現代農業2023年9月号の第2特集は「農家だからできる 自家製麦芽のビールづくり」です。いまどき、地場産のホップをつかったビールはよく見かけますが、地場産のビール麦栽培、しかも「麦芽づくり」にまで取り組む農家はまだ少ないのではないでしょうか。9月号特集記事のなかから1本のみ公開します。
長野・斉藤岳雄

耐寒性「小春二条」を栽培
長野県安曇野市の大地で、70haで水稲をメインに小麦やダイズなどの土地利用型農業経営を行なっています。いっぽうで、市内で誰も栽培していない作物もつくっています。それが、ビールに欠かせないビール麦とホップです。
2016年、市の農政課から「地元のブルワリーが安曇野産ホップを使用したビールを醸造したがっている」と聞き、とんとん拍子でホップ栽培を始めることになりました。同時に、ビール麦だって地場産をと思い、二条大麦の試験栽培を1年行ないました。この地域で二条大麦をつくるのは初めて。ちゃんとできるかなあと不安でしたが、耐寒性品種「小春二条」なら霜害も受けず、収量が確保できる見込みがついたので、翌年から本格的に栽培を始めました。

稲作の施設や機械が使える
ホップは収穫後、生のままか、乾燥すればブルワリーに卸せます。いっぽうビール麦は、麦芽にして納めなければいけませんでした。市や関係機関に相談し、麦芽製造を委託できる会社は見つかりましたが、小ロットだと輸送費や製造費でコストが高くなります。加えて、持ち込むには玄麦の燻蒸処理を済ませる必要もあり(害虫を持ち込む危険性があるため)、難しいと判断。
しかし、栽培が成功したので何とか麦芽にしたいと、さまざまな資料を調べたところ、稲作で使う施設や機械を活用すれば、自分でも麦芽がつくれることがわかりました。
イネの催芽と全然違った!
最初は、水稲と同じように催芽器で芽を出させればいいかという考えでした。しかし調べるほどに、麦芽製造はとても奥が深い! 水稲の種モミの催芽のやり方とは大きく異なることを痛感しました。
麦芽づくりを簡単にいうと、 浸漬 →芽出し→乾燥→芽切り・根切り→ふるいにかけて完成です。水稲の芽出しと比べるとものすごく時間のかかる作業です。試行錯誤した結果、いまどのように麦芽製造をしているかを紹介いたします。
私の麦芽のつくり方
①玄麦を浸漬(2日間)
醸造所から連絡が来たら製造します。まず玄麦をネットに入れ、水に浸けます。注意していることは、1日最低2回は水を替えること。水中の酸素がなくなると麦の発芽が悪くなるからです。2日間交換せずにおいたときは、変なニオイがして発芽しませんでした。

②芽出し(6~7日間)
浸漬した玄麦を水切りして、一定温度(12~15°C)に保てる部屋にブルーシートを敷き、1~2㎝の厚みになるように広げます(厚いと蒸れ、薄いと乾きすぎる)。時々ジョウロで水をまき、玄麦が常に湿っている状態にします。かつ、1日3回は攪拌して上下を入れ替え、均等に芽が出るようにしてあげることが重要です。
発根は3日ほどで確認できます。発芽は水稲と違い、根が伸びてきても芽はムギ殻の中で根の反対側へ伸びるため、目視できません。芽の伸び具合は殻を除いて確認します。ビール用の麦芽製造では、芽がムギ粒の大きさ(長さ)の2/3~3/3伸びたら完了させます。この時の麦芽は容易に指でつぶせます。

③乾燥
食品用の電気乾燥機を購入しました。初めは低温でしっかり乾燥して発芽を止めてあげます。その後徐々に温度を上げ、最終的に80°Cで5時間ほど乾燥して仕上げます。

④芽切り・根切り(除根)
乾燥後も麦芽の根が絡み合い、芽が出ているものもあります。これらはビールの雑味の元になるので、循環式精米機で粒同士をゆっくり擦り合わせて取ります。脱芒機でもいいと思います。

⑤ふるいにかけて完成
私は芽や根を完全に取り除きたいので、さらに手作業でふるいにかけて完成。醸造所に納品します。

農家仲間でブルワリー設立

麦芽が完成しても、成分値(タンパク含量やジアスターゼ力など)がビール醸造に適していなければいけません。そこで最初は納品先のブルワリーに協力いただいて成分分析にかけたところ、問題なく使えるとのことでホッとしました。麦芽製造にも自信がつきました。2019年、自家産麦芽とホップを使った「安曇野エール」が誕生。地元でも話題となりマスコミなどにも取り上げられるようになりました。
そして安曇野の農産物を使用したビールをもっと広げたいという思いから、22年には農家仲間2人と一緒に(合)安曇野ブルワリーを設立し、発泡酒製造免許(年間製造量6kg以上)を取得しました。酒類販売免許も取得して直販するほか、県酒販(長野県酒類販売㈱)を通して量販店や道の駅でも販売。月1000L以上売れています。ビール麦栽培と麦芽製造を成功させたことで生まれたビールが、農業経営の柱の一つになりました。
現在二条大麦は80aで栽培しており、収量は約3.5t。うち2tを麦芽にしています(残りはJA出荷)。麦芽は自家醸造用だけでなく、昨年は県内酒造メーカーからの要望で、ウイスキーの原料として納めることもできました。麦芽はほとんどが外国産。地場産麦芽が注目されていると思います。

2023年9月号の第2特集は、「農家だからできる 自家製麦芽のビールづくり」です。ぜひ本誌でご覧ください。
・発酵仲間と仕込めば楽しさ倍増 麦芽づくりは ムシロ と ワラ束 で 福岡五郎
・ムギからビールができるまで
◆ 麦芽づくりのコツ
地場産麦芽に需要あり 稲作農家、麦芽づくり始めました! 斉藤岳雄
失敗しない麦芽づくり 含水率 を測れば発芽揃いが抜群に 秦秀治
赤もろこし も 芽出しは黒い車のトランクで 鎌倉彬
委託醸造ってどうやるの? マイクロブルワリーに聞いてみた
2023年9月号の無料試聴
「現代農業VOICE」は、現代農業の記事を音声で読み上げるサービス(購入者特典)ですが、このサイトでは、現代農業VOICEの一部を試聴できます。画像をクリックするとYouTubeチャンネルへ移動します。
農家が教える わくわくマメつくり
栽培・保存・加工・レシピ
農文協 編
エダマメ(ダイズ)、インゲン、ラッカセイ、アズキ、エンドウ、ソラマメの栽培のコツ、貯蔵法、レシピ、健康機能性、加工など、マメのことがまるごとわかる本。混植、緑のカーテン、プランター栽培のコツも