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冬は暖かく、夏は涼しい 木骨ハウスは最高です

木骨もっこつハウスをご存知ですか? 現代農業2023年12月号のなかから、木骨ハウスを愛用している野菜農家の佐藤さん(青森)の記事の一部公開します。

青森県・佐藤郁哉ふみや

佐藤郁哉さんが4年前に建てた木骨ハウス
佐藤郁哉さんが4年前に建てた木骨ハウス

木骨ハウスを建てて新規就農

 リンゴ畑を抜け、水田地帯を車で走っていると、遠くにぽつんと背の高い建物が現われた。よく目を凝らすと、茶色の骨組みにビニールの外壁。青森県藤崎町でミニトマトをつくる佐藤郁哉さんのハウスである。挨拶もそこそこに、さっそく中へ。中をぐるりと見渡すと、張り巡らされているのはみんな白木の梁や柱。まさに木骨ハウスだ。足元にはトマトが植わっているが、天井を見上げると商業施設の吹き抜けを見ているよう。パイプハウスや鉄骨ハウスが広く普及する中、木骨ハウスを建てて2019年の秋に新規就農した。

 佐藤さんの生まれは弘前市。高校卒業後に県外の工場で数年働いたが、退職して青森に戻った。実家の家庭菜園を手伝う中で野菜づくりにドハマリし、農家になることを決意した。

 でも、なんで木骨ハウス?

佐藤さん(30歳)。木骨ハウス2棟(合計8a)でミニトマトのほか、露地畑(約80a)でナスやピーマンなどをつくる
佐藤さん(30歳)。木骨ハウス2棟(合計8a)でミニトマトのほか、露地畑(約80a)でナスやピーマンなどをつくる

たまたま訪ねた先でひとめぼれ

 就農を決意して農業学校で学んでいた頃やミニトマト農家で研修していた頃は、佐藤さんもふつうにパイプや鉄骨のハウスを建てるイメージでいた。いよいよ独立が近づいてきた18年の11月。知り合いのメロン農家から岩手県におもしろい農家がいると紹介され、見学に出かけると、そこでは土入りのポットを2段重ねにして「多段式ポット栽培」でミニトマトをつくっていた。話を聞いていると、うちは足場パイプでハウスを建てたけど県内には木造のハウスもあるんです──と紹介されたのが、岩手県大船渡市の木楽創研(建築会社)が作る木骨ハウスだった。せっかくなら、とその日のうちに木骨の連棟ハウスでイチゴを栽培する農家も訪問。

「もう、ひとめぼれでした」

 パイプハウスで就農することは頭から消え飛び、すっかり木骨ハウスに夢中になってしまった。

 というのも佐藤さん、就農後は藤崎町で手に入れた95aの農地にお客さんを呼び込み、いずれは農業とレジャーが合わさった観光農園をやりたいと思っていたのだ。岩木山と八甲田山に囲まれた津軽平野に位置し、眺めは格別。空いた敷地にテントを立て、お客さんに畑でとれた野菜でバーベキューしてもらう……なんて夢がある。そんな舞台に、ハッと目を惹く木骨ハウスはピッタリだったわけだ。

鉄骨ハウスの3分の1のコスト

 木骨ハウスは現実的にも優れている。まず、コスト面。佐藤さんは125坪のハウスを2棟建てた。木骨ハウスに出合う前にすでに見積もりを出してもらっていたのだが、ハウス本体やビニール、加温機などの設備、施工費込みで、鉄骨ハウスが1棟当たり約3,000万~4,000万円、足場パイプハウスが約2,000万円とのことだった。では木骨ハウスはというと、なんと約1,000万円。従来型のハウスの半分から3分の1のコストで作れるという。佐藤さん、「これならいいじゃん」と日本政策金融公庫の融資を受けて、約2,000万円かけて単棟ハウスを2棟建てた。

 価格がここまで違うのには大きく二つの理由がある。一つは骨組みの本数が少なく済むこと。木骨は太いぶん強度があるので、パイプハウスよりも広い間隔で柱が立てられる。もう一つが、高騰著しい鉄骨より木材のほうが安いこと。間伐材や東日本大震災で出た流木などを再利用しているため価格が抑えられる。

 このハウスを施工した木楽創研の代表・熊谷秀明さんによると、見た目が悪く住宅用建材としては避けられるようなB材やC材を強度を確認した上で使用しているとのことだ。木材も値上がりはしているのだが、鉄ほどではないという。

地吹雪地帯でもへっちゃら

 次いで優れている点が、耐風・耐雪性が高いことだ。佐藤さんのハウスがある地域は、冬になると町おこしで「地吹雪体験ツアー」が開催されてしまうほど過酷な環境。過去には風速25m/sの猛吹雪が吹き、1時間ほどでハウスの前に雪が吹き溜まって出られなくなったこともあるとか。サラサラとした軽い雪だが、毎年2mくらいは必ず積もる。おまけにハウス周りは風を遮るものがないので、強烈な春一番も吹く。

「今年の春、近くの民家で屋根が吹き飛んだんです」

 こんな土地でも、木骨ハウスを建てて以来4年間、被害はない。屋根部分はトラス構造を多用して柱と梁をしっかり固定して、ハウス側面には筋交いを入れて強度を高めている。ハウス設計時に筋交いの本数を増やしたいなどの希望を伝え、強度計算した図面を提案してくれた。結果、基本的に鉄骨ハウスと同じ強度があり、最大で風速50m/sに耐えられるハウスができた。

プラモデルのように組み立て簡単

地面に1.8mの鉄杭を打ち込んで基礎にして(矢印)、その上にハウスを建てた。垂木や筋交いは佐藤さんが自主施工。木楽創研が手掛ける農業用の木骨ハウスは全国に30棟ほどある
地面に1.8mの鉄杭を打ち込んで基礎にして(矢印)、その上にハウスを建てた。垂木や筋交いは佐藤さんが自主施工。木楽創研が手掛ける農業用の木骨ハウスは全国に30棟ほどある

 「このあたりは自分で固定しました」とハウス側面の垂木を指さす佐藤さん。ハウスの一番高いところは6mあるので、太い柱や屋根を架ける大がかりな作業は業者に頼んだが、筋交いや横の細い柱の固定は自分でした。木材には、それぞれがピッタリはまるような加工がされている。設計図を見ながら組み立てていけばいい。
「パコっと木をはめて、インパクトドライバーでギュンギュンとビスを締めればOK。プラモデルみたいに簡単なんです。誰でもできますよ」

 一部自主施工するだけで、2棟合わせて約40万円の節約になった。資材の到着から骨組みの組み立てに1週間、ビニール張りに2週間で完成。ハウスは800mほど離れた国道からもよく見える。誰も木でハウスを建てているとは思いもよらず、「地域の人から倉庫つくってんのかといわれました」と佐藤さんは笑う。ミニトマトは農協や市場出荷ではなく、道の駅やハウスなどで直売したいと思っていたので、就農前からの話題づくりにもなった。

夏は涼しく、冬は暖かい

20㎏の土を入れた土のう袋でミニトマトを栽培。誘引棚も木材で自作した
20㎏の土を入れた土のう袋でミニトマトを栽培。誘引棚も木材で自作した
試作中の品種「フラガール」。甘くておいしく、ヘタを株に残して収穫できるのでラク
試作中の品種「フラガール」。甘くておいしく、ヘタを株に残して収穫できるのでラク

木骨ハウスでトマトを栽培していて実感したのがハウスの温度差だ。研修先ではパイプハウスで作業していた。

「ハウスに50°Cまで測れる温度計があったんですけど、夏はメーターが振り切ってました。50°C以上は確実にありましたね」

 鉄は熱の伝導率がよく、真夏は触るとやけどするくらい熱くなる。日中はどんどん熱を蓄え……

この続きは2023年12月号をご覧ください

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