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花のサブスク需要沸騰! わき芽を活かせる短茎トルコづくり

切り花の品質といえば、これまで市場では花茎の「長さ」が重要でした。しかし、最近は家庭用の飾りやすいカジュアルな花需要の広がりとともに、「短い花」づくりに注目が集まっています。現代農業2023年11月号「花のサブスク需要沸騰!」コーナーのなかから、トルコギキョウの記事を試し読みとして公開します。

福島県浪江町・フラワーファームなみえ

トルコ
サブスク向けにつくる短茎トルコギキョウのハウス。最盛期を過ぎて二度切り中(写真はすべて赤松富仁撮影)

 コロナ禍で冠婚葬祭の中止が相次ぎ、切り花の需要が落ち込む中、右肩上がりで盛り上がった市場がある。「切り花のEC・サブスク市場」だ。インターネットなどで申し込みをすると、定期的に切り花が届くサービスで、花のある生活を手軽に始められると若い世代を中心に人気だという。大田花きの推計では、コロナ禍で家庭で花を楽しむ人が一気に増えたことで、2019年は70億円だったEC・サブスク市場が22年には250億円に急成長。今後も増えていくと予想している。

 そんななか、従来のトルコギキョウ栽培からサブスク専門の栽培にシフトした農家がいると聞き、福島県浪江町のフラワーファームなみえを訪ねた。

花のサブスクとは…?

サブスクとは「subscription(サブスクリプション)」の略。定期購読や予約などの意味がある。つまり「花のサブスク」は、花を定期購入できるサービス。大きく分けると「自宅に直接届くタイプ」と「店で選ぶタイプ」がある。届く花の本数や回数などはそれぞれ。

膝丈ほどの草丈 !?

 さっそくトルコギキョウのハウスへ入ると、あれ? 採花シーズンなのに草丈がずいぶん短い。膝からももほどの高さしかない。採花中のトルコハウスといえば、ふつう腰から胸の高さまで花が伸びている印象があるが全然違う。一つ一つの花も株もずいぶんコンパクト。

 「これがサブスクトルコの特徴です」と、案内してくれた田熊大貴さん。家で飾ることを前提にしているので、短めの草丈のほうが都合がいいという。また、トルコで主流の八重咲きやフリンジ系のフワッとした花ではなく、コンパクトな一重咲きのほうがサブスクでは扱いやすくていいそうだ。

サブスクトルコを持つ田熊大貴さん(左)と石澤浩さん。約8aのハウスと畑でトルコギキョウやストック、ヒマワリなどを栽培
サブスクトルコを持つ田熊大貴さん(左)と石澤浩さん。約8aのハウスと畑でトルコギキョウやストック、ヒマワリなどを栽培

苦戦した 八重咲きトルコづくり

 田熊さんたちは、じつは東京都に本社を置く電気設備会社・恒栄電設㈱の社員。トルコギキョウ栽培に新規参入するにあたって立ち上げたのが、フラワーファームなみえだ。ハウスには環境モニタリング装置や、換気窓の開閉装置など電気で動くものがたくさんある。農業は初心者だが電気設備は十八番。自社のノウハウを生かせると考え、3年前に農業参入した。

 地域のトルコギキョウ農家のところで1年間研修を受けた社員を中心に、当初はサブスクではないふつうのトルコを栽培。だが、そう易しい世界ではなかった。花を揃えるのが難しく高値の秀品(3花3蕾)がなかなか採れないのだ。1年目は3~4月定植、7~8月採花の作型で八重品種をつくった。この時期の花は市場で1本160~200円と高単価がつくといわれるが、それは秀品が採れた場合。切り花長が足りなかったり、花の高さや開花が揃わなかったりすると、単価は一気に落ちて50円になる。出荷経費もかかるし安い花を箱に詰めれば詰めるほど採算が合わなくなってしまう。「惨憺たる結果で、正直トラウマですよ」と田熊さんは振り返る。

 このままではいけないと出荷先の大田花きに相談する中で、無花粉の一重品種を使ったサブスク向けのトルコギキョウづくりを持ちかけられた。この栽培で求められるのは、切り花長や花の揃いではなくコンパクトな花をたくさん採ること。「仕立てがラクならできるかも……」。そう思ってさっそく苗を1万5000株購入し、サブスクトルコの栽培をスタートさせた。

2番花を採花中の無花粉一重品種「ソロPFピンク」(サカタ)
2番花を採花中の無花粉一重品種「ソロPFピンク」(サカタ)

芽かきがいらない サブスク仕立て

トルコ
フラワーファームなみえの作型

 今までのトルコづくりと違うのが仕立て方だ。秀品の3花3蕾を目指す場合、下位節の側枝(そくし)は早い段階で除き、頂花の下3節分から出る側枝を3本立てる。3本の開花が揃うようにこまめに摘蕾(てきらい)し、70cm以上の長さで採花する。いっぽうサブスク仕立てでは、5節(定植約35日後)でピンチ。わき芽かきは一切しない。側枝が3~4本出るので、それぞれの枝に1花1蕾がついたら順次採花していく。サブスク業者に合わせて切り花長は変えているが、40~60cm確保できればいいので、長さが足りないということがあまりない。摘蕾もなし。出荷調製時にやればいい。

 「以前やっていた芽かきと摘蕾がいらないので、労力は半分以下になりました。極論を言えば、ピンチ以降は収穫まで花に触らなくてもいいんです」

現代農業2023年11月号(紙・電子書籍)では、「芽かきがいらないサブスク仕立てのやり方」「サブスクトルコの調製方法」についても詳しく解説されています。ぜひ本誌でご覧ください。

売り上げは同じだが、 出荷経費は抑えられる

 経営的にはどうなんだろう。田熊さんによると、サブスクトルコは花1本当たりの単価が約40円と、かなり安い。だが、1株から側枝4本以上採れるので、株当たりの売り上げとしては従来の3花3蕾仕立てとほぼ変わらないそうだ。定植本数も同じなので面積当たりの売り上げも変わらない。そして、箱に詰められる本数が増えたことで、1箱当たりの売り上げはアップ。従来の仕立てなら4800円(1本160円を30 本)だが、サブスクトルコは1万2000円(1本40円を300本)。

 ここで田熊さんたちが重視しているのが、箱代や輸送代、オムツ代、フィルム代などの出荷経費で、とくに1箱当たりの経費の割合を意識している。

 「1箱当たりの値段が安いと、売り上げに対して箱代とか送料がだいぶ占めちゃうじゃないですか」

 1箱当たりの出荷経費は従来が約600円で、サブスクトルコが約550円。それほど変わらないようにもみえるが、1箱単価が高いぶん、経費割合は前者が12%で後者が4%となる。かなりコストを抑えられるのだ。

 さらに、シーズンを通して出荷する箱数自体も大幅に削減できたので、出荷経費全体では19万円ほど安くなった。

新規就農者でも夢が持てる

 ここで挙げたコストには苗代や農薬肥料代、人件費は含まれていない。しかし、栽培期間中の芽かきと摘蕾作業がない分、労力的なコストも下がっている。そして田熊さんにとって一番の魅力は「リスクが少ないこと」。高品質で高値の花をねらって1株1本ていねいに採るよりも、1本当たりの単価は低くてもつくりやすい花をたくさん採花するほうが経営的に失敗が少なくメリットがある。周りに高品質のトルコ名人がたくさんいる中で、この仕立てなら新規参入した法人でも夢が持てる。

 「5節でピンチした株と6節でピンチした株を栽培したら、6節のほうが側枝の出る量が多かったんです」と言うのは石澤浩さん。品種にも差があるようだが、ピンチするタイミングなどを変えて、1株当たりの採花本数を増やすために試行錯誤も続けている。

2023年11月号の「野菜・花」コーナーでは、以下の記事も掲載しています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ニンニク産地一丸で 異常球を解決! 部会の販売額が2倍以上に 永井怜
  • 【新シリーズ 追究! 有機大玉トマトづくり】 青枯れ対策には野草堆肥の植え穴施用 (熊本・澤村輝彦さん)
  • 【夏秋ミニトマトがガラリッ5】同行!! 盛夏のハウス巡回(鳥取・琴浦ミニトマト生産部)
  • 【オランダ農業に学ぶ12】葉かきは上から下に、日射量に応じて 斉藤章

今月号のイチオシ記事

 2023年11月号の試し読み 

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最新農業技術 花卉 vol.13

特集:トルコギキョウ新技術/冷涼地ダリア

農文協 編

トルコギキョウは幅広い用途につかえるため、年間を通して需要は安定している。ただし農家にとっては、「ロゼット化しやすい」「栽培環境によって品質が落ちやすい」など、つくりこなすのが難しい品目だ。それらを克服して高品質化をねらうための苗定植法や、農家が花色を取引相手に正確に伝えるための色味表の説明と使い方などを解説する。ダリアは、東北での生産者事例を特集。そのほか、キクを中心としたホームユースフラワー(自宅で使うコンパクトな花)をつくる研究、ファレノプシスの省エネ栽培法、人気の多肉植物の培養法など。