ある日、カンキツ農家の大村さんは気付いた。除草剤で手入れが行き届いた圃場の樹は弱っている一方、手入れが行き届かずに草むら状態の圃場の樹は、葉が黄化していない。さらに、草むら状態の圃場へ入ってみると、草露で長靴がビショビショに……。「下草があれば、高温干ばつ下でも樹勢が保てるかもしれない!」
熊本・大村卓司

熊本県玉名市で、両親と従業員1人の計4人でカンキツ類を栽培しています。栽培面積は12haで、温州ミカンが8割、不知火が1割、河内晩柑が1割。主な出荷先は熊本大同青果㈱です。
21年は落葉するほど樹勢が弱った

21年は前年が大豊作だったことから、春先から樹は「なり疲れ」の状態で、葉の黄化が目立ちました。そこに夏場の高温干ばつが重なったことで、多くの樹は樹勢が弱り、なかには黄化を通り越して落葉する樹もありました。樹勢回復をねらって例年以上にかん水してもなかなか効果は見られず、毎日重いホースを引っ張ってヘロヘロになっていました。
そんななか、ある日のこと。圃場を観察すると、除草剤で手入れが行き届いた圃場の樹は弱っている一方、手入れが行き届かずに草むら状態の圃場の樹は、葉が黄化していないことに気づきました。別の日の13時頃、気温38℃の炎天下に草むら状態の圃場へ入ってみると、なんと草露で長靴がビショビショになりました。
下草があれば樹勢を保てる
同年までは毎年3月から9月にかけて、月1回のペースで除草剤を全面散布して下草を管理していました。しかし前述の出来事から、「下草があれば、高温干ばつ下でも樹勢が保てるかもしれない」と考え、22年は草刈り中心の下草管理(草生栽培)に変えました。
下草は他の作業の合間をぬって、3回刈りました(5、8、9月)。圃場内の作業道は乗用モアで走り、樹冠下は刈り払い機を使用。背丈が低い広葉雑草が増えるように、高刈りも実施しました。ただしオオアレチノギク、ノゲシ、アメリカセンダングサなど背が高くなる草と、ヤブガラシなど放っておくと樹に絡みつくつる草は、適宜除草剤のスポット散布で処理しました。
草倒しもよさそうだ
2年間を経て、草刈りだけの下草管理と、除草剤だけの下草管理、それぞれで感じた主なデメリットは次のとおりです。
▼草刈りだけの下草管理
・春草を刈ると夏草は旺盛になり、春草の倍の密度で繁茂する。炎天下での草刈りは大変で、心がめげる。
▼除草剤だけの下草管理
・高温干ばつ下ではかん水が必要。
・長雨時には表土が流亡。団粒化も期待できない。
・除草剤代がかかる(年間30万~40万円)。
これらのデメリットをカバーできる方法として、『現代農業』に載っていた「草倒し」に注目しました(23年5月号p75)。記事には「春草を倒して園地を覆えば、夏草を抑えられる」「倒した草が地表面を保湿し、生きた根っこが土を耕して団粒構造をつくる」「春草を倒して夏草が遅れれば、除草剤は1回で済む」などとあり、興味を持ちました。
23年は高温干ばつを乗り越えた!

さっそくコメリで長柄の鎌を購入し、23年は夏草が繁茂する前の5月中下旬に草倒しを実施しました(上)。結果は記事のとおりで、倒した春草はそのまま敷き草となって夏草の発生を抑えつつ、地表面を保湿してくれました。なお、草倒しは基本的に樹冠下だけで、乗用モアでの作業道の草刈りと除草剤のスポット散布も継続しました。
23年は21年と同じく夏場に高温干ばつが続き、「樹勢が弱った」「玉伸びしない」などの話をよく耳にしました。そんななか、わが家は草生栽培のおかげもあり、樹は元気そのもの。玉伸びもよく、9割以上が生果で出荷できました。21年は5割ほどしかなく、残りはキロ単価の低い加工用にまわってしまったので、これは大きな成果でした。
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『現代農業』に掲載される全国の先輩方の実践のなかで真似したものは、今のところすべて上手くいっています。圃場では、目の前で起きていることを「ルーラル電子図書館」で検索閲覧した過去の記事と照らし合わせることで、自分の取り組みが間違っていないという自信も持てています。自分が目指すのは、作物が持つ力を最大限引き出して、手を加えずとも作物も人も環境の変化に適応できる持続可能な農業です。今後は自分だけのオリジナルな栽培方法を確立していきたいです。
(熊本県玉名市)
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