園芸植物を育てるうえで、病害虫対策は欠かせませんが、初心者にとってはなかなかハードルが高いものです。農家YouTuber・つるちゃんこと鶴竣之祐さんに、ホームセンターで売っている農薬のきほんについて解説していただきました。
福岡・鶴 竣之祐
みなさん、こんにちは! 園芸の知識をわかりやすく解説するつるちゃんです。今回は、農薬のことなんて何もわからないという園芸初心者のみなさんに、農薬のきほんを端的にお伝えしちゃいます。
ホームセンターに並ぶようなメジャーな農薬って、種類はたくさんあるけれど、系統分けすれば意外と単純なんです。この記事を読み終わった頃には、ホームセンターにある農薬がどんなもので、何を選ぶべきかがわかるようになると思います。
ただ、農協の資材センターに行ってさらにプロ向け農薬を見てみると、今回説明された系統以外の農薬も大量に存在していることに気づくと思います。この記事は、奥深い農薬の世界の入り口案内だと考えてくださいね。
アマ向けはやさしく、プロ向けは強力?
さあ、ホームセンターに並んでいるメジャーな農薬を見てみましょう。
初心者のなかには、「ホームセンターに置いてあるアマ向けの農薬は植物や環境にやさしく、農協に置いてある高価なプロ向け農薬はとても強力」と認識している人もいるかもしれません。でも、これは完全な誤りです。むしろホームセンターで手に入る農薬は安価だけど幅広く強力で、プロ向けの農薬は高価で限定的に効くものが多いのです。ダニだけを殺すとか、アブラムシだけに効くとか、作用機構(効き方)を絞ってその目的だけに特化した薬剤が多いと思ってください。
もしもホームセンターに、効果が限定的なプロ向けの農薬が並んでいたらどうでしょう? よくわからない非農家のおっちゃんが家庭菜園で「おやおやカメムシが発生したぞい、殺生せねば」とホームセンターを訪れ、殺虫剤を求めて購入。なのに「ぜんぜん効かなかったぞ!このかけがえのないワシがわざわざ出向いて労力と金銭を支払ったのにカメムシ一匹殺せんとは許すまじ」とにわかに憤慨し、クレーマーと化すかもしれません。
ホームセンター側としては、彼のような被害者が出るのを未然に防ぐために、基本的に「のべつまくなし」一網打尽にあらゆる虫を殺せるような農薬をラインナップに並べています。
殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤…… まったく別物
わかっている人には当たり前ですが、初心者は殺虫剤と殺菌剤を混同していることも多いようです。「虫を殺す農薬と病気を予防する農薬はまったくの別物」と覚えておきましょう。殺ダニ剤や除草剤、展着剤などもそれぞれ違った効果のものです。
殺虫剤と殺ダニ剤の違いはわかりづらいかもしれませんが、基本的にダニは昆虫ではありません。クモと同じ8本脚の仲間なので、体の構造が違うんですね。普通の殺虫剤ではダニは殺せないことが多い。むしろ殺虫剤をかけることで、ダニを捕食していた益虫を殺してしまって天敵がいなくなり、ダニの楽園が誕生してしまうことが多いんです。
どちらにも対応できる薬剤もありますが、基本的には別物と理解しておきましょう。
殺虫剤
有機リン系――安価でのべつまくなし効く
ホームセンターで売られている殺虫剤を大きく分けると、有機リン系とネオニコチノイド系、ピレスロイド系の3種が主流で、お店の農薬棚の90%はこれらに分類されるといっていいでしょう。いわゆる、のべつまくなしあらゆる虫を駆逐する農薬たちです。
有機リン系は、昔からあるベテラン殺虫剤。代表選手は、オルトランやスミチオン、マラソンなどです。ヨーロッパではもう使われていない国も多いのですが、日本は梅雨があって虫も多いから、まだまだ現役でがんばってます。
そんな有機リン系の殺虫剤、開けた瞬間のニオイが結構キツイんですよ。「うっ、農薬……」って感じで、臭いに違わず効果は抜群です。そして、この系統の薬剤のメリットは何よりも「安価」なこと。
そんな安価ですごくよく効くはずの有機リン系農薬なのに、プロ農家はあまり使わなくなっちゃいました。なぜかというと、使いすぎちゃったからなんです。
安くて一網打尽にできるものだから、やたらめったら使われてきた。そのため、害虫が「抵抗性」をつけてしまって、もはや有機リン系統の農薬が効かないタイプの害虫だらけになった地域も多くなりました。とくにプロが多い専業農家地帯では、そうなっている場所が多い。「スミチオンなんて効かん!」と言い放つ農家がいるかもしれません。でも、それは農薬の毒性が弱まったのではなく、有機リン系の農薬に抵抗性をもつ害虫が生き残り、その遺伝子を引き継ぐ子孫ばかりが増えちゃったということなんです。
安いからといってスミチオン→オルトラン→スミチオン→オルトラン、と有機リン系の農薬ばかり使っていると、有機リンそのものがまったく効かなくなってしまうので注意しなければなりません。
とくにダニ類やアブラムシ、アザミウマ、コナジラミなどの微小で大量増殖するタイプの虫は抵抗性をつけるのが早く、有機リンをかけるたびに逆に増えちゃう(天敵だけが死んでしまう)ことが多いのです。
ネオニコチノイド系――有機リンに抵抗性をもつ虫にも効く
そこで台頭してきたのが、ネオニコチノイド系(ネオニコ)の殺虫剤。有機リン系とはまた違った働きで、ガンガン虫を退治してくれるんですよ。そんなに新しい系統というわけではないですが、有機リン系が効かなくなった場所でもよく効くので、プロ農家でも愛用者が多いのです。
ネオニコの代表選手は、モスピラン、アドマイヤー、スタークルなどで、有機リンに比べるとちょっと割高です。でも、このネオニコも有機リンと同じくのべつまくなし効くタイプであって、とくにミツバチへの影響が心配されています。だから、使うときは周囲の環境に気をつけないといけませんね。それに、ネオニコだって有機リンと同じで、これだけを使い続けると虫たちが抵抗性をつけてしまいます。
ピレスロイド系――ノックダウン効果でバタッと倒れる
さらに、もう一つ主流の農薬が、ピレスロイド系(合ピレ)の殺虫剤。アグロスリン、トレボン、ロディーなどが有名です。合ピレの特徴は、なんといっても速効性。虫に触れた瞬間、バタッと倒れるような速効性があって、「ノックダウン効果」とも呼ばれるんですよ。虫がその場で倒れるような、ダイナミックな効果があるんです。だから、飛んでいる虫にシュッとかけると、すぐに退治できちゃいます。昔ながらの蚊取り線香に使われていた「除虫菊」のような殺虫成分を、化学的に合成したものなんです。
なので、蚊取り線香や虫除けスプレーのような家庭用殺虫剤は合ピレのものが使用されがちです。これものべつまくなし一網打尽にできるのですが、だからといってプロ野球の元中日・権藤博投手のように連投に次ぐ連投を続けると、虫のほうが農薬を攻略してきます。
IGR剤――ホルモンに作用し、脱皮や変態させない
あと、最近ではこれまで挙げた農薬とはぜんぜん違うタイプの……
この続きは2024年6月号をご覧ください
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農文協 編
農薬の成分から選び方、混ぜ方までQ&A方式でよくわかる。たとえば、農薬の「成分」って何のこと? 商品名は違うのに成分が同じ農薬は多い? ミニトマトはトマトと同じ農薬でいいの? といった「基本的なことだけど大事な話」が満載。さらに、RACコードって何? 混ぜると効き目がアップする農薬は? 多品目畑で使いやすい農薬は? といった現場の悩みにも応える。農薬の効かせ上手になって減農薬につながる一冊!。