「自動操舵」と聞くと、数千万円するロボットトラクタや無人田植え機なんかが思い浮かぶかもしれない。しかし、現在急速に広がっているのは、手元にある普通の機械を自動運転に変える「後付け」タイプだ。愛用のおんぼろトラクタも、GPS情報を利用して誤差数cmの正確作業をこなせるようになる! 比較的安価な後付け機器が続々登場。複数の機械で「使い回し」をすれば、さらにコストは抑えられるという。
山形・中川秀人

取り付け込みで110万円
トラクタや田植え機を操縦するときの疲労感をなんとかしたい。田植えの際には、後ろを振り向いて植え付け状態を常に確認したい! そんな問題が解決できると考えて、後付けの自動操舵を取り入れました。後付けなら安い製品も多いうえ、トラクタや田植え機で使い回せるというメリットがあります(後述)。
私が導入した「CHCNAV」は中国の測量機器メーカーの製品で、手持ちのトラクタにハンドル、アンテナ、タブレットの3点セットを設置するものです。これで、数十年選手のおんぼろトラクタでも自動操舵ができます。取り付け作業含めおおよそ110万円前後と、国産メーカーに比べて安価。全国に代理店があり、私も代理店になっています。
直線作業はもちろん、曲線での自動操舵も可能です。誤差が数cmなので、とくにアゼ塗りやダイズの播種作業など、正確性がその後の管理に響くような作業で活躍します。

使い回せば安くすむ
自動操舵というと、トラクタの台数分だけ、後付けシステムを導入するイメージがあるかもしれません。じつは、上述の3点セット(ハンドル・アンテナ・タブレット)を移設すれば、自動操舵は「使い回し」が可能です。移設にかかる時間は合計1.5〜2時間。うちではトラクタ2台、田植え機1台を、同じ3点セットで自動操舵化することで、コストを抑えています(下図)。
移設にかかる手間と時間は、ハンドル>ケーブル>アンテナ>タブレットの順。私はケーブルのみ単体で複数購入し、トラクタと田植え機は配線済みの状態にしておくことで、移設の時間を短縮しています。
車体の大きさの入力、実際に走行しての校正作業など、最初に農機具ごとのセッティングが必要となります。1回記録してしまった農機具なら、次回の付け替え時からは設定を呼び出すだけでOKです。


5人作業が2人作業に

田植え機に自動操舵を付けたことで、わが家の田植えに革命が起こりました。直進のために細かくハンドルを切る必要がなく、神経を使わなくてよくなりました。走行したまま常に後ろを振り向いて確認できるので、連続欠株が出たときにもすぐ気が付くことができます。後で気が付き手植えすることを考えると、それだけでも効率が上がります。
以前は1日に田んぼ8枚(計1.6ha)植えるのがやっとだったのですが、1枚(20a)プラスして1.8haほど植えられるようになりました。とても上手なオペレーターを雇ったと思えば、高くはない買い物です。どんなに熟練した人も自動操舵ほどまっすぐはできませんし。
そして、今は苗箱が少なくてすむ「密苗」を組み合わせているので、ハウスからの苗運びが1日(1.8ha分)2回ですみます。自動操舵なので、田植え機上での苗載せ台への補助苗補給も、走行したまま可能です。慣行苗で約5ha管理していたときには、親戚・家族最大5人ほどで田植えしていましたが、今は妻と2人で17ha分を植え付け。ちゃんと5月中に終わっています。
(山形県川西町)
この記事の詳細は『現代農業』2024年12月号をご覧ください
『現代農業』2024年12月号「今どき農機 後付け自動操舵を使いこなす」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。
ダイズの際っ際まで土寄せ 薮田秀行
カボチャのウネ間緑肥の播種がラク 石田秀樹
後ろを向いて播種機を確認できる(島根・高橋智和さん)
深水代かきがラク(滋賀・中道唯幸さん)
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