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〈炭疽病で痛い目に遭わない イチゴの育苗&定植〉夏に余裕ができた「未分化定植本圃増殖栽培」

静岡・内山智史

マークは文末に用語解説あり

筆者(48歳)。ハウス2棟でイチゴを高設栽培

イチゴ農家になりたい!

 6年前、農業に挑戦したくて、9カ月間、職業訓練農業科コースを受講しました。そこで、静岡県で生産が盛んなイチゴの農家になりたいと思いました。県の「がんばる新農業人支援事業」を知り、掛川市の受け入れ農家の師匠のところで2カ月間の事前研修と1年間の実践研修を経て、4年前に独立就農。10.8a×2棟の栽培ハウス(本圃)と5aの育苗ハウスで「紅ほっぺ」の栽培を始めました。多くの方に助けてもらい、今もとてもいい環境でイチゴづくりをしています。

 研修中から静岡県のオリジナル品種「きらぴ香」に興味があり、4シーズン目の去年から栽培を始めました。不安もあり、一部だけ挑戦しようと思い、1カ月に1回参加している勉強会の先生に相談したところ、紅ほっぺときらぴ香は保温開始時期や温度管理などが少し違うということなので、10.8aハウスの全面でつくることにしました。

定植してから苗を増殖

 3月にきらぴ香の親株を120本用意しましたが、増殖して7000本(1ハウス分)の定植苗を確保するのはムリがあります。そこで、県内で2年ほど実績のある「未分化定植本圃増殖栽培」(以下、未分化定植)に取り組むことを決断。普通は花芽分化するまで育苗を続けますが、きらぴ香は花芽がつきやすい品種なので、未分化苗を植えてもちゃんと収穫できるそうです。この栽培方法で育苗資材費や労働時間の軽減になればと思いました。

 ただし、初めてのことなので、勉強会の先生のアドバイス通りにスケジュールを立て、作業を進めました。まずは親株120本のランナーを利用して、240本に増殖。その240本からポット受けをして、約2500本の定植苗をつくりました。7月30日に切り離し、8月1日に未分化苗を約2300本定植。その後、本圃で1株から2本ずつランナー挿しをして増殖します。定植後3〜4週間で終える予定でしたが、ランナーが短いなど、うまくいかなかったところもあり、追加で予備苗を200本ほど定植しました。

未分化定植の作業と生育

普通はランナーを切り離し、しばらく育苗して、頂果房(1番果房)の花芽分化を確認してから定植する。未分化定植は早めに植えて、本圃で増殖し、そのあと花芽分化

負担減、経費減、炭疽病も出にくい

 未分化定植をやってみると、定植苗本数が減ることで、育苗作業が軽減されて、暑い夏に余裕ができました。おかげで、いい苗をつくれました。

 育苗ハウスに苗の状態で長く置くよりも、本圃に早く植えたほうが間隔が広がり、風通しもよくなります。ランナーを切り離したあとの防除は本舗でするので、薬剤がかかりやすくなります。これまで、炭疽病がひどくて、ほぼ全滅という経験もありますが、未分化定植にしたら困りませんでした。

 資材や培土の量が減ったので、経費削減にもつながりました。半分の面積をきらぴ香の未分化定植にしたことによって、切り離しや定植などの時期がずれ、作業を分散できました。時間に余裕ができたので、普通に定植する紅ほっぺの苗も、今までで一番いい仕上がりとなりました。

遮光とチッソ減らしで花芽分化を促す

 未分化定植では、花芽分化を促すために注意することがあります。
 一つは・・・

この記事の続きは2022年9月号をご覧ください

2022年11月号から、「イチゴの未分化定植・本圃増殖栽培」の連載がスタートしました。連載第1回「育苗本数が半分!? 夏の作業がラク!?」では栽培のポイントを解説しています。現代農業webでも試し読みができますので、ぜひご覧ください。

ことば解説

 生長点で、将来、花になる芽ができること。花芽分化のスイッチが入るのは温度や日長、肥料、生育段階などが関係し、その条件は作物によって違う。

 親株から伸びるつるのことで、「匍匐茎(ほふくけい)」ともいう。先端に芽があり、根が出て増殖する。

 イチゴで大問題になる病気。育苗中に発生することが多く、葉、葉柄、ランナー、クラウンなど、あらゆる部位に感染。最終的には株が枯死する。保菌した苗を植えると、本圃でも発病する。

これで防げるイチゴの炭疽病、萎黄病

石川成寿 著

両病害ともに防除対策の基本は「持ち込まない」と「拡げない」こと。まず「持ち込まない」。作付け前に土壌消毒などで圃場をクリーンに。エタノール簡易診断法で潜在感染株をチェック。罹病残渣は放置せずサイレージ発酵処理で無毒化して空気伝染を防ぐ。2段階採苗法で苗を病原菌フリーにしておく。次いで「拡げない」。雨を完全に防げる育苗専用ハウスで育苗。かん水は水はねしない点滴かん水や不織布を利用した株元かん水で。薬剤は、生物農薬タロマイセスを体系防除に組み込んで、数少なくなった切り札剤を効果的に活用。

イチゴの高設栽培

伏原肇 著

腰を曲げずに作業できると急速に広がっているが、栽培が不安定など問題点も多い。イチゴの生理から高設栽培の長所と短所を整理し、培養土や栽培槽の選定から施肥・潅水など品質と収量を高める栽培のポイントを示す