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【動画あり】バケットでライムギ倒し成功! 排水よし、土壌流亡もなし

福島・ 武藤政仁

現代農業2023年5月号巻頭特集「カバークロ ップ&生き草マルチ」の記事なかから、試し読みとして1本公開します。この記事は、土壌改良に役立つライムギをつかって不耕起栽培をしている武藤政仁さん(福島県)の記事です。

動画再生

ライムギ倒しのようす(画面をクリックすると再生されます)

切り花中心の経営

 福島県二本松市の二本松ICより東に約8㎞。平坦地の少ない中山間地域で切り花を中心に野菜や枝物を栽培しています。切り花は大型ハウス約 33a、パイプハウス約 26a、露地約 10aで生産。私たち夫婦と息子夫婦、パート2人で、スプレーマム、ヒマワリ、カンパニュラ、アスター、ハボタンなどを地元と東京都内の花卉市場中心に個人出荷しています。

 その他の畑地1.3ha で野菜を栽培。山林は2.7ha で、一部には花木等の枝物を栽植し、春のサクラの開花時期にはオープンガーデン(ムトーフラワーパーク)として一般開放しております。

耕作放棄地で不耕起に挑戦

 これまでまったくの慣行農法で、化学肥料や農薬を使用してきましたが、昔から自然農法や有機農法などに興味があり、いつかは挑戦したいと思っていました。
 そんな折、二本松市の農業の会議に参加し、福島大学食農学類の金子信博教授と出会いました。「これからの農業は、環境に優しい持続可能な農業」。金子先生の話は非常におもしろく、これならできるかもと思い始めました。また、先生が農場長を務める「あだたら食農スクールファーム」にて不耕起栽培の実践農場が開設されたので、2021年の春から参加しました。
 さらにこの年、地域の高齢農家から「耕作できないので農地を借りてもらえないか」との話がありました。4、5年耕作していない畑で、有機農法をするにはうってつけ。新たに約20aの圃場を借り、ライムギを使った不耕起栽培を始めることにしました。

5月中旬のライムギの様子。前年11月上旬に播種し、2m近くまで伸びた
5月中旬のライムギの様子。前年11月上旬に播種し、2m近くまで伸びた

乳熟期にバケットで倒す

 やり方はまず、秋にライムギを播種し、翌年の5月下旬頃、ムギの穂が結実する前に地際から倒します。するとライムギが起き上がることもなく、生きたまま敷きワラをしたような状態になります。
 畑は耕耘せずに不耕起のまま、作物を播種したり定植したりします。ライムギが土を覆っているので抑草効果があります。やがて枯れて分解され、作物の栄養となります。翌年は不耕起のまま、またライムギを播種するだけ――と、理論的にはすばらしい栽培方法です。
 わが家ではライムギを21年11月上旬に播種しました。トラクタで耕耘した後に、10a当たり8kgのライムギ(緑肥用)を、手作業でバラ播きました。無肥料でしたが、発芽後の生育は旺盛で、翌5月上旬になると丈が2m近くにもなりました。
 せっかくなので、いろいろな栽培方法を試すことにしました。
 まず圃場のうち 10a強で、5月下旬〜6月上旬の乳熟期(実をつぶして汁が出る頃)に地上部を押し倒しました。「ローラークリンパー」という緑肥などを踏み倒す専用の機械を使うのが理想ですが、日本にはまだありません。そこで私は、トラクタのバケット(ドッキングローダ)で同一方向に押し倒していきました。バケットを地面に下ろし、その重みで草をすりつぶしていくようなイメージです。簡単にきれいに倒すことができ、ムギが起き上がってくることもありませんでした。
 倒す時期もポイントです。ムギが若いうちに倒すと起き上がってしまう恐れがあり、逆に結実を待っていると次の作付けが遅くなります。

5月下旬、トラクタのバケット(ドッキングローダ)でライムギを押し倒した
5月下旬、トラクタのバケット(ドッキングローダ)でライムギを押し倒した

傾斜地の底に水が溜まらない

 草を倒した後、すぐにトマトやナスなどの野菜苗を定植しました。この圃場は傾斜地で、普通は下のほうに水が溜まったり、土が流れてしまいます。しかし、ライムギの根穴のおかげか傾斜地の底部でも排水性がよく、湿害で根が傷むことなく順調に育ちました。また地面が草で覆われていたので、土壌流亡もありませんでした。
 課題もありました。ライムギを播いた後に鎮圧しなかったので発芽率が悪く、ライムギの密度が低い場所が出てしまいました。播種時期も少し遅かったようです。結果、5月にライムギを倒しても地面が見えるような場所は、雑草がはびこり野菜が負けてしまいました。

土が驚くほどフカフカに

 残りの圃場では、5月にライムギを刈り取って地上部はハウスの敷きワラに使い、残った根部ごとトラクタで耕耘してみました。この時、土が非常にやわらかくてフカフカなよい感じになっていることにびっくり。一作だけでもライムギの根が土中深く張ったようで、これはすごいなと驚きました。
 ここはすぐにウネを立て、アスターの苗を定植。根腐れがとくに心配でしたが、排水性が改善し、傾斜地の底でもよくできました。ヒマワリのタネも、湿害なくきちんと発芽。無肥料ですが、切り花用に茎を細く硬く、花を小さめに咲かせることが理想なので、これまでより仕上がりがよくなりました。もし余分な肥料があっても、ライムギ栽培で畑をリセットできるのではと思います。
 ほかに一部で、2mに伸びたライムギを丸ごとすき込み、直後にアスターを植えてみました。ところがここは生育がガクンと悪くなりました。生のまま草をすき込む場合は、やはり腐熟させる時間が必要ですね。ライムギの不耕起栽培は、草を押し倒すだけだからすぐに次の作付けができるのだと実感しました。

6月上旬、ライムギをかき分けながらトマトの苗を定植
6月上旬、ライムギをかき分けながらトマトの苗を定植

今期は播種を早めて鎮圧

 金子先生の指導では、5月末のライムギの生育量を、乾燥重量で1kg/m2以上にすることが目標です。そのためには、極早生品種を10月中旬までに10a当たり8kg以上播き、軽く耕したり鎮圧して発芽率を上げることが大事になります。
 前年の反省を踏まえ、22年は播種時期を早めて10月10日に、10a当たり12kg程度を播きました。耕しはしませんでしたが、その後、バケットを使って鎮圧。おかげで昨年よりかなりよく発芽し、23年2月現在、すでに地表全面が草で覆われています。順調に育ってライムギの密度が高くなれば、倒した後の抑草効果も狙えます。今年は5月中下旬に地上部を押し倒す予定です。

2023年5月号の巻頭特集「カバー クロ ップ&生 き草マルチ」では、「畑一面カバークロップ——刈らずに倒す」と題して、次の記事も収録しています。ぜひ本誌でご覧ください。

  • 微生物が喜ぶ、土が肥える ローラークリンパーで倒して敷き草に(北海道・レイモンド エップさん)
  • ふわっと倒して、マルチ効果持続 ドラム缶クリンパー(愛知・松澤政満さん)
  • 手作り草倒し器 足で踏んづけるフットクリンパー 金子信博
  • 耕作放棄地の雑草、緑肥の細断・粉砕に リボーンローラー
  • 刈らずに倒すとなにがいい?

現代農業 2022年5月号

農文協 著

特集:いいぞ!緑肥 地力アップ&肥料代減らし

緑肥作物 とことん活用読本

橋爪健 著

ヘアリーベッチやチャガラシ、緑肥ヘイオーツにセスバニア…、近年続々と登場の新顔、新機能のお勧め緑肥。それぞれの特徴から導入の実際までを一問一答式で解説。環境保全・循環的な「最新緑肥ワールド」をガイド。