大阪・小松勝治
円安の影響で、輸入に頼っている果物やナッツが値上がりしている。アボカドにバナナ、アーモンド、ピーカンナッツ、ヘーゼルナッツ、じつはどれも日本で栽培できる。あこがれの熱帯果樹をつくるなら、地球沸騰化時代の今がねらいめ!?国産ナッツにも熱視線が注がれている。庭先の「楽しみ果樹」に、耕作放棄地での小遣い稼ぎに……夢がふくらむ。
畑に置きっぱなしで結実
新規就農10年。バナナ、サトウキビ、ローゼル、バタフライピー、ベリー類、カンキツ、パイナップルなどニッチな作物を育てています。
初めは普通の野菜をつくっていましたが、就農3年目に「アイスクリームバナナ」という耐寒性のあるバナナを見つけ、遊び半分で畑での鉢植え栽培を始めました。すると、翌年は2mほどになって花が咲き、実がたくさんなったのです。これはすごい、大阪でもバナナができる! 冬も畑に置きっぱなしですよ。つまり、ハウスいらんでしょって。
本格的に定植を始めると、他の品種もやってみたくなるもの。オークションやバナナの苗販売業者から、年に苗を10本ほど購入していきました。1本3,000~1万円(送料別)と、決して安いものではありません。でも、バナナは地下の根茎から山ほど芽が出てくるので、一度買えば同じ苗を買う必要はありません。
ナムワやアップルは強い
南国の作物なので、当然冬の寒さが課題になります。当地は都市近郊で、山手に比べ気温は高いほうではありますが、年に1、2回は霜が降り、水溜まりも凍ります。ハウスだと高さ5mは必要で、大きくなりすぎるとガラス温室でも割れてしまうそう。コストをかけても仕方がないので、すべて露地で育てています。
そこでまずは、耐寒性がある品種を選んで購入するのがポイントとなります。オススメは「ナムワ系」「アイスクリームバナナ」「アップルバナナ」など。対して、良食味で人気の「グロスミッシェル」などは耐寒性がありません。まぁでも育てていると、あれもこれも欲しくなってくるんですよね……。
秘訣は深植え&密!
栽培の工夫も重要です。地面にマルチを張ったり幹にプチプチを巻いたり……初めてだらけのことなので、かなり試行錯誤しました。枯らしてしまうことも多く、その都度苗を購入しました。何年もやってみた今、越冬の秘訣は「深植え」と「株分けせず多くの幹(偽茎)を密に伸ばすこと」だと思っています。
ある時、深く掘ったほうが少しでも地温が高いかな?と思いやってみたところ、生育時の耐寒性が浅植えより強そうでした。根茎が寒さから守られるのでしょう。以後、すべて20cmほどの深植えにしています。
バナナは株元から子株がたくさん出てくるので、養分を分散させるため切り離して植え替える「株分け」をする方が多いようです。私もやったことがありますが、今は生え放題にしています。多くの幹が身を寄せ合っているほうが、強い風や冬の寒さから身を守り、枯れにくくなるためです。
冬には地上部が枯れてしまったようになりますが、地下部が生きていれば毎年春には芽が出てくるので、放置します。
春~収穫までの栽培管理
実際の栽培作業を紹介します。大阪だと葉が芽吹きだすのが4月で、生長が止まるのが12月。この間が栽培期間ということになります。
▼春には切り戻しで高さを管理
春には枯れた葉を落とし、幹を切り戻します。この時点で幹(偽茎)が太く、高さが3mぐらいになっている場合、頭から1mほどカット。こうすれば、花芽が垂れ下がることもあって低い位置に実がつき、ハシゴを使わず収穫できます。それほど高くない場合も、芽(葉)の出をよくするため先端を少し切り落とします。その後、切り口からどんどん伸びてきます。7月にはワサワサになり南国気分にさせてくれますよ。
▼夏の管理と生育の目安
遅くても、8月に実がならないと年内に成熟しません。年を越すと寒さで成熟せず、収穫不能。花が咲いてから収穫まで3カ月かかります。
夏でも基本、水も肥料もいりません。ただ、昨今の異常な暑さを考えると、水だけはたまにやったほうがよさそうです。
▼秋の台風対策
9月の台風シーズンは要注意。大阪も数年前に大型台風が直撃し、かなりの被害がでました。対策として、私は周囲に風除けのサトウキビを植えています。サトウキビ搾りは直売所での実演販売で大人気です。
収穫は開花時期により、早くて6月、12月まではとれます。一度結実したらその幹は終わりなので、元から切り倒します。
ハウスいらない、水も肥料もいらない、バナナは手がかかりません。ただ気を付けたいのが、コガネムシの幼虫に根がやられることです。私は無農薬栽培なので、ダイアジノンなどは使えません。でも、気付いた段階ですぐ掘り起こし、虫を除いて植え直せばたいてい復活します。
加工で儲け倍増、葉も大人気
収穫したバナナをどうするか。産直市場で多少は生鮮品の実も出しますが、安い値段でしか売れないし、棚持ちが悪いのであまり売りたくありません。日持ちさせるには、加工が一番です。私はもともと料理人ということもあり、キッチンカーも所有していますし、昨年には冷凍食品工場も立ち上げました。
キッチンカーやテント出店では、バナナスムージー(500円)や、トルティーヤで包んで揚げた「チミチャンガ」(500円)などを提供。生鮮品の販売より数段儲かります。冷凍バナナも通販などで人気です。昔は冷凍ミカンや冷凍バナナは駄菓子屋さんでも売ってましたよね。今の時代は見ることもなくなりましたが、だからこそ若い人には新鮮でウケるようです。
栽培期間中随時とれるバナナリーフ(葉)も、料理素材やお皿として需要があります。葉で包んで岩塩焼きにしたり、豚肉を包んで蒸したり。輸入品は検疫に引っ掛かることが多いため安定供給されておらず、外国料理店などから国産品への需要があり、500g850円で飛ぶように売れています。
手がかからず、利用法も需要もたくさんあり、温暖化でますます元気が出そうなバナナの楽しい栽培、いかがでしょうか。
(大阪府堺市)
この記事は『現代農業』2024年11月号に掲載されています。
『現代農業』2024年11月号の巻頭特集「つくってみよう!アボカド、バナナ、国産ナッツ」のラインナップは以下のとおりです。ぜひご覧ください。
アボカド
初心者にはミカンコンテナ栽培 2年で味見できるかも 有田文宣
苗木から始める アボカドの超低樹高栽培(鹿児島・東愛理さん)
バナナ
横浜より バナナは葉っぱの数が大事 古川原琢
岩手より 冬は株を掘り上げて室内で越す 千葉一男
ピーカンナッツ
1粒100円でバンバン売れる 耕作放棄された水田にピーカンナッツはいかが? 橋爪道夫
強風にも強い ピーカンナッツの棚仕立てに挑戦中(埼玉・山口恭司さん)
アーモンド
ナッツも花も果肉も使える 無農薬アーモンドは一物全体食 笹原六氣
ヘーゼルナッツ
初めてのヘーゼルナッツ栽培 ポイントは土の物理性・pH・有機物・水 野口祐子
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「現代農業VOICE」を聴く
佐藤靖明 監修
山福朱実 絵と造形
バナナは大きな草?原産地では甘くないバナナを芋のように食べる?身近なのに知らないバナナの育ち方や利用のされ方、熱帯から世界に広がる中で奴隷労働も広がった歴史まで、甘いだけじゃないバナナの光と影。