立枯病、根こぶ病、黒腐菌核病……、土壌病害に立ち向かうには、微生物に活躍してもらうのが一番。もちろん、地上部の病害にもおなじみの納豆菌、乳酸菌、酵母菌たちを味方につけよう。菌と仲良くならなきゃ、農薬減らしは始まらない!
兵庫・藤岡茂也
殺菌剤に代わるものを
今から10年ほど前、多可町に新しい特産品をつくろうということでニンニク「たがーりっく」の栽培が推奨され、当農場もJAみのり・加西農業改良普及センターにご指導いただきながら、栽培を始めました。
ニンニクは春腐病になりやすく、対策として、当初は2週間に1度ほど殺菌剤を散布していました。私は当時から、イネやダイズはできるだけ農薬を使わない特別栽培にこだわっていました。それなのに、ニンニクには殺菌剤を頻繁に使用している――とても違和感を覚えていました。
そこで、自社で黒ニンニクの加工を始めた7年前頃から、ニンニクも脱農薬に方向転換。殺菌剤に代わるものを探していたところ、『現代農業』でタマネギのべと病防除に納豆菌を使っている記事を見つけました。病原菌を抑える働きがあるとのこと。「春腐病にも効果があるのではないか」と考えました。
自家培養した納豆菌液を、動噴で散布しました。春腐病は発生したものの、発病株を持ち出したりしながら、なんとか無農薬栽培に成功。以後、毎年散布を続けています。
生乳用のクーラー内で培養
培養は12月中旬から。私は酪農機械の販売やメンテナンスも手掛けており、容器には不要になった生乳用バルククーラーを使用。8000Lの培養液を6台のクーラーで作っています。各タンクに水中ポンプを設置して24時間循環させ、空気を補給しています。
使う納豆の量は、クーラー1台当たり20パックほど。これをタマネギネットにあけ、バケツの中で水にジャボジャボ濾して、タネとなる菌液を作ります。この液を、半分くらいまで水を入れたクーラーのタンクへと投入。菌のエサとしてさとうきび糖を2〜3kg、無調製豆乳を2〜3L入れ、最初だけ遠赤外線ヒーターで30℃くらいまで加温します。
その後は納豆菌自体が発熱しますし、クーラーの保温性もいいので、冬でも加温は必要ありません。他の菌の影響か、たまに酸性に傾きすぎたりするので、温度やpH(通常5〜5.5)はときどき確認。仕込んで3〜4日後に1.5倍に加水し、さとうきび糖と豆乳を加え3日おいて仕上げて散布し始めます。
タンクの3分の1ほどを使ったら、川の水(8℃)とさとうきび糖、豆乳を注ぎ足しておくと、3〜4日でまた30℃近くまで復活します。
3ウネ用スプレーヤを自作
菌液の散布は2週間に1回程度。2倍希釈で、10a当たり100〜150Lまいています。動噴だと大変なので、数年前から500Lタンクの後部に穴をあけた塩ビパイプを付け、ジョウロのように散布するようにしました(下写真)。ただ、1ウネずつしかまけないため、やはり時間がかかっていました。
そこで今作は、モミガラマルチャー(現代農業21年5月号p90)を利用して、「ブームスプレーヤもどき」を作りました。タンクの中に水中ポンプを入れ、トラクタ内部にポンプの起動スイッチを付けて、ブームを取り付ければ完成です。かかった費用は約3万円。製作期間は1日でした。
出来栄えは上々です。1度に3ウネへと散布できるので、効率は以前の3倍以上。ノズルの噴出量は一定なので、面積当たりの散布量は走行速度で調整します。10aの散布にかかる時間は5〜10分です。
欠かせないパートナー
当初、ニンニクの作付けは80aほどしかなかったので、納豆は近くのスーパーで購入していました。しかし、面積は毎年倍増。2年前には、2ha分の納豆を買い物かご二つに山盛りに詰め込んでレジに行き、レジのおばちゃんに「この納豆おいしいもんねぇ」と言われてしまいました(苦笑)。今作は5haまで増えたので、さすがにインターネットで業務用の納豆を購入しました。
納豆菌液の散布を始めてから今日まで、中には春腐病の発症も見られますが、無農薬でも大きなトラブルはなく順調です。菌液の使用については有機JAS認証も受けており、ニンニク栽培の大切なパートナーとなっています。
(兵庫県多可町)
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無臭・ジャンボタイプが話題の球ニンニクと今後注目の茎・葉ニンニクの栽培から加工までを一冊に。堆肥の肥料成分を含めた施肥設計と春先の灌水で根部の健康を保ち、生理障害は早期に診断・対処をして良品多収する
*月刊『現代農業』2022年6月号(原題:ニンニクの有機栽培 自家培養の納豆菌で春腐病を防除)より。情報は掲載時のものです。
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