「春は播き急ぐな、秋は播き遅れるな」という常識を覆し、無農薬栽培では「春は早く、秋は遅く」播くほうが害虫被害を減らし、良質な作物が育つ?山下さんがトウモロコシをつくり始めた30年前は、3月のお彼岸頃にタネを播き、実が膨らんでくる7月頃、アワノメイガの被害が多くなり困っていました。しかし、早播きをするようになってからは、アワノメイガにほとんど困らなくなりました。
兵庫・山下正範
タネ播きの常識が逆転!?
昔からの言い伝えに「春は播き急ぐな、秋は播き遅れるな」という言葉があります。露地で無農薬の野菜つくりを30年近くやりながら、この常識が逆ではないかという思いを強くしています。最近は「秋はできるだけ遅くまで播き、春はできるだけ早くから播き始めたほうが、無農薬できれいで立派な野菜ができる」と思うようになりました。気温が低いときのほうが、悪さをする虫の密度が低く、活動が鈍いからです。
たとえばダイコンは「村一番」(松永種苗)という品種を10月上旬に播いていたのですが、これを2週間以上遅らせて10月中旬から11月初めに播くと、シンクイムシやダイコンサルハムシなどの被害に遭いません。さらにこの品種は超晩抽性。地域でよくつくられている青首系ダイコン(耐病総太りなど)がトウ立ちを始めて品薄になってくる3月初めから4月初めに直売所に並べて売れるのです。果肉がやわらかく煮物にしておいしいと評判です。
トウモロコシ
早播きはアワノメイガに困らない
おっと、与えられたテーマは「トウモロコシやエダマメの早播きについて書け」というものでした。
僕がトウモロコシをつくり始めた30年前は、3月のお彼岸頃にタネを播いていました。実が膨らんでくる7月頃、必ずといっていいほどアワノメイガの被害が多くなり困っていました。しかし早播きをするようになってからは、アワノメイガにほとんど困らなくなりました。
そもそものきっかけは、戸澤英男さんの『スイートコーンのつくり方』(農文協)という本です。そこには「できるだけ早く播いたほうが、安全でたくさんとれる」と書かれていました。この本は残念ながら今は在庫切れで、手に入らないので少し詳しく紹介します。
「早播きしたコーンは少し短桿で丈夫な生育をする。したがって倒伏しづらい」「収量は一般に多収になり、病害虫の被害の回避は、とくに暖地で効果的」「霜の被害は、覆土を深くしてやれば大丈夫。生長点が土中にあるので3葉期頃までなら地上部が枯れてもすぐ回復し、生育・収量にあまり影響がない」等々。
2重べたがけで大丈夫
これを読んでから早播きにチャレンジするようになったのですが、最初は直播きだったのを、育苗して黒マルチに苗を移植するようになってからは、収穫時期が一気に早くなりました。黒マルチの地温上昇効果は大きいと思います。品種は「わくわくこーん82」(カネコ)。2024年は2月12日に播種して10日ほど育苗してから若苗を定植し、6月5日から直売所で売り始めました。この品種の作型表を見ると、メーカーが推奨する時期より2カ月近く早く播種していることになります(下図)。
僕の住む兵庫県姫路市は、瀬戸内地方で比較的温暖な気候ですが、姫路は寒気の通り道に当たっているようで、寒の底の2月初めは最低気温がマイナスになることがしばしばあります。植えたばかりの小さな苗は、霜でやられそうですが、不織布を2重がけすれば、しっかり育ちます。保温力の高い高価なべたがけ資材を使わなくても、安価な2重がけで十分効果があるのです。
ちなみに育苗は、セルトレイにバーミキュライト100%の培土で海砂を覆土する方法です(2024年3月号p135)。古いイネの育苗器を使って28°Cの温度設定だと3日で発芽します。その後、電熱マットを敷いた育苗ハウスに置き、本葉2~3枚になったら定植します。胚乳にまだ養分をしっかり持った若苗定植です。
エダマメ
早播きはカメムシ被害に遭わない
次にエダマメです。当地では丹波黒の晩生エダマメが定番で……
この記事の続きは『現代農業』2025年2月号をご覧ください
(兵庫県姫路市)
『現代農業』2025年2月号 特集「通用しない従来の暦 品種と播き時 本気で見直すしかない」には、以下の記事なども掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。
- 【ブロッコリー・ダイコン・カブ】今までの常識は捨てて新作型を生み出す(茨城・布施大樹さん)
- 【アズキ・ダイコン】普通じゃ考えられない遅播きで正解(茨城・柳下満里子さん)
- 【ナシ】晩生品種は煮え果にならない甘太と王秋でいく 大澤一樹
- 【イネ】コシヒカリに苦戦 高温、倒伏に強いにじのきらめきに期待 馬田雄大
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農家が教える トウモロコシつくり コツと裏ワザ
農文協 編
人気のトウモロコシ栽培のコツと裏ワザ集。トウモロコシ栽培の「どうしたらいい?」に農家の実践で答え、「どうしてそうするのか?」に図説で答える。おいしい食べ方、収穫後の茎葉の活かし方までわかる。