茨城県常陸大宮市では2022年から有機給食用の野菜づくりがスタート。栽培指導している「つくば有機農業技術研究所」の松岡尚孝さんに、有機栽培をはじめるときの土づくりや野菜ごとのつくり方などを紹介していただきました。
松岡尚孝

最近の品種は難しい
私の住む茨城県は、サツマイモの生産量が全国2位ですが、生食用だけで見るとダントツの生産量です。関東ローム層や黒ボク土壌で、とくに沿岸地方は水はけもいいので栽培が盛んです。内陸に位置する常陸大宮市でも、近年のサツマイモブームで生食用だけでなく干しイモ用などの栽培も広がっています。
旧来サツマイモは手間いらずとか、肥料いらずなどといわれてきました。しかし、昔の「農林1号」や「コガネセンガン」などとは違って、近年の人気品種である「べにはるか」や「シルクスイート」などは、手間も肥料も必要で栽培はそう簡単ではありません。また、当地ではまだ発生していませんが基腐病なども蔓延しているので、より一層注意が必要です。
甘い品種はチッソをやや多めに

2022年、有機で初めてサツマイモを栽培しました。苗づくりが間に合わず、べにはるかの苗を買って約60a作付けました。もともとJAの生産子会社であるアグリサポートでサツマイモをつくっていたので、スタッフも栽培方法は熟知していました。そのため、病害虫が発生しないようにすることだけ心がけて指導を行ないました。
土づくりは、緑肥を1月に播いて4月にすき込み、牛糞堆肥を1t/10a散布しました。ややカリが多いので、堆肥は控えめです。べにはるかのチッソ、リン酸、カリの必要成分量は3:13:10とされています。土壌診断の結果と緑肥や堆肥の肥料効果を考慮して施肥量を決めます。リン酸と苦土が欠乏していることがわかっていたので、グアノと苦土も施しました。
配合有機肥料は控えめですが、それなりにチッソは入れています。べにはるかなどの糖度の高いサツマイモは、従来の品種よりはチッソがないと十分に肥大しません。とはいえ、チッソが多いとつるボケなどが起こるのでほどほどに。施肥は元肥のみで追肥は必要ありません。

3種類の有機物マルチを比較
植え付けは、ジャガイモと同様にかまぼこ型の高ウネに黒マルチを張ります。ウネ間は90~100㎝で株間は30㎝。苗は節が詰まっているものがよく、斜め挿しすると数がとれて大きさも揃いやすいと思います。
近年、大きなイモは消費者から嫌われ気味で、加工用でなければ数がとれたほうがいい。給食用でも調理機械に合わないからかMLサイズが好まれ、あまり大きなイモは敬遠されます。
ウネ間には、夏場の暑さを和らげ、草を抑えるために有機物マルチを敷きます。イナワラとモミガラ、未処理の区に分けて観察してみました。結果を先にいうと、一番収量がよかったのは、イナワラ。次いでモミガラ、未処理の順でした(上の表)。ただし、未処理区は作業の都合で植え付けが遅くなったので、その辺は考慮が必要です。モミガラは、10㎝ほど厚く敷いたこともあり、防草効果はありましたが、チッソ飢餓を起こし次作の土壌状態に悪影響を与えました。イナワラは夏場の地温抑制効果が高いので、それがよかったのかもしれません。
ちなみに、ジャガイモ(24年4月号)やカボチャ(24年7月号)づくりで紹介したクズムギマルチ(リビングマルチ)をしなかったのは、サツマイモの生育期間とムギの生育とが合わないためです。
収穫祭を実施
栽培期間中は除草以外、ほとんど作業は行なっていません。唯一7月にほかの作物と一緒に納豆菌&酵母菌の培養液を100倍でドローンで散布しました。病気予防を意識したわけではなく、滋養強壮を期待した感じです。
9月過ぎにヨトウムシ類が葉を食害しましたが、基本的に放っておいても問題ありませんでした。センチュウやコガネムシ類の食害もなく、一部に高温障害なのかイモの表面に血管が浮き出たような皮脈が見られたものの、大部分は肌のきれいなイモがとれました。
10月12日、常陸大宮市内の保育園児を招いて、サツマイモの収穫祭を開催しました。子供たちが嬉々としてイモを掘り、味見をして喜ぶ姿は農家にとって喜びとなったものです。ここで、常陸大宮市の市長とJA常陸の組合長が有機圃場で相まみえ、オーガニック給食への地歩を固め、アグリサポートの社長や所長が有機栽培を広げていくことを宣言したのでした。翌年もとくに病害虫に悩まされることなく、いいできでした。
ヨトウは孵化直後にBT剤
基本、栽培中に薬剤を使用していないと説明しましたが、もしもの場合についても解説しておきます。
センチュウやコガネムシの食害に……
この続きは2024年8月号をご覧ください
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