異常気象や面積拡大の影響で、「耕すのが当たり前」の北海道の畑作が、ここ数年で劇的に変化している。極力畑を耕さず、空いた畑には緑肥を混播して地力を強化する動きが、ますます広がりそうだ。
北海道・諏訪智紀
何度耕しても土は硬いまま
美幌町でタマネギを8ha、ビートと小麦を3.5haずつ作付けしています。
今から10年ほど前のこと。就農当初の私は、「プラウで深耕して、サブソイラはなるべく深く入れて、ロータリ耕では硬くてガラガラな土がこなれるように車速を遅く……」という感じで、耕盤を破砕しながら念入りに土を耕していました。そうすることで排水性がよくなり、作物は根をしっかりと張れるようになると思っていました。
しかし作物は毎年生育ムラがあり、活着・発芽不良も多発。大雨が降れば作物は「水やけ」するし、引かない水をポンプで汲み出すこともしばしば。何度耕しても土はいい状態にはならず、当然、収量も満足するようなものではありませんでした。
そんな状況のまま数年が経ち、2016年には2年後に先代からの経営移譲が決定。当時の私は、「今後の長い農家人生、こんな状態の土で営農できるのか?」「遠い未来、長男が農業をやるとなったらこの畑を渡せるのか?」と、焦りや不安でいっぱいでした。
ヤマカワプログラムで土が激変
打開策を見つけるべく書店に通ったり、「ルーラル電子図書館」で『現代農業』の過去の記事を読み漁ったりする中で、「ヤマカワプログラム」に目が留まりました。同じような悩みを持つ農家の実践がたくさんあり、やってみたいと思いました。考案者の山川良一先生にも直接会って話を聞く中で、微生物の大事さや、プラウ耕で土を「破壊」していたことを知りました。あのときの出会いから、私の土づくりが始まったと思っています。
17年、当時はまだ経営者ではなく、父から一部の畑でならやってもいいと許可を得て、タマネギ畑でヤマカワプログラムの実施区を設けました。結果は驚きで、実施したところが一番タマネギの生育がよく、収量もとれました。土を掘ると、タマネギの根は耕盤まで入っていて、太い根も多い。耕盤の土も、手で簡単にほぐせるほどホコホコにこなれている。念のため3カ所ほど掘りましたが、結果は同じでした。
「すごいことが起きた!」と、すぐに山川先生に連絡したのを今でも覚えてます。実施区ではその後、生育後半の水やけも見られませんでした。確信を得て、18年以降は毎年全面積(全作物)で実施するようになりました。
ヤマカワプログラムとは?
北海道で生まれた耕盤を抜く方法。耕盤層の土を煮出した液「土のスープ」・光合成細菌・酵母エキスの3点セットを畑に散布するだけ。考案者の山川良一さんによれば、耕盤が「壊れる」というよりは、微生物によって何らかの変化を起こした、ということ。硬く締まった耕盤層にも微生物はいて、3点セットがその微生物を活発に活動させるトリガーになるという。
後作緑肥を表層の微生物のもとへ
土がよくなれば、その状態を維持する必要があります。ポイントは何といっても「緑肥」と「堆肥」で、団粒構造をつくってくれる微生物にエサを供給し続けることが大事です。
緑肥は、ヤマカワプログラムを実施した年から取り組んでいます。本作物と異なる科の植物が好ましいと聞き、私は毎年小麦収穫後(8月中旬)とタマネギ収穫後(9月上旬)の畑全面へ、10a当たりヘイオーツ4~5kg、ヘアリーベッチ1.5~2kgのミックス緑肥をエアシーダーで播いています。
緑肥の秋処理はディスクハローで行なっています。以前のようにプラウで深耕すると団粒構造と微生物環境を壊してしまいますし、土の表層には分解が得意な菌が多くいるので、地下5~10cmの範囲をめがけて浅くすき込みます。
ヤマカワ実施区は土がやわらかく、タマネギの根張りもバツグン(19年)
生糞切り返しなしのヤマカワ堆肥で
堆肥は、以前は切り返してある完熟牛糞堆肥を買っていましたが、山川先生のアドバイスを受けて以来、生の牛糞堆肥をベースに自分でつくっています。生堆肥へ微生物のエサ(畑の土、米ヌカ、ホタテ貝の殻、光合成細菌など)をかけ、切り返しをせずに1年間置いた「ヤマカワ堆肥」(21年10月号p203など)には、いろんな微生物が存在します。私はそれを、ミックス緑肥播種前後の畑へマニュアスプレッダでまいています。
当初は、生堆肥からつくることや切り返さないことなどに対して「熟度が進まなかったり、中のほうが腐ったりしない?」との不安もありました。そこで、堆積から3カ月経過した頃のヤマカワ堆肥の中心部分を使い、未熟堆肥に敏感なコマツナをポットで育ててみました。結果は、土だけで育てたコマツナよりもヤマカワ堆肥のほうが根がびっしり。手ごたえを感じ、ムギ刈り後の畑へまいて緑肥を播種したところ、ムラなくキレイに生育しました。
畑の変化に出面さんと両親が大喜び
そうしたことを数年続けてきたことで土は変わりました。話は前後しますが、土づくりを始めてはや2年目には、30年ほど補植に来てもらってる出面さんから「前は土が硬くて一日畑を歩くとかかとが痛くなってたけど……、何をやったの? 土がフカフカして足が入るようになったし、補植で使うカラス口の刺さりもスムーズ」と、嬉しい言葉をいただきました。両親も、ビートや小麦が毎年発芽しなかったり枯れたりしていた畑でもキレイに生育してると、その変化を喜んでいました。
事実、畑の透水性・保水性はよくなり、作物も少しくらいの干ばつには動じなくなっています。以前は土の粘土がキツくて、春にロータリを最低速度で2回かけてもこなれませんでしたが、現在は時速3km前後で1度ザーッとかけるだけで十分。乾いたら砂塵のようになり、雨が降れば表面がクラスト化していた頃がウソのようです。なお、面白いことに土の毛細管現象も強くなり、朝方には地下水分で地表がにじんでいる感じも目立ってきました。
節間短く茎太の「ドンころ」姿
収量も、作物問わず年々増えています。根が深くまで伸びるようになったおかげか、地上部は節間が短く、茎の太い「ドンころ」の姿をしています。
タマネギは首元がギュッとしていて、病害虫に強く、いい生育を約束してくれます。なお、タマネギは生殖生長に切り替わって「弱り」始めるまでは、殺菌剤を使わないように心がけています。殺菌剤を使うと、土や作物表面にいる微生物が減ってしまったり、タマネギが自らを守るためにまとっているブルームが薄くなってしまいます。使うべきタイミングを見極めるには観察が大事です。
私は必ず土を掘る
この間、とくに大事だなと思っているのは、スコップで畑の土を掘ることと、根を見ることです。就農当初はトラクタで畑を乗り回す日々でしたが、「まずは土を掘ってみろ」と山川先生にいわれて以来、毎年土を掘りまくっています。数をこなすと畑の地下部の雰囲気がわかってきますし、スコップの入り具合や土をほぐした感覚が自分に蓄積され、土がよくなっていくことをより実感できます。
最近では、以前は絶対にいなかったミミズを見る機会も増えてきました。嬉しいことにタマネギでは、昨年のような高温乾燥年に多発する紅色根腐れ病も減りました。緑肥と堆肥により微生物が多様化した結果だと思います。
地上部の良し悪しはだいたい地下部とリンクしています。土を掘って答えを確かめることは、忘れてはならない作業だと思います。春夏秋と、私は必ず土を掘ります。
(北海道美幌町)
この記事は、現代農業2024年10月号の試し読み(一部)です。ぜひ本紙でご覧ください
2024年10月号の「北海道で広がる省耕起&ミックス緑肥」コーナーでは、以下の記事も収録されています。ぜひ本紙でご覧下さい。
- 畑を休んでミックス緑肥に挑戦! 後作マメ類の生育バツグン 石田秀樹
- ミックス緑肥の浅すき込みで後作の化成肥料が半分以下に 佐藤準耶
- ロータリでライムギ押し倒し 不耕起播種機も自作 和田徹
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地力アップ・肥料代減らし・病害虫減らし
農文協 編
緑肥の種類と選び方、借りた畑の診断に緑肥を使う技術、播種・すき込みのコツや、緑肥を短期間で短く育ててすき込む技術など。