業』2022年7月号(原題:オヒシバ 話題の枯れないオヒシバに立ち向かう)より。情報は掲載時のものです。
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