福岡・古藤俊二
身近な調味料「お酢」が、急展開を迎えている。知られていなかった効果が、続々と明らかになってきた。野菜が気象変動に強くなる!?酢の実力のほどは……?
農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で好評だった『現代農業』の過去の記事の中から、酢の活用についての記事を期間限定で公開します。
サクラの葉が黄変!?
ここ数年、夏の高温乾燥は強くなるばかり。植物にとっても過酷な生育環境です。例えば近年、サクラの葉が黄変していると心配するお客さんがよくいらっしゃいます。じつはこれ、高温乾燥の危険なサインです。
サクラが春にきれいな花を咲かせるのは、前年の春から秋にかけて、昼間に盛んに光合成し、夜は休んで養分をタップリ蓄えているからこそ。夏の間に葉が黄化、落葉してしまうのは、熱帯夜に呼吸量が増え、樹勢が弱っているからにほかなりません。6~8月中旬の、来春に花を咲かせるための準備(花芽分化)も満足にできない恐れがあります。
きついのは野菜も同じです。ナスの最適生育温度は22~30℃。35℃を超えると、雌しべなどの花器に障害が発生し、奇形果の原因となります。キュウリの最適生育温度も25~32℃で、今年は(6月下旬現在)すでにその生育適温を超えています。
高温乾燥時には食酢を散布
私の地元福岡県糸島では、昔から、高温乾燥時に弱ったミカンやイネに「食酢」を散布する農家がいました。経験的に、植物によいということがわかっていたわけです。イネでは、夜温が高いと出るいもち病対策になることもわかっていました。
それが近年、酢酸によって作物が乾燥や高温に強くなる、そのメカニズムが明らかになってきました。酢酸はお酢に4~5%含まれる、酸っぱさの元になる成分で、米酢の主成分でもあります。農家の経験則が正しかったということでしょう。今後、理化学研究所の研究がさらに進むことに期待したいと思います。
一方で、栽培の現場では、作物が乾燥に多少強くなるくらいでは、夏場の問題は解決しません。現場の夏の問題は、乾燥によって作物が枯れることよりも、乾燥によって起こる石灰欠乏なのです。
乾燥で起きるカルシウム欠乏
カルシウムは、マグネシウムとともに肥料の「中量要素」と呼ばれるほど、植物生命維持にとって欠かせない要素です。葉、茎、実などの細胞組織の強化や、根の発達などに連動する重要な働きを持っています。
しかし、カルシウムは一気に吸収することができないうえ、植物体内で移動しにくい成分なので、吸収が途切れると不足してしまいます。根からの吸収には水が必要なので、乾燥が続くと、カルシウム欠乏が問題になるわけです。
カルシウム欠乏の症状は、トマトやピーマンの尻腐れ症、シュンギクの生長点やハクサイの芯が傷む芯腐れ症、葉物野菜や切り花の葉先枯れ(チップバーン)が代表的。いずれも生長点で、水不足、つまり新たなカルシウムの供給が届かないために起きる症状です。
食酢にカキ殻や卵の殻を溶かす
そこで私がお勧めしているのは、安くてよく効く「酢酸カルシウム」。カキ殻やカニ殻、卵の殻などの天然カルシウムを食酢で溶かして手作りできる資材です。
容器に食酢100mlとカキ殻石灰50gを入れます(食酢200mlと卵3個分の殻でもOK)。しばらくすると気泡が出て、殻が溶ける様子がよくわかります。翌日、発泡が収まったところで、コーヒーフィルターで濾過すれば速効性のカルシウム資材の完成です。葉面散布時は100倍に希釈します。フィルターにたまった卵の殻は、吸収のよいカルシウム肥料になります。
高温乾燥にはアミノ酸+食酢も
高温乾燥時には、作物が吸収しやすい液体肥料の活用もおすすめです。特にアミノ酸が含まれる有機液肥は代謝を活性化する効果もあり、高温乾燥や日照不足などのストレス軽減が期待できます。
じつは食酢には、その効果をさらにパワーアップする効果もあります。
規定通りに希釈したアミノ酸液肥に食酢を100倍希釈で混ぜるだけ。食酢入りアミノ酸液体肥料の完成です。かん水してやると、作物の夏バテによく効きます。
「酢」は酒や味噌、醤油、納豆などと同じように微生物の働きでつくられ、古くから日本の食文化を支えてくれています。食べ物を腐りにくくする殺菌能力はよく知られていて、作物に散布することで防除効果があります。これは公的機関にも認められ、「特定防除資材(特定農薬)」としても指定されています。
また、植物体内のチッソ代謝を高める働きもあり、特に天候不順の時に葉面散布することで、チッソ過多による虫害の予防にも役立ちます。
さらに高温や乾燥時に活躍することがわかった食酢。研究が進めば、作物の栽培に活用する場面がもっともっと増えるかもしれません。
(福岡県・JA糸島アグリ)
*月刊『現代農業』2020年9月号(原題:高温乾燥時の石灰欠乏に 安くてよく効く、酢酸カルシウム)より。情報は掲載時のものです。
農家が教える 酢とことん活用読本
農文協 編
酢は特定防除資材に指定されているように、病害虫を防ぐ作用があり、『現代農業』ではこの働きを「酢防除」と呼んできた。そこへ近年新たに、作物の活性化作用や高温・乾燥耐性向上効果、さらには高濃度で散布すれば草やコケ退治効果もあることがわかってきた。市販の食酢をはじめ、お酢資材、自分で手作りできる柿酢や果実酢、玄米酢まで取り上げ、酢の多様な使い方がわかる本。