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【世界の有機農業】アメリカ 「慣行化」した有機と「本当の」有機

「有機農業へと舵を切る」と、日本政府は言う。そんな今だから、海外の有機事情も知っておきたい。現代農業2023年11月号「今知りたい! 世界の有機農業」のコーナーより、アメリカの今の有機農業事情についての記事を試し読みとして公開します。

村本穣司

「有機農業へと舵を切る」と、日本政府は言う。 そんな今だから、海外の有機事情も知っておきたい。 いい部分も、悪い部分も――。

全米一の有機農業州カリフォルニア

 日本全土よりも若干広い面積を持つカリフォルニア州(以下、加州)は、米国随一の農業州である。とりわけ果実、ナッツ類、野菜の生産が多く、これらの全米産出量の約50%を生産する。州内の多くの農業地帯は地中海性気候下にあり、おおむね 10月から4月までが雨期で、夏季には雨がほとんど降らない。したがって夏季の湿度は低く、シエラ山脈からの雪解け水や河川水、地下水を利用したかんがい農業が主体である。平均農場面積は143haに及ぶ。
 
 加州の農業は、日本や米国東海岸の農業と異なり「自給農業」という伝統を持たない。つまり、 19世紀のゴールドラッシュ以来、利潤のための大規模単作農業、すなわち、故山下惣一流にいえば「儲からなければ止める」農業が加州の「伝統的」農業なのである。この「伝統」は、後述のように加州の有機農業のあり方にも大きく影響している。
 
 加州は有機農産物の粗販売額、面積、農場数でもダントツ米国ナンバーワンである。総農耕地面積に占める有機農地率は4%で、東海岸の小規模農業を主体とする3州に続き、第4位。現在加州政府は、州内有機農業面積の拡大に関する数値目標の策定(原案は「2045年までに全農耕地の20%を認証有機農地とする」)を検討中である。

8割が購入――米国での有機食品普及

 米国は世界最大の有機食品市場である。米国における有機食品の需要は90年代以来増加の一途をたどっており、20年の有機食品小売販売額は500億米ドル(7兆3000億円)を上回った。従来から果実と野菜が有機食品の販売をけん引してきたが、その他の食品も増加しつつある。

 ある全米規模の調査によれば、16年には全家庭の8割以上が有機農産物を購入したという。有機食品を購入した消費者の主な動機は、食品中の残留農薬や抗生物質を避けたい、環境に配慮した農業をサポートしたい、有機食品は栄養価が高いとの信念などであった。

 自然食品店での小売りや地域支援型農業(CSA)、ファーマーズマーケットなどによる直売とオンライン販売に加えて、15年前後から一般のスーパーマーケットが有機食品を大々的に扱うようになり、現在ではこのスーパーでの販売が全米での有機食品総販売額の約半分を占めている。

加州サンタクルーズにある大手スーパー「コストコ」の常設有機食品売り場

大規模単作構造の「慣行」的有機農業

 16年の加州での有機農畜産物上位10品目の農場販売額を示した。このうちイチゴ、ニンジン、ラズベリーの3品目では、有機の販売額が慣行農産物を含む全体の販売額の10%以上を占めている。

 加州の有機農業は、60年代のヒッピー文化のなかで生まれ、70年代の反戦や農業労働者の労働条件改善などの社会運動のなかで成長した。73年には自らの生産物をまがい物から守るために、生産者が有機認証団体「カリフォルニア認証有機農業者」(CCOF)を作り、79年には加州政府がこれを基に「有機食品法」を制定した。のちに連邦政府はおおむね加州の有機食品法に倣って90年に「有機食品生産法」を制定した(02年施行)。

 認証制度が法律化され、連邦政府によって統一基準が確立される過程で、米国の有機農業は社会運動的側面が失われ、安全な農産物の供給という一面への矮小化と産業化が進んだ。伝統的な有機農業の特徴である有畜複合経営による農場内での養分循環の促進、輪作や緑肥を含む多品目栽培による農場内の生物多様性を活用した病害虫管理などは取り入れず、加州の「伝統」である大規模単作で有機栽培を行なう、有機農業の「慣行化」が進んできた。

 この「慣行」的有機農業は、農場の大規模単作構造を維持したままで、化学肥料を有機質肥料に、化学合成農薬を有機認証農薬に取り換え、認証有機農業の基準を最低限クリアするにとどまっている農法である。肥沃度や病害虫管理の多くを相変わらずさまざまな外部資材の投入に依存していて、必ずしも環境保全的でない場合もある。「大規模単作有機農業」が可能であること自体、日本では想像が難しいかもしれない。加州の乾燥した夏場の気候が日本や米国東海岸などに比べて病害虫の発生を少なくし、リンゴを含む多くの野菜と果樹の大規模有機栽培を可能にしている。

加州ワトソンビル市の大規模有機イチゴ農場。「Organic (有機)」のサインがなければ慣行農法の畑との区別が難しい
一方で、多品目を栽培しファーマーズマーケットなどで直売する中小規模の有機農場も多数存在する

大規模有機農場への富の集中と 企業による全米規模での「取り込み」

 「慣行化」のより大きな問題は、大規模有機農場への富の集中である。例えば、 21年の加州における有機農畜産物の総農場販売額の94%が、件数にして全体の22 %にすぎない販売額50万米ドル以上の大規模農場によって占められていた。そして「富」を持つ大規模農場による中小規模農場の抑圧は、米国農業の歴史において繰り返されてきたパターンで、それが有機農業でも生じている。例えば、加州クヤマバレーにある世界最大の某有機ニンジン生産農場は、大規模有機ニンジンのかんがいのために、地域集落内にある限られた地下水を独占的かつ過剰に汲み上げている。これが集落内の多くの小規模農家の水利権を脅かしていて、現在同地区住民によりこの大規模農場の有機ニンジン不買運動が展開されている。

 有機農業の「慣行化」は加州にとどまることなく、全米規模でも進んでいる。有機農業の伝統的な基本理念よりも利潤の追求を優先するアグリビジネスは、有機食品の需要増を商機ととらえ、潤沢な財力を背景に米国農務省の全国有機基準委員会の大勢を占め、国内の有機農業の基準を徐々に緩和させている。例えば、米国の現在の有機農業基準は、伝統的有機農業の理念にそぐわない土壌を用いない水耕栽培や、有機農業生産法に規定された動物福祉条項を無視した高密度家畜飼養施設での家畜飼育などを認めるという、世界でも例のない事態が生じている。こうした現象は、アグリビジネスによる有機農業の「取り込み」と呼ばれる。

 スーパーマーケットでの量販が有機農産物(特に牛乳と鶏卵)の価格を下げ、より多くの人々への有機食品の提供を可能にしている一方で、これら一部の商品が、米国以外では「有機農産物」とは呼べないものであることを知る消費者は、未だ多くない。

有機農業の「慣行化」に対する抵抗運動

 一方、こうした動きに抵抗して、土壌の健全性を基本とし、放牧や放飼を主体とした家畜飼育という伝統的な有機農業の農法や理念を順守しようとする運動も全米規模で広まりつつある。
 「本当の有機プロジェクト(Real Organic Project, https://www.realorganicproject.org/)」はその一つで、有機農家が主導しているこの運動は、土壌肥沃度増進、生物多様性の促進、草地における動物の放牧輪作、農場体系の持続可能性の向上、コミュニティの形成を基準とし、希望する有機農場を無料で審査、認証している(23年8月現在全米で967件の有機農家が認証済み。)。
 同様の動きとして、ペンシルベニア州で有機農業を推進するロデール研究所がアウトドアメーカーのパタゴニアなどと協力して進める「リジェネラティブ・有機認証(https://rodaleinstitute.org/regenerative-organic-certification/)」がある。この認証は有料で、上記と類似した条件に加え、農場労働者の生活賃金の保障を必須としている。

 上記二つの認証は、いずれも有機認証を受けていることが最低条件で、現行の有機認証を超えた、より厳しい基準となっている。

「Real Organic Project (本当の有機プロジェクト)」の認証マーク
こちらは、米国・バーモント州バーリントン市におけるコミュニティガーデン。近隣都市住民が自家用野菜を育てるために300区画ほど用意されている

持続可能な有機農業のための アグロエコロジー

 現在米国や他の多くの国々の有機農業基準は、生産に用いる資材を規制して、より生態的原則に則った農業を行なうよう定めているが、農場労働者の労働条件などの社会的公正さに関する基準を含まない。農業の持続可能性には、生態的健全性、経済的実行可能性、社会的公平性の三つの柱があり、いずれが欠けても持続可能とはいえない。先のクヤマバレーの一例は、「持続可能ではない有機農業」の最たるものだ。
 
 持続可能性の三つの柱を総合的に検討する手法の一つに「アグロエコロジー」がある。生態学の原理と社会科学的原理、農業者の経験的知識および先住民の知恵などを統合し、持続可能な農業生態系とフードシステムの開発に応用する「科学」であると同時に、持続可能な農法の「実践」と、食の正義の実現を求める「運動」をも含む総合的なアプローチである。
 
 18年にFAO(国連食糧農業機関)が「アグロエコロジーの10要素」を公表して以来、アグロエコロジーは世界的な潮流となっている。21年には、国連の持続可能なフードシステムに関する国際専門家パネル、国際有機農業運動連盟、アグロエコロジー・ヨーロッパ、スイス有機農業研究所、リジェネレーション・インターナショナルが共同で「フードシステム変革のための 13原則」(リサイクル、外部投入の節減、土壌の健全性、動物の健全性、生物多様性、生態的相乗効果、経済的多角化、知識の共創、文化的・社会的価値に基づく食生活、公平性、生産者と消費者の結びつき、土地と自然資源の公正な統治、市民参加)を発表した。これらは、部分的に順守するのではなくすべての原則を同時に守り進展させることが重要で、有機農業の「取り込み」への対抗策という意図をも含めて作成されている。今後日本や加州で真に持続可能な有機農業やフードシステムを作り上げていくうえで、本原則は重要な指針となるであろう。
(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)

2023年11月号「今知りたい! 世界の有機農業」のコーナーでは、以下の記事も掲載しています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • 小規模農家も活躍! 有機の先進地EU 関根佳恵
  • 政府と企業がビジネス的に展開 中国の光と影 山田七絵
  • 現地の川﨑さんの話(中国・川﨑広人さん)

今月号のイチオシ記事

 2023年11月号の試し読み 

 2023年11月号の「現代農業VOICE」を試聴する 

「現代農業VOICE」は、記事を音声で読み上げるサービス(購入者特典)ですが、このサイトでは、現代農業VOICEの一部を試聴できます。画像をクリックするとYouTubeチャンネルへ移動します。

今月号のオススメ動画

*動画は公開より3ヶ月間無料でご覧いただけます。画像をクリックすると「ルーラル電子図書館」へ移動します。

アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学

スティーヴン・グリースマン 著
村本穣司 監訳
日鷹一雅 監訳
宮浦理恵 監訳
アグロエコロジー翻訳グループ 訳

持続可能で人類のニーズを満たす農業とは? 生態系と調和する伝統的農業と健全なフードシステム(食料消費)の実現のために、科学と実践と社会運動を統合するアグロエコロジー(農生態学)の教科書、初めての邦訳。