うちの畑はどんな土?使うのは自分の目や鼻や指先、身近な道具……。誰でも、安くて簡単に始められる診断術を紹介。
北海道・島貫 渉
北海道訓子府町は道東、オホーツク地方内陸部に位置する人口約4500人の町。その訓子府町には青年農業者が集まる「訓子府町4Hクラブ」があります。創立45年を超える歴史あるクラブで、現在は町内の青年農業者23人で構成しており、勉強会や野菜の販売会、さまざまなプロジェクトなどの活動をしております。
今回は当クラブが3年前から始めた「畑にパンツプロジェクト」をご紹介します。
生物性を可視化したい
土づくりには「化学性・物理性・生物性」の3要素があります。一般的な土壌分析では土壌のpHやEC、チッソ・リン酸・カリの肥料成分の含有量など、化学性の側面から土の状態を観察してきました。物理性に関しては、過去に当クラブで土壌凍結深制御(2018年10月p220を参照)を用いて課題解決に取り組んできました。
そして残りの生物性。これは特に複雑で可視化することが難しいため、他の2要素に比べて取り組みが少ないという現状があり、当クラブで「生物性の側面から土の状態を観察する方法はないだろうか」とインターネットで探していた時に、フランスの農家が畑に綿100%のパンツを埋めている記事を見つけ、21年から当クラブのパンツプロジェクトが始まりました。
さぁパンツを埋めよう!
準備するものは綿100%の白いブリーフパンツ。当クラブでは6月末~7月上旬に作物の育っている畑に埋めます。埋め方は、作土層の微生物活性を調べるため、深さを15cmと統一しています。パンツを埋める時は、3カ月後のパンツの姿を思い浮かべて胸が高鳴ります。さらに「パンツを埋める」という謎の高揚感もあり、これはパンツを埋めた者にしか感じることのできない感覚です。
そして3カ月後の9月末~10月上旬、早くパンツを見たいという気持ちを抑え、ボロボロになっているであろうパンツを傷付けないように優しく掘り出します。すると、ついに顔を見せるのです! そう「ヒモパン」が!! 場所によってその分解度合いも、じつにさまざまでした。
3年間続けてわかったこと
当クラブではパンツの分解度合いを数値化して、パンツの分解率とそのパンツが埋まっていた畑の「品目」「堆肥や緑肥のような有機物投入の有無」「土壌中の有機物含有量」「土壌硬度」を比較してきました。すべての結果を書こうとすると、今回の10月号を1冊丸々使うことになりますので、三つをピックアップしてご紹介します(詳しい取り組みは「訓子府町4Hクラブ」でInstagramを検索)。
パンツの分解率(23カ所の圃場にパンツを埋めた結果)
*「パンツ診断」については2022年10月号p83も参照ください。
①有機物を投入すると分解率が高い
堆肥や緑肥のような有機物を投入している畑は微生物にとってのエサが多いということになるので、このような結果が得られたと考えます。
②テンサイ(ビート)畑のパンツは分解率が高い
町では畑作3品の輪作体系として「小麦→テンサイ→バレイショ」が多く、小麦収穫後に堆肥を入れたり、小麦の刈り株や根もまとめて土にすき込んだりします。すると土壌中に有機物が多くなり、翌年作付けしたテンサイ畑に埋めたパンツの分解率が高くなったと考えます(グラフの上位5位中、三つがテンサイ畑だった)。
③タマネギ畑は堆肥・緑肥を毎年投入しても分解率は高くない
上記の二つとは矛盾しますが、タマネギは他の作物に比べて殺菌剤や殺虫剤の使用頻度が高くなるため、このような結果になったと考えます。
現代の農業では、多収高品質を目指すうえで土壌分析を実施し、圃場の状態を知ることは当たり前となっています。しかしこれらはあくまで化学的な視点であり、生物的な分析はまだまだ発展途上で、料金も非常に高いです。ですからこのブリーフパンツ1枚で微生物の活性を調べられることは、じつはすばらしいことだと私は思います。
訓子府町4Hクラブではパンツを埋め続けます(24年度は40枚超)。皆さんも一緒にパンツを埋めませんか?
(北海道訓子府町)
こちらの記事は、現代農業2024年10月号の試し読みです。ぜひ本紙でご覧ください
2024年10月号の「自分でできる お手軽畑診断術」コーナーでは、この記事以外に以下の記事も収録されています。ぜひ本紙でご覧下さい。
- レイモンド流 12の土壌診断術――「大地再生の旅」より レイモンド・エップ
- スコップ1本でできる! 土壌断面調査のすすめ 酒向快
試し読み
取材動画(期間限定)を見る
動画は公開より3カ月間無料でご覧いただけます。画像をクリックすると「ルーラル電子図書館」へ移動します。
「現代農業VOICE」を聴く
地力アップ・肥料代減らし・病害虫減らし
農文協 編
緑肥の種類と選び方、借りた畑の診断に緑肥を使う技術、播種・すき込みのコツや、緑肥を短期間で短く育ててすき込む技術など。