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【暖房代を減らす】冬春トマト 林業家と手を組んでハウスをハイブリッド加温

A 重油をはじめとした暖房用の燃料代の上昇が止まらない。寒い時期に野菜を栽培したり育苗したりする作型に、暖房は不可欠。暖房効率をよくして油代を減らす方法を紹介。

高知・中村陽介

薪ストーブ「スーパーゴロン太」に薪を入れた様子。一度に200kg入り、12~14時間燃焼する
薪ストーブ「スーパーゴロン太」に薪を入れた様子。一度に200kg入り、12~14時間燃焼する

エネルギーも自給できる!?

 高知県佐川町で「トマトハウスナカムラ」を経営している中村陽介といいます。東京で美術を学んだあと地元に帰り、冬春の高糖度トマトをメインに栽培しています。

 もともと物作りが好きだったこともあり、ハウスを建てたり、クズトマトで液肥を作ったりとできることは自分でやっていました。近年、資材や燃料が高騰したことで、身近な有機物や資源を活用することに意識が高まっていたところ、ハウス用の薪ストーブ「スーパーゴロン太」を『現代農業』で知り、ハウス加温のエネルギーも自給できる可能性にとても興味を持ちました。

高糖度トマト「CF桃太郎ファイト」を持つ筆者。冬春トマト45a、水稲80aを栽培
高糖度トマト「CF桃太郎ファイト」を持つ筆者。冬春トマト45a、水稲80aを栽培

ハイブリッド式で加温

 昨シーズンから10aのハウスにスーパーゴロン太を1台導入しています。薪ストーブの特徴として送風機能が付いていないので、本体周辺は熱く、離れている場所は温度が低くなります。それを踏まえて、既存の重油ボイラーの機能も利用することにしました。ハウスの隅にもともとある重油ボイラーの隣に薪ストーブを設置し、周囲と天井をトタンで囲った暖房小屋を作りました。ストーブで暖めた空気を重油ボイラーの送風機能で小屋の中からハウス全体に送る仕組みです。

トタンで薪ストーブと重油ボイラーを囲い、小屋内で暖められた空気をボイラーの送風装置でハウス全体に送る
トタンで薪ストーブと重油ボイラーを囲い、小屋内で暖められた空気をボイラーの送風装置でハウス全体に送る
ハウスの隅に置いた重油ボイラーの隣に薪ストーブを設置
ハウスの隅に置いた重油ボイラーの隣に薪ストーブを設置

 夕方5時ごろに薪に火をつけ、30分ほど経って2次燃焼になったら送風スイッチをオン。小屋の扉を閉めてハウス内に暖気を送ります。このやり方で12〜14時間連続してハウス内をほぼ8〜10°Cに保てますが、外気温がマイナスになる日は薪ストーブのみでは5°Cくらいまでしか維持できません。トマトは最低でも夜温8°C以上は欲しいので、8°Cを下回るタイミングで重油ボイラーが燃焼を始めるように設定しています。また早朝加温も行なっているため、重油ボイラーで朝は少しずつ温度を上げて、日の出後には16°Cになるようにしています。

 以上のようにして薪ストーブの補助・保険として重油ボイラーも併用したハイブリッド加温をしています。

栽培中のトマト(3月撮影)
栽培中のトマト(3月撮影)

薪の太さを組み合わせ、平均15cmにする

 薪は主にスギやヒノキの針葉樹を使っています。直径5~20cm、長さ80cmの丸太が薪ストーブに一度に200kg(約0.4m³)入り、継ぎ足しなしで12~14時間燃焼します。

 やってみて感じたことは、木材の太さと水分率によって燃焼時間と温度上昇の仕方に大きな違いがあることです。理想的な水分量は20%以下で、直径も同じものを使うほうが毎回安定して燃えやすく、早く燃え尽きにくいのでうまく加温できると思います。

 最初は丸太を1本ずつ水分計で測ってましたが、慣れてくると持ったときの重さである程度把握できるようになりました。直径も平均15cmくらいになるように太さを組み合わせて選んでいます。まだまだ経験が必要ですが、あーでもないこーでもないと考えながら遊ぶように薪選びをするのは楽しいです。

地場産の薪を買って使う

 じつは、佐川町は自伐型林業で地域おこしをしていて、たくさんの若い移住者が林業を学び、林業家として独立している日本でも先進的な林業の町です。そんな地域だからこそ、農家と林業家が一緒になにかできたら面白いんじゃないか。そう思い、林業家のところへ薪が欲しいと話に行くと、向こうはすでにスーパーゴロン太という丸太を薪に使えるストーブのことを知っていて驚きました。

 木の種類や運搬方法、薪の金額の設定など話し合って決めていくなかで、木材の単価がとても安く、農業よりも大変なのではないか!ということを知りました。農家の燃料代削減だけでなく、林業家にも少しでもメリットがあることがお互いに持続できる方法ではないかと考えました。

 話し合いの結果、薪は商品価値の低い材を7,500円/m³で買い取ることにしました。木質ペレットやチップ用の市場価格よりも高値です。また、薪は切り倒して半年から1年乾燥させたものを使うので、林業家の木材置き場に乾燥ハウスを建てました。乾燥できた薪から1m³ずつハウスまで運搬してもらっています。

林業家の敷地に建てた、筆者の薪乾燥用ハウス。半年から1年乾燥させたのち、林業家にハウスまで運んでもらう
林業家の敷地に建てた、筆者の薪乾燥用ハウス。半年から1年乾燥させたのち、林業家にハウスまで運んでもらう

重油使用量が7割減

 佐川町では木材の利用促進として町民が薪ストーブを導入する際に半額補助(限度額50万円)を受けられます。これを農業ハウス利用でも適用してもらい、約80万円のスーパーゴロン太を40万円で導入できました。

 ハイブリッド加温で重油の使用量は7割減り、薪に置き換わりました。暖房代にすると約3割減の28万円節約です。金額面からするともう少し抑えたいところですが、前述したように私はあえて木材を安く購入していません。ストーブに火をつけるときの焚き付けは、解体屋から建築廃材を無料でもらって使っています。

重油代が高い地域でどう農業を続けるか

 高知県は比較的暖かい場所ですが、盆地にある佐川町は雪も降り厳寒期にはマイナス5°Cになる県内でも寒い地域です。また燃料代も全国で1、2を争う高単価な地域でもあるので、重油代高騰はハウス農家の存続に関わってきます。もし、パートさんに薪の運搬と着火作業を委託すると、ひと冬で人件費が約14万円かかるため、人件費を含めたハイブリッド加温と重油のみ加温とでは、現在は金額面でほぼ変わりません。しかし、今後さらに燃料が高騰することが予想されるので、金額面でのメリットが出てくると思います。

 現在は10aのハウスのみ薪ストーブを導入していますが、ほかのハウスにも増設したり薪ストーブのみで加温する仕組みも考えていきたいです。

薪で異業種とつながれた!

 私は、ここにしかないおいしいトマトは、ここにあるものを活用して育てるという想いで地域資源の循環や環境を意識した有機栽培をしています。薪を通して地元の林業家とつながれたので、木工作家を兼業している人とコラボしてトマトの箱を作ることを思案中です。薪を割ったら中からトマトが出てくるような箱だとストーリー性もありおもしろいなと思っています。

地元の陶芸家とタッグを組み、筆者の農地の土と薪ストーブの灰を使って陶器を製作
地元の陶芸家とタッグを組み、筆者の農地の土と薪ストーブの灰を使って陶器を製作

 また、ウチの農地で陶芸に適した粘土が見つかりました。取り組んでいる最中ですが、地元の陶芸家と一緒に器作りをしています。そのなかで表面に塗る釉薬は草木灰から作ることを知り、ぜひ薪ストーブの灰を使って作品にしよう!と盛り上がっています。ここでしかできない器になること間違いなしです。ウチの土と薪の灰で作った器で何を食べようか……と楽しみです。

 重油代の削減のために薪ストーブを導入したことで、地域資源のエネルギー活用や地元で異業種とコラボしながらおもしろいことが膨らんでいく可能性が感じられ、ワクワクしています。

(高知県佐川町)

この記事の詳細は現代農業』2024年11月号をご覧ください

現代農業』2024年11月号「A重油100円時代到来!? ハウスの暖房代を減らす」コーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • トマト&シイタケ 自作の空気膜ハウスで灯油の使用量が半減 計良友一 
  • 燃油代高騰、どうしていく?

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