現代農業WEB

令和6(2024)年
5月3日 (金)
皐月
 先負 丁 卯
旧3月25日
憲法記念日

あああ

ホーム » 栽培のコツ » 果樹 » 【カンキツと対話!セガっちゃんの植物ホルモン塾 第2回】今年は浮き皮が大発生!?(全文掲載)

【カンキツと対話!セガっちゃんの植物ホルモン塾 第2回】今年は浮き皮が大発生!?(全文掲載)

現代農業2023年8月号から新連載「カンキツと対話! セガっちゃんの植物ホルモン塾」がスタート! 植物ホルモンを学ぶと樹の気持ちがわかる !? 長崎でカンキツ農園を営む セガっちゃん が、後輩のみつおに懇切丁寧に解説! 第2話を試し読みとして公開します。

みつお(本名・橘蜜雄)/セガっちゃん(本名・瀬片元治)

開花が早い、着果量が多い、熱帯夜

セガっちゃん (以下、 セ ) 今年の梅雨も九州は大雨たい。10年に1度の災害が毎年くるようになっとるのー。

みつお (以下、み) ホント大変な時代になったよね。梅雨が明けたらカンカン照り。夜も25°C以上の熱帯夜が続いて、寝苦しいよ。ミカンの樹にも影響あるのかな?

セ ほー、いいとこに気づいたのぅ。この熱帯夜、ミカンの樹にとっても大大大問題じゃぞ。とくに今年は大変な年になりそうじゃ。春のことを覚えとるかな? 九州は去年の不作の影響で、どこの園もベタ花じゃったろう。

み ベタ花???

セ 花ばっかり咲いて、芽が出んような状態のことたい。

み あ、そういえば、オレの園も春は樹全体が真っ白に見えるくらい花が咲いてたなー。

セ 今年は九州全体でそんな状態。表年で着果量が増えておる。さらに、開花も早かったろう。例年5月のゴールデンウィークに開花するところが、今年は4月26日じゃった。

み そうか、1週間も早かったんだ……。

セ 「開花が早い」「着果量が多い」「熱帯夜」。この三つは浮き皮の前兆たい。トリプルパンチで条件が揃っとる!

ベタ花のミカン樹。今年は九州全体で、新芽が出ず、花ばかりで真っ白な樹が多かった
ベタ花のミカン樹。今年は九州全体で、新芽が出ず、花ばかりで真っ白な樹が多かった

浮き皮果は糖度がのらない

み あー、浮き皮、皮が浮いてくるやつね。簡単に皮がむけるから、オレ的には食べやすくっていいんだけど。

セ 生産者としてはそうもいってられんぞ。農協出荷しても光センサーではじかれるけん、等級が下がってC級品じゃ。A級なら1kg250円とか300円で売れるもんが、100円。手取りで50円とか30円にしかならん。

み うわっ、そりゃ大問題だね。

セ そもそも浮き皮になるとミカンの糖度が上がりにくい。皮が浮くのにも余計なエネルギーが使われてしまうし、光合成でつくられた糖分が果肉に行かず、果皮に持ってかれてしまう。おいしいミカンにはならんたい。

み そっか、皮がむきやすいって喜んでる場合じゃないんだなぁ。確かにセガっちゃんのミカンは皮が薄くて果肉にピタっとくっついてた。むきにくいけど、味が濃厚だったなー。

セ そう、わしは浮き皮ゼロたい。しかし、何もしないとトリプルパンチを食らってしまうぞ。

み そっかー、そこの仕組み、詳しく教えてよ。

ミカンの浮き皮果。果皮と果肉の間に空間がある (写真提供:北園邦弥)
ミカンの浮き皮果。果皮と果肉の間に空間がある (写真提供:北園邦弥)
セガっちゃんのミカン。薄い果皮が果肉にくっついてむきにくい。真っ二つに割るとじょうのうも薄くて破れてしまった
セガっちゃんのミカン。薄い果皮が果肉にくっついてむきにくい。真っ二つに割るとじょうのうも薄くて破れてしまった

皮がティッシュペーパー、あかぎれに

セ まず、浮き皮の原因は皮の老化たい。果皮が老化するのを例えていうと、ノートの紙がティッシュペーパーに変わるようなものぞ。ノートの紙はピチピチしとって少々の水ならはじいてしまうが、ティッシュペーパーはふにゃふにゃで水をすぐに含むじゃろ。そして、乾くとポロポロになる。老化した果皮もそういう感じで、湿り気を含むと細胞が膨張して、乾いたときに破壊される。そうして、果皮と果肉が離れるたい。じゃけん、ミカンの成熟が進んだ晩秋に雨が降ると、急激に水を吸って浮き皮が発生する。雨だけでないぞ。昼夜の寒暖差が大きくなるけん、天気のよい朝には果実の表面に結露がつく。その水分でも浮き皮が発生するたい。

み へー、そういう仕組みなんだ。

セ ちなみに、浮き皮は生理障害の一つじゃけんど、品種によっても出やすさが違ってくる。早生ミカンじゃと「石地」「させぼ」「田口」「川田」なんかの品種は浮き皮が出にくい。その代わり、クラッキングといって果梗付近がひび割れする生理障害が出やすい。中晩柑の「不知火」もそう。ひび割れから雑菌が入り込んで「水腐れ症」が発生しやすくなる。クラッキングは、冬の台所仕事であかぎれが出てしまうようなもんじゃ。

み あかぎれかー、痛々しい。ミカンも大変だなぁ……。

積算温度と エチレン生成が増える

セガっちゃんが借りている60年生の老木樹。大豊作で着果ストレスがしっかりかかっている
セガっちゃんが借りている60年生の老木樹。大豊作で着果ストレスがしっかりかかっている

セ で、最初に話したトリプルパンチについてじゃが、「開花が早い」と「熱帯夜」は、ミカンが成熟するまでの積算温度が増えることにつながるたい。九州で早生ミカンの収穫は11月のはじめから、12月中旬まで続く。開花が1週間早まれば、最初のほうの収穫には影響が出なくても、11月20日を過ぎると生育期間が1週間長くなった分の影響がもろに出て、浮き皮が一気に増えるたい。熱帯夜も同じで、積算温度が増えて成熟・老化が早まる。

 もう一つの「着果量が多い」は、樹へのストレスが増すことにつながるたい。満開から60日くらい経つと着果ストレスがかかってきて、植物ホルモンのエチレンの生成量が増える。この植物ホルモンは生長抑制に働いて、果実の成熟・老化を進める。生理落果で実が落ちたり、古葉が落ちるときの離層形成を促すのもエチレンじゃ。

み あっ、エチレンガスとかって聞いたことあるぞ。たしか、リンゴの実から発生するやつだよね。まだ青みがかったバナナとリンゴを一緒に入れておけば、バナナが早く追熟するってやつか。

セ そうじゃそうじゃ。さすが学生時代から成績優秀じゃっただけはある。エチレンがバナナの追熟を促すわけじゃな。

エチレンの作用を打ち消すには?

セ エチレンの作用は浮き皮を助長することも判明しとる。どうじゃ? 浮き皮の条件が整っとるじゃろー。

み ひゃー、さすがにトリプルパンチはヤバイよ、セガっちゃん。どうしたらいいんだい?

セ 焦らんでもよか。植物ホルモンを知れば、対策も見えてくるとよ。頭の中で、前ページの図をイメージしてみんね。成熟・老化を促す植物ホルモンには、エチレンとアブシシン酸がある。反対に生長を促す植物ホルモンにはジベレリン、サイトカイニン、オーキシンがある。

み ふーん、公園のシーソーみたいな図だな。

セ そうたい。シーソーの原理と同じで、樹が成熟・老化に傾いたら、生長促進の植物ホルモンを与えることで老化の流れを緩くする。エチレンが打ち消されて、老化のスピードを抑えてくれるとよ。実際に、浮き皮対策として試験場や普及所では、「植物生長調整剤」という植物ホルモンの成分が入ったクスリの使用をおすすめしとる。「ジベレリン乳剤+ジャスモメート液剤」とか、「フィガロン乳剤」の散布ぞな。ジベレリンも、フィガロンの成分のオーキシンも、生長を促進する植物ホルモンたい。ただし、このやり方だと、浮き皮は抑えられても、樹が栄養生長に傾いて着色が遅れたり、翌年の花芽がつきにくくなる場合もある。

み シーソーが反対側に傾きすぎたってわけか。

連載セガっちゃん

浮き皮対策に、ズバリ!あの肥料

セ じゃけん、わしはクスリではなく、アレを使うとよ。誰でも持っとる肥料じゃが、民間農法的に同じような効果が期待できる。

み アレ? 肥料?

セ 尿素じゃよ。ジベレリンは植物体内のチッソと関係が深くて、チッソ含量が高まればジベレリン含量も増大するし、反対にエチレンの生成は抑制するといわれとる。高いクスリを買わんでも、尿素の葉面散布が浮き皮対策になるわけじゃ。タイミングは早生ミカンが着色八分になる10月中旬から収穫直前まで、尿素の1000倍液を2週間に1回葉面散布する。わしはそれにカルシウム資材の「カルビタ」1000倍とケイ酸資材の「ロイヤルシリカPK」800倍も加えとる(ともにロイヤルインダストリーズ)。カルシウムは細胞をくっつけたり、エチレンの生成を抑える働きがあるし、シリカをやると結露しても果面の乾きが早くなる。これで兼業時代も含めて 30年間、まったく浮き皮を出しとらんよ。

「カンキツと対話!セガっちゃんの植物ホルモン塾」は現代農業2023年8月より絶賛連載中!ぜひ本誌でご覧ください。

  • 第1回(2023年8月号) 老木園を若返らせる
  • 第2回(2023年9月号) 今年は浮き皮が大発生!?

今月号のオススメ動画

動画1
鉢植えカンキツ 市場から引っ張りだこ!
動画2
唾液で育つ !?  幼少期の子牛に ヘイキューブ

今号のオススメ動画は画像をクリックするとルーラル電子図書館へ移動します。動画は公開より3ヶ月間無料でご覧いただけます。

新版 せん定を科学する

樹形と枝づくりの原理と実際

菊池卓郎・塩崎雄之輔 著

間引くより、切り返したほうが強く枝が反発する? 切り上げより、切り下げのほうが落ち着いた枝がつくれる?プロでも迷うせん定のわざを科学的に体系だて、実用的に提示。よく成る枝・樹形づくりのリクツが読める。