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【新連載 カンキツと対話! セガっちゃんの植物ホルモン塾】 老木園を若返らせる

現代農業2023年8月号から新連載「カンキツと対話! セガっちゃんの植物ホルモン塾」がスタート! 植物ホルモンを学ぶと樹の気持ちがわかる !? 長崎でカンキツ農園を営む セガっちゃん が、後輩のみつおに懇切丁寧に解説! 現代農業WEBでは初回の一部を試し読みとして公開します。

セガっちゃん(本名・瀬片元治)/みつお(本名・橘蜜雄)

著者
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老木園を借りて定年帰農

60年生のミカン樹。切り上げせん定をして初年度でこのなりっぷり
60年生のミカン樹。切り上げせん定をして初年度でこのなりっぷり

みつお(以下、 セガっちゃん、お久しぶりです。オレもとうとう定年退職。田舎に戻って農業始めるんだけどさ、こんなに簡単に農地を借りられるとは思わなかったよ。30年生のミカンの老木園、3反よ。

セガっちゃん (以下、)  おー、みつお、お帰り。今、80過ぎのおじさん、おばさんがどんどんリタイアしとるけんな、ワシも去年、今年と60年生の老木園を借りたところたい。 

  セガっちゃんもか、そりゃちょうどよかった。オレ、借りたはいいけど、いままで東京でバリバリのサラリーマンだったからさ、右も左もわからないのよ。教科書読んで、猛勉強中! いろいろ、アドバイスもらえると助かるなぁ。

  了解! みつおのミカンも30年生か、おそらく樹も弱ってきとるじゃろ。まずは、樹を若返らせんばな。

肥料をやれば若返る!?

セガっちゃんが借りた60年生のミカン園。大豊作(p158写真)の翌年だが、今年もビッシリと花が咲いた (4月27日、赤松富仁撮影、以下も)
セガっちゃんが借りた60年生のミカン園。大豊作の翌年だが、今年もビッシリと花が咲いた (4月27日、赤松富仁撮影、以下も)

 そうだよな。オレも樹に栄養あげなきゃと思ってさ、さっそく農協に行って肥料買ってきたんだよ。

 ほー、相変わらず行動が早いのぅ。それで、どのくらい買ってきたと?

 もちろんちゃんと調べたよ。長崎県では、3t収穫できる園ならチッソ成分で 18 kg、4t園なら22kg㎏、5t園なら25kg、6t園なら28kgやるんだってよ。まぁ、悪い園じゃないって聞いてるから、とりあえず、配合肥料でチッソ20kg分買っといたよ。

 さすが学生時代から成績優秀じゃっただけはある、しっかり勉強しとるな。しかし、今は温暖化が進んどる時代じゃ。従来の考え方では、おいしいミカンばつくれんようになってきとるぞ。たとえば、11月に温かい雨が降る。すると、肥料が多い園では収穫直前でも、ミカンが25gも大きくなる。そういう試験データがあるぞ。せっかく光合成をして蓄えた糖が果実肥大に消費されて、ミカンの糖度は上がってこんたい。ワシは県の指導の半分、10a8〜10kgでつくっとるぞ。

 えっ ! ?  そうやったの? チッソとリン酸とカリが 10%ずつ入ってる配合肥料を3反分で30袋も買っちゃったよ。

 配合肥料も今は1袋4000円もするけんな。 30袋で12万円、それなりの出費じゃな。

 そうだよ! 退職金もらったとはいえ、引っ越しするのにいろいろ出費がかさんだってのに、なんてこった !!  しかし、なんで教科書にはそんなに肥料やれって書いてあるんだ?

切り上げせん定後1年のようす(不知火の老木)。切り口を巻き込むようにカルス形成が進んでいる。切り口には癒合剤が塗ってある
切り上げせん定後1年のようす(不知火の老木)。切り口を巻き込むようにカルス形成が進んでいる。切り口には癒合剤が塗ってある

チッソが多いと樹づくり優先に

  一般的な考え方をもうちょっと説明するとじゃな、チッソとかの肥料成分はミカンの果実や樹をつくる「材料」と考える。収穫して果実が外に持ち出されたら、その分の材料を補給せんばならんじゃろ。1t収穫すると、チッソ5kg分が持ち出されるというのが目安たい。4tならチッソ 20kgを補充せんばならん。まず、肥料ありきの考え方じゃな。

 なるほど、それはまっとうな考え方に聞こえる。

  ところが、肥料が多いとどうなるか? 「果実分配率」というのがあっての、光合成でできた糖の行き先の割合、優先順位のことじゃが、これが満開後60日までに決まる。何で決まるかというと、とくに重要なのが着果量と肥料でな、着果量がやや少なくてチッソ量が多いと、優先順位が〈樹→根→果実〉の順番になる。逆に着果量が多くて肥料が少ないと〈果実→樹→根〉の順番たい。秋になってもこの順番は変わらん。秋の長雨が続けば、それこそ土中の肥料が水に溶けてどんどん吸われる。枝ばっかりが伸びて、果実に養分が回ってこんようになる。おいしいミカンはでけんたい。

  へー、そうなんだ。

お金をかけずに若返らせる

 肥料はほどほど、半分でよか。樹を若返らせるには、「材料」も大切じゃが、もっと大切なもんがあってな、それが「植物ホルモン」たい。

 植物ホルモン? 人間でも「若返りのホルモン」とかあるけど、あれかな?

 まー、そんなもんじゃな。

 へぇー、ミカンにもサプリメントを与えるわけ?

 「植物生育調整剤」といって植物ホルモンの成分が入ったクスリも売られてはおるが、ワシは基本使わない。民間農法的に、お金をかけずに植物ホルモンを生成させとる。

 ただでできるのか。そりゃ、助かるな。

 方法はいろいろあるけど、一番は「切り 上げ せん定」じゃな。水平より下に垂れ下がっとる枝を落としていく。外科手術みたいなもんで、樹は切られると切り口を修復しようとして、カルス形成を促す植物ホルモンをたくさん生成するんじゃ……

2023年8月号の果樹コーナーは、以下の記事も掲載しています。ぜひ本誌でご覧ください。

日照不足も長雨も問題ないっす   酢の実力、果樹でも発揮!
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新版 せん定を科学する

樹形と枝づくりの原理と実際

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間引くより、切り返したほうが強く枝が反発する? 切り上げより、切り下げのほうが落ち着いた枝がつくれる?プロでも迷うせん定のわざを科学的に体系だて、実用的に提示。よく成る枝・樹形づくりのリクツが読める。