現代農業2024年9月号の巻頭特集は「ブロッコリー」。『タネ屋がこっそり教える 野菜づくりの極意』(農文協)の著者・市川啓一郎さんから、「包丁で1回カットするだけでちょうどいい大きさのスティック状になる」品種や、「わき芽がよく出る」品種など、おすすめ品種をご紹介いただきました。
市川啓一郎
簡単調理野菜が求められている

「サラダ感覚で食べられる。カットして炒めるだけか、電子レンジでチンするくらいの簡単な調理でおいしくいただける……そんな野菜ならよく売れる」「出汁を利かせたり、調理に熟練を要する和風料理などに使うような野菜はだんだん売れなくなった」と、タネ屋の店頭に長く立っていると肌で感じます。野菜市場には大きな変動が起きています。調理を厭わないお年寄りが次第に減り、手間暇をかけることを嫌い、短時間で食事の支度ができることを第一とする若い世代が確実に増えているからです。
数十年前に主力であったダイコンやハクサイ、カブなどに代わって、近年生産量が拡大している作物の筆頭がブロッコリーなどの簡単調理向け洋風野菜ではないでしょうか。私が住んでいるのは西南暖地の長崎県ですが、九州全県、日本全体、世界全体を見ても生産量と作付けは増加傾向にあります。
丈夫だから育てやすい
ブロッコリーは調理が簡単なだけでなく、たいへん栽培しやすい野菜です。DNA的にはケール、キャベツ、カリフラワーと親類ですが、野生に近いケールの次に丈夫だと思います。近縁のカリフラワーに比べると生育が早く、育苗も容易で、根系は小さいのによく育ちます。発芽、初期生育、定植後の活着、生育トラブルからの回復もキャベツより旺盛です。
プロ農家ならセル苗をちゃっちゃと植えれば、約2カ月後にはハイできあがりという感覚をお持ちの方が多いのではないでしょうか。うがった見方をすれば、つくりやすいからこそ栽培面積の急拡大も可能だったのかもしれません。
生産者も消費者も喜ぶ品種
ブロッコリーの品種を選ぶポイントは、生産者目線だと、①つくりやすいこと、②病気に強いこと、③収量が上がること、④花蕾の粒が揃って形状が美しいこと。一方、消費者目線だと、①茎がやわらかいこと、②日持ちすること、③調理しやすいこと。これらの視点からおすすめの品種をご紹介します。
▼えのきブロッコリー(増田採種場)
新品種で、新感覚のブロッコリーです。わき芽を収穫する茎ブロッコリーに似ていますが、一味違います。茎まで甘くて、旨みが強いのです。普通の品種とは花蕾の構造がまったく違い、茎が内部で細かく枝分かれしているので、包丁で1回カットするだけでバラバラになり、ちょうどいい大きさのスティック状のブロッコリーに小分けできます。調理がラクなので、コックさんはたいへん喜びます……きっと。

▼ピクセル(サカタ)
茎葉が元気です。頂花蕾どり専用となっていますが、おいしい側花蕾(わき芽)もたくさん収穫できます。ただし、生産地では側花蕾を選別する手間暇をかける余裕はまったくありません。現状、頂花蕾どり、側花蕾どりといった分類は有名無実化していると思われます。あと、花蕾の色が濃い、花蕾位置が高く収穫作業がラク、病気に強いなどの特徴もあります。
▼おはよう(サカタ)
ブロッコリーは地中海沿岸が原産地です。カラッとして、雨が少ないpH高めの水はけのよい土壌を好みます。一方、日本は酸性で重く水持ちのよい土壌が多いです。そのため、高品質のブロッコリーづくりのためには土づくりが必須です。
おはようは全国で幅広く栽培されている実績があります。つまり、環境適応力が非常に高く、どんな畑にも、田の裏作にも適する品種です。アントシアンが出にくく、花蕾が濃く美しい。また、ピクセルに比べてコンパクトで、やや密植して収量が上がります。
▼グランドーム(サカタ)
根張りが強く、湿地でもつくりやすい。花蕾を大きくしても、締まりがとてもよい。といった利点があります。
▼アンチョビ菜(市川種苗店)


キャベツとブロッコリーのいいとこどりをした新しい野菜です。てっぺんの花芽を早めに摘心しておくと、茎ブロッコリーに似たわき芽がこれでもかといわんばかりにたくさん収穫できます。普通の茎ブロッコリーは葉がおいしくありませんし、茎が太ると硬くなってしまいます。しかし、アンチョビ菜はどこを食べても美味。葉も茎もやわらかく、葉を煮込んでもキャベツのようにドロドロになりません。
基本は7~8月播きですが、それ以降も春まで広い作型に適応できることがわかってきました。いつでもつくれるという大きな特徴も持ち合わせています。
(長崎県佐世保市・市川種苗店)
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