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〈肥料は光合成細菌だけ!〉プールで培養、原液散布、無施肥でジャガイモの収量4.5t

光合成細菌とは・・・

「赤い色がトレードマーク。湛水状態で有機物が多く、明るいところを好む嫌気性菌。べん毛で水中を活発に泳ぎまわり、土にも潜る。田んぼやドブくさいところに非常に多く、イネの根腐れを起こす硫化水素や悪臭のもとになるメルカプタンなど、作物に有害な物質をエサに高等植物なみの光合成を行なう(酸素は出さない)異色の細菌。一説によると、地球が硫化水素などに覆われていた数十億年前に光合成細菌やシアノバクテリア(酸素を出す)が現われ、現在の地球環境のもとをつくったそうだ。」

農文協編 『今さら聞けない 農業・農村用語事典 p129 「光合成細菌」より

北海道帯広市・薮田秀行さん

2tの培養プールと薮田秀行さん。2m×1.5m×深さ0.6mの穴を掘って防水シートを敷き、プールの上には保温のためのトンネルを張る (写真はすべて下段丞治撮影)

 ジャガイモ価格が高騰した2021年。要因の一つに昨夏、北海道で40日以上続いた大干ばつがある。減収した農家も多いなか、無施肥で反収4.5tとった農家がいるという(慣行栽培での平均は3t)。なんでもハウスに作ったプールで、光合成細菌を大量培養して畑にまいているおかげらしい。

 22年6月末、真相を確かめるべく帯広市へと飛んだ。

光合成細菌なのに赤くない!

 向かったのは、帯広市愛国町の薮田秀行さん(65歳)の圃場。ハウス内に約2tのプールを掘り、光合成細菌を大量培養しているという。

 光合成細菌と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、ドブのようなニオイと真っ赤な菌液だ。いったいどんな光景が広がっているのだろうか……。十二分にニオイを感じるためにマスクをずらし、いざハウスの中へ入ってみると、目の前にはため池のような青緑色のプール。ニオイもあまり感じない。これが光合成細菌!?と首をかしげる横で、薮田さんがポンプを使ってプールの底から菌液を汲み上げた。あれれ? バケツの中には目の前のプールの緑とはぜんぜん違う赤褐色の液体が注がれている。驚きながらプールとバケツに鼻を近づけると、どちらの色の液も、たしかにドブのようなニオイがする。どうやら、この培養プールは表層が緑色、下のほうは赤色の液体で満たされているようだ。

「仕込み始めはプールの色が赤くなって、そのうち上のほうが緑になるんだ。また、赤にもどることもある」

 薮田さんはどちらも同じ光合成細菌と考え、色は気にせず使っているという。

雑草との戦いに負けた

 現在、ジャガイモやダイズ、カボチャなど多品目を栽培する1.7haの畑の横に2tプール、8haのダイズ畑の横に7tプール、合計9t分の培養プールを持つ薮田さん。だが昔は菌のことはそれほど気にかけていなかった。

 大阪府出身で近畿大学の農学部を卒業し食品工場へ就職したものの、農業へのあこがれが捨てきれずに帯広市が募集した2年間の農業塾に参加。39歳のときそのまま移住して就農した。同市の農家・泉吉宏さんなどに有機栽培を学んだのだが、予想以上に大変な世界だった。

 車で20分ほどのところで知人が養豚をやっていたので、簡単に手に入る豚糞を毎年大量にまいた。すると、大きくおいしい野菜がとれるいっぽうで、日に日に雑草が増えていく。一番手を焼いたのが、最大2mにもなるアカザだ。いつしかキャベツ畑は一面アカザのジャングルに変わり、カルチをかけ、鎌で刈り、大きくなりすぎたアカザはノコギリで手刈り……。当然、体が持たなくなってしまった。

雑草は克服できたがとれない

 雑草との戦いに負け、有機栽培は7年ほどで挫けた。そして、自然栽培に出会う。草原などでは、土壌微生物(菌根菌)が根と共生して養分を供給するので、肥料をやったり草取りしたりしなくても植物は生長する。それなら、菌根菌が豊富な畑にしてやれば、肥料も草取りも必要なくなるんじゃないかと思い、豚糞をやめて無施肥、無農薬、不耕起の自然栽培に切り替えた。すると、堆肥の残肥とともに雑草は徐々に減ってゆき、3年ほど経つとあれほど手を焼いたアカザはほとんど見なくなった。しかし、野菜の収量も減り、ジャガイモは10a当たり2tから約1.5tになってしまった。

ヤマカワプログラムで光合成細菌と出会う

 自然栽培に切り替えて半年ほど経つと、水はけがよくなり耕盤層がぬけたと感じた。これって微生物の力じゃないか?

 そう思い、プラウと微生物のどちらが耕盤層を破壊できるか実験するなかで、09年にヤマカワプログラム(現代農業2012年10月号p60)に出会った。考案者の山川良一さんに勧められるまま「土のスープ(耕盤層の土を煮た液)」「酵母エキス」「光合成細菌」を散布。結果は大成功して、耕盤層まで杭がスッと入るようになった。

 このとき山川さんから、古代の地球では光合成細菌からシアノバクテリア、ミトコンドリア(酸素を使ってエネルギーを作る細胞内の小器官)を持つ生物へと進化したこと。光合成細菌はつまり、植物や動物など多くの生き物の祖先になるともいえることを聞いた。

「これだ! すべての生物の源である光合成細菌をまけば、すごくいい野菜ができるんじゃないか!」

 たちまち、光合成細菌に夢中になった。しかし、ヤマカワプログラムでは光合成細菌を3000倍でまくことになっている。今ひとつ直接的な効果を感じられなかった薮田さんは、原液でまいてみたいと思ったが、圃場面積は約1.7ha。大量の菌液が必要になる。面倒くさいのも嫌だから、簡単に培養したい……。

米ヌカ0.1%でお手軽大量培養

 薮田さんが光合成細菌のエサとして試した材料は、粉ミルクや昆布、糖蜜、米のとぎ汁などさまざま。どの培養実験も小さいサイズなら成功したが、大量培養するには大量の材料が必要でお手軽とはいい難かった。4年ほど試行錯誤を続け、19年、ようやく米ヌカだけで超簡単に培養できる方法にたどり着く。米ヌカの分量は・・・

2022年9月号

光合成細菌 採る・増やす・とことん使う

佐々木健・佐々木慧 著

福島第一原発事故による放射能汚染の除染に、光合成細菌が大きな働きをすることが明らかとなり、誰もが目を見張った。その後、著者が開発した「バイオ除染」技術は文部科学省の研究テーマとして採択され、実用化技術として大きく進み始めた。
この本は、光合成細菌研究40年の著者が、光合成細菌の採取・培養から応用まで、ともすれば神秘的に語られ続けてきた光合成細菌を、科学的成果をもとにした丁寧な図と写真でそのすべてを伝える。

今さら聞けない 農業・農村用語事典

農文協 編

ボカシ肥って何? 出穂って、どう読むの? 集落営農って何だ? 今さら聞けない農業農村用語を384語収録。写真イラスト付きでよくわかる。便利な絵目次、さくいん付き。

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