光合成細菌をキュウリに散布すると、葉の照りやわき芽の心立ちがよくなる。猛暑と集中豪雨で褐斑病や炭疽病が出ても、みるみる回復。数年前はそろそろ引退などと考えていた著者でしたが、今では、菌や土の力を借りて省力的な栽培法を実践すれば、生涯現役も夢ではないと思い直しているそうです。
岩手・吉田 剛

病気で収穫終了が早まる
私は岩手県の中央部盛岡市で水稲6ha、露地キュウリ22aを作付けしています。露地キュウリは21歳の頃から55年つくってきました。当時は直接畑にタネを播く栽培方法でしたが、自根苗をつくるようになり、黒種カボチャの接ぎ木苗づくり、やがて白種カボチャでピカピカのブルームレスキュウリづくりへと、時代の移り変わりに流されながらも、栽培し続けてきました。そして、我々団塊世代はキュウリづくりからの引退の時期にきています。
キュウリ栽培で大変な仕事は苗づくりと畑づくりです。畑づくりでは、大量のモミガラ堆肥と肥料をまき、耕起、マルチング、アーチ作り、定植など、手間と資材を投入しますが、昨年は集中豪雨と連日35℃の猛暑で褐斑病・炭疽病が大発生し、例年収穫期間が100日ほどあるキュウリが、50~70日と早く切り上がってしまった、そんな岩手の露地キュウリでした。

エビオス錠で排水路の水から培養
70歳を過ぎた頃、年のせいか自分の仕事に面白味がなく、そろそろ引退かなと考えるようになりました。そんななか、本誌のヤマカワプログラムの記事や光合成細菌、えひめAIの記事に興味を持つようになりました。現在のキュウリ畑は山を削った重粘土圃場で、トラクタの踏圧による耕盤層もできてカチカチの土です。光合成細菌などの微生物の力を借りて耕盤を抜いてしまう技術にワクワクするものを感じました。
そこで、3年前から熱帯魚飼育用の光合成細菌(PSB)を購入し、本誌の記事を参考にして粉ミルクなどのエサを与えて培養したり、手を替え品を替えて試してみました。しかし、なかなかうまくいかず、諦めかけていたところ、エビオス錠で超簡単に培養できるとの記事を見ました。この地域には、今もドジョウが生息する水田の排水路(土側溝)があり、そこから採取した水に、飲料水(井戸水)を足し、エビオス錠を入れて培養したところ、2週間ほどでみごとに赤色に変化しました!

褐斑病、炭疽病から回復できた
さっそく、4Lの容器に20本、拡大培養し、キュウリの薬剤散布時(7~10日に1回)、SSの1000Lタンクに4Lを混用しました。
夏は連日35℃を超す猛暑による高温障害で、キュウリのてっぺんの枝が伸びず、花は咲けども実が縮こまってしまうほどでした。しかし、光合成細菌を混用した薬剤散布の翌朝には、上段はダメでも、中段、下段の葉の照りやわき芽の心立ちがいい感じです。
また、7月中旬と8月の盆頃に集中豪雨に見舞われて根がダメージを受けたときには、市販の酸素供給剤を使わず、光合成細菌の25倍液を土の表面にかん水しました。
8月後半に入ると私の畑も褐斑病と炭疽病が発生しましたが、摘葉を少し強めにできて回復しました。これも、光合成細菌の効果かなと思っています。
品不足のなか秋まで高値で販売
話が前後しますが、昨年の私の畑は1回目の定植を6月1日700本、2回目は6月20日400本、3回目が7月10日400本と3回に分けました。収穫期間の延長と若い樹からA品が収穫できることを狙ってのことです。
A品で5kg1000円の値が付けば御の字の露地キュウリにあって、昨年は天候不順による品不足により、前半から1,500円、中盤からは2,000円と近年にない高値での販売が続きました。しかも、病気の影響で8月末には収穫を切り上げる方が多かったなか、私の畑はどこも霜が降りる10月10日までJA出荷ができ、5kg箱でA品2500ケース、B品、C品も合わせると計5000ケース出荷でき、700万円を超える売り上げになりました。
ヤマカワプログラムと不耕起で、生涯現役
前述のように私の畑は重粘土でカチカチです。根が徒長することなく、地上部も節間の短い樹姿ですが、もう少し節間が長く伸びて、果実の長さも出るとよい気がするため、今年は光合成細菌と土のスープを土壌に散布するヤマカワプログラムを試してみたいと思います。
また、5年前から10aの畑で不耕起栽培をしています。地域では田植えが終わると、氏神様の草刈りや公民館での会食をする「さなぶり」の行事がありますが、そのさい体を休める間もなく、田植えよりも重労働のキュウリの畑づくりに入るのは本当にしんどいものです。
一方、不耕起の畑はウネもアーチも立てっぱなし、マルチなしで植え付けたあと、モミガラ堆肥を表面にマルチするだけなので、心身ともにラクでいい。2~3日体を休める本来の「さなぶり」もできるようになりました。
息子がメインで管理する耕起ありの畑に比べて、不耕起畑の収量は若干少ない感じですが、心なしかA品率は高いようにも感じます。将来は全面不耕起にするつもりです。
数年前はそろそろ引退などと考えていましたが、菌や土の力を借りて省力的な栽培方法を実践すれば、生涯現役キュウリ農家も夢ではないと思い直しました。
(岩手県盛岡市)
吉田さんの光合成細菌の元菌の捕まえ方と増やし方については2024年8月号をご覧ください
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