【出る本紹介 by 編集担当】のコーナーでは、農文協から出版される書籍などについて、編集担当がとっておきのお話を紹介します。今回は、多くの予約注文を受け、専門書としては異例の発売前増刷が決定した書籍『アグロエコロジー』(11/20発売)の連載第2回目。一見難しそうな専門書を気持ちよく読んでもらうにはどうしたらよいか?目を引くようなコメントの本の帯はどうやってつくるのか?本が出版される直前になにが起きているのかをお話します。
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「アグロエコロジー」ってなに?
21世紀に入り地球環境問題と食料安全保障が重要な課題となるなか、資源やエネルギーを大量投入し、規模と効率を追求する工業的農業が立ちゆかないことが明らかになっています。
アグロエコロジー(農生態学)とは、それらを乗り越えるサステナブルな農業生産と食料消費を実現するため、さまざまな視点から探求する学問のこと。「科学」と「実践」と「運動」をつなぐ新しいキーワードとして、国際的に注目されています。
編集部・はっち
使いやすさへのこだわり、誌面のデザインにもひと工夫
『アグロエコロジー』の誌面のデザインしたのは、長年月刊『現代農業』の組版(くみはん:印刷物などの紙面に文字や写真、図版などの原稿を配置し、紙面を作り上げていくこと)をしてきた担当者です。
本文は、B5判の横組み2段、500ページを超えるということで、当初は、農文協の本で例えると『農業技術大系』や『最新農業技術』など、教科書や論文集的なデザインをイメージしていました。
本書は同じ横組み2段でも、文字の大きさを0.5ポイント大きくし、行数を2行減らすことで余白を出して読みやすくしています。
ほかにも、図表・写真を大きく入れて、メリハリを付けています。
欧米で出版された原著にはない、章ごとの「ツメ」(本を開く側に付けた見出しのこと。インデックスともいいます)も付けたので、読みたいページが探しやすくなっているんです。
手に取ってパラパラとめくってみると、思っていたよりも読みやすい!と感じてもらえると思います。
本書の特長の一つが、豊富な【事例研究】と【トピックス】です。ここは文字の書体を変え、背景に色を敷いて本文と差別化しました。
また、各章の最後には、「●思考の糧●」という質問項目があります。これは、大学のゼミなどで議論する際に役立つ問題提起となっています。
この部分のデザインも本文とは少し異なる、目立つようなデザインにしてもらいました。
締切ギリギリまでねばった末にうまれた、帯コメント
本書の帯の推薦のコメントは、京都大学准教授で、20世紀の食と農の歴史や思想について研究されている藤原辰史さんにお願いしました。
農文協からは『食べるとはどういうことか』という本を出版されており、協会内では藤原先生にぜひ!という強い要望がありました。
帯コメントを依頼した当初は「最近、推薦の依頼が多いのですが、安売りはしたくないので、本の内容次第ではお断りするかもしれません」というお返事で、少々雲行きが怪しいスタートでした。
それでも、ぜひ、目を通してほしい!という思いを伝え、本書の再校ゲラ(入稿前の原稿データのこと)を送りました。すると、5日後に「本当にざっとですが目を通しました。とても重厚かつコンプリヘンシブ(包括的)な教科書で驚きました。喜んで帯を書きたいと思います」という返信が届きました。ふう、これで一安心。
原稿をワクワクしながら待つこと1ヵ月。締切が迫ってきましたが、なかなか原稿が届きません。気になって藤原先生に進捗具合をたずねると、「まだ読み切れておらず、あと10日時間をください…」と返信があったので、とにかく信じて待ちました。
そして、9日目の夜11時49分54秒に着信あり。
「ギリギリまでお待ちいただき、ありがとうございました。想像以上に素晴らしい本で、編集部と訳者の皆様にお礼を伝えたいです。帯で使えるように、言葉を選び抜いたつもりです」というコメントとともに、以下の一文が届いたのでした。
根本から知らなければ、根本から変えることはできない。
水、風、土、光、植物、動物、人間が複雑にからまりあう農業という現象を、かくも魅力的に描いた書物を私は知らない。
そう、農業を学ぶとは、地球をまるごと学ぶことだったのだ。
長いあいだ自然と人間に傷を負わせてきた工業的農業からアグロエコロジーへの道筋を、
自然科学の厳密な論理と具体的な事例を交えて説くこの新時代の農書を手にすれば、
もう未来に怯える必要はない。
512ページの本書を隅々まで読んでいただいたからこそ出てくる言葉の数々。本質をついた的確な表現と、未来に向けた前向きなエールに心が震えました。
深夜にもかかわらず、自宅でガッツポーズしたことはいうまでもありません。
編集部・はっち
『有機農業と慣行農業』『小さいエネルギーで暮らすコツ』『使い切れない農地活用読本』などの単行本の編集を担当。編集者でありながら、体当たり企画に抜擢されることもしばしば。過去一番大変だったのは「「米は太る」に異議あり!ご飯ダイエットに挑戦してみた」。
アグロエコロジー 持続可能なフードシステムの生態学
スティーヴン・グリースマン 著
村本穣司 監訳
日鷹一雅 監訳
宮浦理恵 監訳
アグロエコロジー翻訳グループ 訳
持続可能な食と農のあり方を考える「科学・実践・運動」の新しいアプローチ『アグロエコロジー(Agroecology)』待望の日本語訳。アグロエコロジー(直訳すると「農生態学」)は、飢餓や環境破壊を引き起こす大規模・集約的な農業のあり方を変えるために生まれた新しい「科学」であり、原著は欧米を中心に教科書として広く使われている。アグロエコロジーは、自然の力を高める有機農業や自然農法の「実践」を広げる。また、環境や農業の分野に留まらず、経済・社会・文化の多様性を目指し、既存の価値観を転換する「社会運動」でもある。
本書の読者からの反応や書評など、本の内容に関わる情報は「とれたて便」から見ることができます。
ほんとうのサステナビリティってなに?
テーマで探究 世界の食・農林漁業・環境
関根佳恵 編著
食べることや農業に関する「当たり前」を、もう一度問い直します。サステナブルな社会の実現につながるアイデアを、第一線で活躍する研究者たちがデータも交えて丁寧に解説します。自ら探究し、考えるための一冊。