2023年の夏はとてつもなく暑さで、野菜も果樹もイネも高温障害が発生し、収量が半減した産地も。そんななか、力を発揮したタフな品種も確かにありました。現代農業2024年2月号の巻頭特集「激夏で見えた品種の底力」のなかから、猛暑に強かった自家採種した野菜の記事を試し読みとして公開します。
千葉・ 下村京子
雨がほとんど降らずに全滅
2023年の夏、私の畑はさんざんでした。
前の年に空中栽培したカボチャがよくできたので、今度は畑を拡張して、5種類のカボチャ(鶴首、バターナッツ、栗てまり、長野在来ハッパード、ケイセブン)を地這いで植えました。「うふふ、8月になれば足の踏み場もないほど葉が茂り、カボチャが困るほどとれるはず」と期待していたのですが……。結果は、全滅。
私がいすみ市で借りている畑は自宅から遠く、週に一度しか行くことができません。ほとんど雨が降らなかった23年は、7月頃まで生長していたキュウリもヘチマも途中でダメになりました。数年来、育てている和綿もいつもの半分以下の大きさで、ワタも少ししかとれませんでした。直売所に野菜を卸している隣の畑のおじさんも「水やりが追いつかず、ショウガの9割がダメになった」と嘆いていました。
そんななか、私の畑で元気だったのが「在来青ナス」(自然農法センター)と「阿蘇ササゲ」です。
売るほどとれた在来青ナス
在来青ナスはスーパーで見かける黒ナスより大きく、実の長さが20cmを超えてもやわらかくて、タネも気になりません。私は3年前にタネを購入して以来、自分でタネ採りをしています。他の野菜もそうですが、タネ採りをしながら育てると、年々収穫量が増えるような気がします。
23年は発芽率がよく、調子に乗って苗をたくさん植えました。7月に入ると大量にナスがとれ始め、ご近所や友人に配りまくり、それでも食べきれない分は無人販売所に置いてもらい、初めての売上金を手にしました。
在来青ナスは輪切りにしてフライパンで焼くと、トロッとしておいしいです。長期保存したければ、皮をむいて蒸してからポリ袋に入れて冷凍できます。これを後日、解凍し、小麦粉をまぶして蒲焼き風にしたら、ご飯が止まりませんでした。
ナスは肥料や水をほしがる作物と聞きます。水やりも十分にできず、大した世話もしていないのに、どうしてこんなにできたのか不思議です。私がよく見る農チューバーが「ヘタの青いナスは暑さに強い」と言っていたので、これもうまくいった理由の一つでしょうか。
ナスは11月半ばまで収穫できました。タネをたくさん採ったので、『現代農業』のタネ交換会に提供しますよ。
放っておいても育つ阿蘇ササゲ
もう一つ、元気だった阿蘇ササゲは、23年のタネ交換会で熊本県の方からいただいたものです。5月後半に直播きすると、ぐんぐん伸びてキュウリネットを伝っててっぺんに届き、折り返して防獣ネットに到達。そのあとは地面に広がっていき、まるで暴れているようでした。タネをくださった方の手紙には「放置していても多く実をつける」とあり、ここ千葉でもその通りでした。サヤの長さは25cmほどで、乾燥したサヤから取り出した豆は、炊き込みご飯やお汁粉などにして楽しみました。
ササゲには特に肥料もやらず、水やりも後回しでしたから、なぜこんなに強かったのかわかりません。放っておいたら近くの野菜を覆いつくしてしまったので、次は間隔をあけてタネを播くつもりです。
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23年の夏の暑さと雨の少なさは異常でした。きっと次の年もその次の年も同じでしょう。異常気象による野菜価格高騰のニュースを見るたびに、これからは畑を持っている人がうらやましがられる時代になると思っています。(千葉県佐倉市)
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失敗しないポイントと手順
(公財)自然農法国際研究開発センター 編
自家採種はけっしてむずかしくない。要点さえ押さえれば、家庭菜園の延長でだれでも楽しむことができる。本書は、育種の解説を菜園愛好家や農家にとって必要な範囲に絞り、自家採種のノウハウ、失敗しないポイント、収穫と採種を両立させる方法を余すところなく紹介する。他社本にはない詳細な手順写真をいれて解説しているのも大きな特徴である。本書を読めば、農家はもちろん、小規模な家庭菜園でも、収穫を楽しみながら生命力が強く美味しいオリジナル品種を育てられる。