現代農業2024年6月号の特集は……カメムシです。ニオイで敵を威嚇したり、仲間を呼び寄せ、ゲリラ的に田んぼや畑を襲来するカメムシたち。作物を吸汁して、悪さを働くやっかいものだけど、やつらの生活を知り、本音を聞けば、なんだか憎めない、愛くるしい存在に!?害虫アザミウマを食べる、肉食の天敵カメムシの活かし方も紹介。
香川・豊嶋和人
突然ですが、みなさんにとってカメムシはどんな存在でしょうか。わたしには強敵であり、友であり、面白いヤツであり、場合によってはラーメンのトッピングである、なんとも不思議な存在です。
さて、なにから説明しましょうか。そうですね、では、わたしにカメムシという虫を大いに意識させるきっかけとなったミナミアオカメムシとの出会いから――。
自分が天敵になって食べちゃおう
もともと南九州や四国の太平洋側、紀伊半島にしか生息していなかったミナミアオがわたしの住む香川県に現われたのは2008年のことです。翌年にはさっそく大発生。このときは主に斑点米被害をもたらす田んぼの害虫として認識していましたが、間もなくわたしのつくっているオクラやナス、スイートコーン、さらにはブロッコリーにも悪さをするようになりました。オクラは吸われたところから曲がってしまい等級外になりますし、スイートコーンは粒が凹んだりしぼんだりして出荷不能になることもあります。
ミナミアオのような大型カメムシのやっかいなところは、天敵昆虫にやさしい選択性殺虫剤が効かないことです。なおかつ、ミナミアオには有力な天敵があまりいません。ならば人間が天敵になればよいのではと、カメムシを捕まえて食べることにしました。昆虫食に興味がありましたし、作物がやられて腹が立ったというのもあります。素揚げにすると、パクチーのような味。カップラーメンのトムヤムクンにもよく合いました。
好物のゴマにおびき寄せる
13年頃、高知県の野菜産地ではゴマを植えてタバコカスミカメという天敵カメムシを集めているという話を聞きました。さっそく見よう見まねで露地のオクラやコギクのウネ端にゴマを植えてみましたが、タバコカスミカメはやってきません。このあたりは少し内陸なので気温が足りないのでしょうか。後に知り合った農文協の方が高知の生産者から聞いた話によると、最初は水田の真ん中よりも山のそばから発生したそうです。なるほど、うちは水田の真ん中です。
その代わりといってはなんですが、ミナミアオがたくさんゴマにやって来るではないですか。もともと畑にいたブチヒゲカメムシも集まってきます。いっぽう、オクラにつくミナミアオやブチヒゲは減っているのです。どうやらミナミアオはオクラよりもゴマを好み、そしてフェロモンで集合するため好みのエサに集中しやすいのでは、と仮説を立てました。ゴマを「おとり作物」にして、害虫カメムシを留めておけば、畑の被害を防げるかもしれません。
14年の春、兵庫県の伊丹市昆虫館で「カメムシだらけにしたろかー!」という企画展が開かれていると聞き、すでにカメムシ自体に興味津々だったわたしは高速バスに乗って伊丹に向かいました。昆虫館ですから防除方法を教えてくれるわけではありません。そんなことはどうでもよくて、面白いヤツのことをもっと知りたいだけなのです。
でも、ちゃんと「おとり防除」のヒントになる展示もありました。チャバネアオカメムシやミナミアオなど、広食性のカメムシを飼育する際はピーナッツや大豆、ヒマワリのタネなどの脂っぽいエサを使うんだそうです。なるほど、オクラよりゴマに集まるわけですね。そういえば水稲が出穂するときも、やはりオクラのミナミアオは減ります。おそらく、稲穂のほうが好きなので、田んぼへ移動するのでしょう。
畑はカメムシ天国
15年、おとり作物のゴマに今度は天敵のタバコカスミカメがやって来て、その後、毎年現われるようになりました。もちろん、害虫のミナミアオやブチヒゲもいます。タバコカスミカメを増やす植物としてクレオメも育ててみると、そちらにもミナミアオやブチヒゲが集まってきました。クレオメはアブラナ科植物の近縁なので、アブラナ科につくカメムシの一種、ナガメもやって来ます。
クレオメはゴマよりも寒さに強く暑さに弱いので、3月に播くクレオメから5月以降に播くゴマへとリレーします。どちらも草対策で育苗してから畑に植えるといいでしょう。
ゴマやクレオメに集まったタバコカスミカメは、直売所向けの露地コギクや雨よけピーマンの害虫であるアザミウマをよく食べてくれます。キクの葉もときどき吸汁しますが、アザミウマの被害に比べたら問題になりません(市場出荷では難しいかもしれませんが)。
露地コギクではタバコカスミカメが現われる7月までは、アザミウマ退治で天敵のヒメハナカメムシにも働いてもらいます。ヒメハナはもともとキク科植物を好みますが、近くにオクラやスイートコーンを植えておくとさらに増えます。オクラの葉や茎に付くツブツブやスイートコーンの花粉がヒメハナのエサになるからです。
天敵カメムシに働いてもらう圃場では、アブラムシ対策のウララや……
この続きは2024年6月号をご覧ください
現代農業2024年6月号の特集「カメムシ 叩き方&活かし方」では、以下の記事も掲載しています。タイトルだけですが、ご案内します。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。
- 身近なカメムシたちの自己紹介/こりゃひどい! 害虫カメムシの悪行
- 露地のナス畑 カメムシ様は突然やってくる 天敵にやさしいコルトが切り札 鶴竣之祐
- 吸汁ゲリラ カメムシだけが見た世界
- ニンニク&トウガラシエキスできれいな空心菜がとれた 浜田妙
- 焼き肉のタレにシビ辛パウダーで強化(山梨・鶴田昌二さん)
- リンゴ畑にサンショウとニンニクを植えた(広島・島津宏さん)
- 漢方のニオイで寄せ付けない 森昭暢
- 今年もまくぞ イネのカメムシには消石灰 長崎正子
- 真の雑草・メヒシバを高刈りで抑える 岩田大介
- 木酢液入りペットボトルを吊り下げる 岡田栄一郎
- 最近増えてる厄介な「超イネ派」 イネカメムシの生態と防ぎ方 清水健
- タバコカスミカメで黄化えそ病からピーマンを守る(茨城・原秀吉さん)
- エサ探しを「すぐにあきらめない」系統も登場 タイリクヒメハナカメムシ
- 玄人好みの実力派土着天敵 クロヒョウタンカスミカメ
今月号の試し読み
今月号の取材動画
動画は公開より3カ月間無料でご覧いただけます。画像をクリックすると「ルーラル電子図書館」へ移動します。
今月号の「現代農業VOICE」
「現代農業VOICE」は、記事を音声で読み上げるサービスです。画像をクリックするとYouTubeチャンネルへ移動します。
野澤雅美 著
身近なカメムシの多彩な種類や特徴、おどろきの素顔(生態・生活史など)、上手なつきあい方(観察・調査の仕方、かしこい防ぎ方の基本などを、平易な文章と写真、精緻な図解で一般の人にも興味深くわかりやすく紹介。