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ここが変だよ日本の有機農業(第7回)有機農業への支援が少ない日本

西尾道徳みちのり

EUとアメリカの有機農業支援

 EUは1980年代まで、域内の農業生産を奨励するため「輸出補助金」を支給していた。域内の農家から国際相場より高い価格で農産物を買い上げ、域外に輸出する際には国際相場よりも安い価格で販売。その差額を補填するのが輸出補助金だ。

 これによってEUは、伝統的な農産物輸出国のアメリカやオーストラリアなどの輸出を大きく減額させた(シェアを奪った)。しかしこれは、農産物貿易を歪める農業支援とされ、自由貿易を推進するガット・ウルグアイラウンドで禁止することが決定された。

 EUは農業生産そのものを拡大させる政府支援や、生産された農産物の価格保証を大幅に削減。その代わりに、集約農業による環境汚染や農業景観の破壊、農村生物の多様性の劣化などを回復・保全するため、投入資材を減らして生産効率の悪い環境保全的な農業を行なう農家に、単収や農業所得の減額分を補填する政策を行なうことでウルグアイラウンドが決着した。

 これを受けてEUは、加盟国が定めた環境保全的農業事業に参加する農業者に補助金を支給する「農業環境規則」を92年に導入した。

 これは、農村地帯のよさや大切さを認識してはいるが、集約農業による環境汚染や劣化を憂慮していた都市住民の賛意を得た。従来の政策は、農産物の生産に支援金を支給するものの、農業や農村の環境の保全には支援金を一切支給していなかった。このため、集約農業による環境の汚染や劣化は野放しになっていた。これは市場の失敗であるとして、EUでは有機農業が環境保全農業として位置づけられ、政府が支援金を支払うことになったのである。

 一方、アメリカは貿易自由化の原則から、政府は農業支援金を出さないのが原則だが、EUの動きを受けて、収量や収益を減らしたうえでの環境保全的農業には、有機農業を含めて、補助金を支給するようになった。

 繰り返しになるが、政府が生産拡大のために農業補助金を支給するのは貿易自由化に反するが、生産を縮小して環境保全を図るのに助成するのは是認されるのである。

OECD各国が有機農家に行なっている支援(2015年)
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OECD各国が有機農家に行なっている支援(2015年)
オーストラリア、チリ、イスラエル、メキシコ、オランダ、ニュージーランドはすべて該当なし
フランスには有機農家への優遇税制措置、ノルウェーとトルコには生産量支払いもある

OECD各国の有機農業に対する支援

 上表に、OECD(経済協力開発機構)国政府が行なっている有機農業支援の概要を紹介する。これはOECD事務局が加盟34カ国に対して行なったアンケート調査の結果(2014年、ポルトガルを除く33カ国が回答)に基づくものである。

 回答のあった33カ国のうち、オーストラリア、チリ、イスラエル、メキシコとニュージーランドの5カ国は、政府予算による有機農業および有機食品支援方策を行なっていない。

 オランダも、EU国と異なり、何らの支援も行なっていないことになっている。オランダは1920年代以降、有機農業の長い歴史があり、EUの有機農業規則が作られた91年以降、いくつかの民間有機農業団体が活躍している。オランダ政府はそれまで共通農業政策などを利用して有機農業を支援してきたが、民間の有機農業団体の発展を踏まえ、国の仕事はEUの有機農業規則を守っているかどうかのモニタリングなどに限定。有機農業を含む環境に優しい農業の支援は継続しているものの、有機農家だけを対象にした直接支援は2014年から止めている。

 33カ国のうち、上記6カ国を除く、27カ国の政府は、何らかの支援を有機農家に対して行なっている。

 

①有機農家に対する支援

 有機農家に対する支援で広く行なわれているのは、「直接面積支払」(注:有機農地に面積当たりの単価を支払うもので、作目によって単価が通常異なる)である。

 52%の国が有機農業への転換に支払いをしていて、58%の国が有機農業継続のための何らかの支払いを行なっている。ただしカナダ、チェコ、ギリシャとイタリアは、面積支払いによる直接支援を有機農家に行なっていない。

 EU加盟国での有機への転換に対する支払いは、最初に92年の「農業環境規則」(規則No.2078)で実施された。その後は2013年、農村開発のためのヨーロッパ農業基金に関する規則(規則No.1305)の第29条に基づいて有機農業が支援されている。

 有機農業への転換と継続に対して、1ha当たりの年間支援額は、1年生作物で600ユーロ(15年10月の平均相場は1ユーロ137円)、指定された永年生作物で900ユーロ、その他の土地利用で450ユーロと規定されている。

 

②有機マーケティングに対する支援

 政府は有機産物のマーケティングにも支援として、有機フェアの開催への支援(33カ国中13カ国。39%)や、有機産物販売のための戦略策定に対する支援(33%)を行なっている。

 また、政府機関のレストランや学校給食などで有機産物を調達することを法律で定めた公的調達は広くは実施されておらず(18%)、ヨーロッパ(デンマーク、フランス、アイルランド、イタリア、ノルウェー、スイス)で見られるだけである。これには行政や学校、その他のケータリング業務で、有機産物調達の義務割合や有機メニューへの補助金が含まれている。

 

③その他の支援

 その他の支援として、過半の国が、有機の農業と食品に関する研究プロジェクト(58%)や、業界情報の提供(55%)を支援している。こうした国々は情報や総合的な推進キャンペーンを提供したり、情報や推進キャンペーンに資金提供を行なったりしている(39%)。

 このように、基本的に政府支援を行なうべきでないとするオーストラリア、ニュージーランドなどの一部の国を除くと、日本政府が行なっている有機農業への支援は、OECD国のなかで少額といえる。

 支援を増やそうにも問題がある。有機農業による環境保全に政府の支援を増やすには、有機農業基準の中に遵守すべき環境保全規則を具体的に記述してあることが必要である。しかし、日本の有機農業基準は、環境保全で生産物の安全性確保をはかる具体的方策が乏しい(現代農業22年5月号p292、連載第4回参照)。

 そして、日本では全般に、農業による環境汚染や環境破壊を行政が公表したがらない風潮がある。こうした状況を突破して、ぜひとも、環境を保全する農業への政府支援金を増額してもらいたいものである。

著者紹介

東京都出身。農学博士。1969年農林省(農水省)入省。農業環境技術研究所長、筑波大学生命環境化学研究科教授、日本土壌肥料学会会長などを歴任。著書に『土壌微生物の基礎知識』『有機栽培の基礎知識』『検証 有機農業』(いずれも農文協刊)など。

検証 有機農業

西尾道徳 著

本書は、世界的に見た有機農業誕生から現在までの歴史、各国の有機農業規格、農産物品質・環境への影響、食料供給などの可能性を示し、日本での有機農業の課題を明らかにする。