現代農業2024年6月号「減農薬特集」のテーマは、カメムシです。田んぼのカメムシ対策についての記事を公開します。
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秋田・長崎正子
一人で米をつくってきた
1944年生まれ。年老いた母に「お前を片付けないと死ねない」と言われて、21歳で見合い結婚。田んぼ3町歩の農家の長男に嫁いできた。2人で農業をする約束だったが、じつのところ夫は農業嫌い。数年で好きな職業に就いてしまった。
私は農業が好きだったが、女子校出身なので知識がない。でも、スポーツで鍛えた身体には自信があり、一人で肥料や除草剤をまき、田んぼを耕し、アゼ塗り、代かき、田植え、草刈り、イネ刈りもやった。今思い返すとわからないことの連続だったが、「自分が職業として選んだのだから、後戻りはできない。今に見てろよ、私は負けない!」という気持ちで頑張れた。
田んぼの虫がいっせいに逃げた!
40年ほど前に『現代農業』の購読を勧められ、私の農業の指導書となった。全国の読者の体験を参考にして、実験した。何をやっても成功して、とにかく楽しい。そんな時目についたのが石灰散布だ。
まずは家庭菜園で実験して、見える効果にビックリ。キュウリはいつも病気に負けて、最後までとれたことがない。ジャガイモはテントウムシにやられ、葉っぱがレース模様になる。それが当たり前だった私の野菜が、石灰散布によって様変わりしたのだ。葉っぱが病気にも虫にも負けず生き生きとしている。嬉しくって友人たちに教えたら、効果が出たと喜びの声が。
「これはきっと、カメムシにもいいぞ!」って、試しに田んぼにもふってみた。とにかく、イネやアゼ草が真っ白になるくらいかけた。すると、アゼ草に隠れていた虫どもがいっせいに飛んで逃げる。快感!
一部にイモチも見えたので、部分的だが思いきり白くなるくらいかけた。すると、病気で赤黒くなっていたところが広がらなかった。
この頃は地域での集団防除からヘリ防除に変わってきた。順番待ちでなかなか適期にできず被害が出ていたが、この年は斑点米も出ず全量1等米になった。
動散で消石灰を3回散布
本格的に全面積にかけ始めたのは2018年から。使うのは安価な消石灰だ。かけるのはイネにつきやすいよう朝露がある早朝。小さい区画は無風でも大丈夫だが、大きい区画は少し風の力も借りる。
動散の噴口を操作して、アゼ草にもかけながらゆっくり田んぼ全面に石灰が届くようにする。口や目に石灰が入るので、眼鏡、マスク、手袋の完全装備。石灰のニオイは、相当喉にくる。しかし、朝の静かな風景に白い粉が滝のように田面を流れていく様は、何ともいえない感動の一瞬でもある。
散布のタイミングは、出穂する8月5日頃をまたいだ7月中旬から8月下旬まで。1週間~10日間隔で3回まくのが目標だ(8月上旬のヘリ防除からも同様に日をあける)。山に隣接する地形やイモチ常連の田は、早めにまくなどとくに気をつける。
石灰散布をひろげたい
昨年は膝の半月板損傷で3~9月まで動けず、人手に頼る日々だった。もちろん石灰をまく術もなく、ヘリ防除はしたものの、カメムシの斑点米と高温障害で全量3等米だった。2等以下の米をつくったのは初めて。この作柄を見ても、石灰散布の効果がわかる。
石灰の使用を皆に広げて、安心安全な食料を孫や子どもに食べさせたい。わが家だけでなく皆においしいお米を届けるのは、農家の務め、使命かな。
石灰をまいてみたいという仲間がまた増えた。今年も石灰まくぞ。
(秋田県大館市)
現代農業2024年6月号の「カメムシ 叩き方&活かし方」コーナーでは、以下の記事も掲載しています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。
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- 露地のナス畑 カメムシ様は突然やってくる 天敵にやさしいコルトが切り札 鶴竣之祐
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野澤雅美 著
身近なカメムシの多彩な種類や特徴、おどろきの素顔(生態・生活史など)、上手なつきあい方(観察・調査の仕方、かしこい防ぎ方の基本などを、平易な文章と写真、精緻な図解で一般の人にも興味深くわかりやすく紹介。