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私にもできた! 10a苗箱6枚の条抜き栽培(新連載)2、5抜きで植えてみた

神奈川県海老名市・児島晴夫さん

マークは本誌154ページに用語解説あり
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 2019年5、7、8月号の連載「千葉で見つけた! 疎植栽培の村」では、千葉県君津市の鳥海榮之とりうみひでゆきさんの条抜き栽培を紹介した。幼穂形成期頃の豪快な開張姿、ご記憶の読者も多いのではないだろうか。2条植えて1条空ける田植えの工夫で、坪約25株植えの超疎植を実現。10a当たり3.8枚の苗箱しか使わず、反収は通常植えと同じ600kg近くを確保していた。

 そんな鳥海さんの連載に感化を受けて、条抜きにチャレンジし始めた人は多い。神奈川県海老名市の児島晴夫さんもその一人だ。教員を退職し、現在32aの田んぼでイネを育てる児島さんを惹きつけたのは――「なんといっても、コストの安さだよね」。

 10a当たりに必要な苗箱が、18枚から6枚に――大幅に減ったのだ。

児島さん(73歳、左)と田植え作業を担う近所の吉川さん
(倉持正実撮影、以下表記のないものすべて)

もっと苗代を減らしたい

 児島さんの以前の使用苗箱数は、32aで合計55枚程度(10a当たり17〜18枚)。播種機を買うほどではないため、JAから苗を購入していた。完成苗だと1枚700円するので、児島さんは播種直後の苗(1枚500円)を購入し、庭先で1カ月弱育苗。それでも毎年の苗代は2万7500円と、決して安くはなかった。

 さてさて、「育苗スペースを減らしたい」「コストを下げたい」といって、育苗枚数の削減技術を取り入れる大規模農家は多い。最近よく聞くのが、たくさん播種して(乾モミ300gなど)疎に植える「密播・密苗」や、直播の技術などだ。ところが、密播にしても直播にしても、専用の田植え機やら直播機やらが必要になり、大きな投資や栽培体系の見直しを迫られる。小規模の面積でちょこっと取り組もうと思っても、ハードルが高そうだ。

 一方、条抜きであれば、今使っている田植え機でも、どんな規模からでも取り組める。児島さんが惹かれた理由は、ズバリそんな点だった。


条抜き栽培とは

 田植え機の一部の条に、苗を載せずに植える(条を抜く)疎植栽培。通常、田植え機は条間の広さを変えられないため、栽植密度は株間の広さで調整する。しかし、例えば条間30cmの田植え機で1条抜けば、抜いた場所は条間60cmとなり、田植え機の設定以上の疎植ができる。条抜き部分の脇の株は養分をよく吸い、太陽光もよく当たるのでのびのび育つ。大株になるので倒伏に強く、疎植なので病気にも強い。ただし、広い条間の雑草、分けつ不足による収量減、などが課題となる場合もある。

鳥海榮之さんの条抜きイネ。右ページの写真と同じ6条田植え機での2、5抜き。往復して植えると2条植えて1条空き……の連続となる(依田賢吾撮影)
条間30cmの田植え機の場合、株間18cmなら坪60株植え。株間30cm(尺角植え)なら坪37株となる

プール育苗でも節水管理
児島さんの庭先露地プール。苗箱33枚(+しめ縄用のイネ2枚)を縦約5.5m、横1.2m程度のミニマムスペースに並べる
プールの枠には鉄パイプを使用。ビニールを敷いて水を溜めている。枠の高さは3cm程度と苗箱の縁よりも低く、底面吸水を基本とする

庭先露地プールで健苗づくり

 イネの苗は環境によって性格を変え、水を絞ってつくると「畑苗」、水たっぷりだと「水苗」となる。畑苗は蒸散を抑える仕組みが発達するので、田植え時に根が切れても萎れにくく、ガンガン蒸散して萎れてしまう水苗と比べ活着が早い。児島さんはプール育苗ながら、節水気味に管理。水は底面吸水で与え、緑化後4〜5日頃には乾きを経験させるために葉が巻くほど水を切るという。もう一つのこだわりが「苗踏み」だ。これも鳥海さんに習ったワザ。苗の伸びや老化を抑え、腰の低いガッチリ苗に仕立てる。


自作のミニローラーで苗踏み
苗踏みする児島さん。毎日朝晩往復でかけた。以前は苗箱中央が徒長し、1枚1枚がかまぼこ状に育っていたが、ローラーをかけることで一面に高さが揃った
ローラーは軸で回るタイプではなく、ヒモを外周に巻きつけてあるだけ。5m程度転がすだけなら、これで十分。中には砂が詰まっており、重さは8kgある
自作の苗踏みローラーをかける鳥海榮之さん。踏まれた苗では植物ホルモンのエチレンが発生し、丈が低く丈夫に育つとされる(現代農業2019年4月号p96)(黒澤義教撮影)

平均反収以上とれた

 児島さんが条抜きに初めて挑戦したのは、一昨年、20年のことだ。鳥海さんの連載を読んで、すぐさま本人に直接連絡。ノウハウを教えてもらいながら、2、5抜きで植えてみた。使用苗箱数は、反当18枚から10枚に減ったという。4月頭にコシヒカリを植える鳥海さんと、5月末に「はるみ」を植える児島さんとでは、時期も品種も違うため、最初は恐る恐るだったが――疎植の株はグングン育ち、地域平均より30kg多く(480kg)とれた。

「苗が減った分、最初から得。平均だったとしても、増収したようなもん」

 手応えを得た児島さん、取材した21年にはより細植えにするつもりで、育苗枚数を33枚に減らした(10a当たり8枚を想定)。5月7日に播種直後の苗を購入し、庭先で積み重ねて、ビニールシートをかけて出芽。5月12日にはプールの床へと並べ、緑化後すぐの5月14日に苗踏みを開始したという。かなりのスパルタ育苗だ。

 こうしてできた苗は、鞘葉が短く腰が低い。催芽モミ240gと播種量は多いが(多いほど苗は徒長・老化しやすい)、徒長もさせず活着力の強い苗に仕上げる。分けつ力がものを言う条抜きでも、活躍してくれそうだ。

5月30日時点の完成苗(23日苗)。育苗器などで加温しないので、腰が低いのが特徴
2枚重ねてキャスターで運んでみた。茎が太い苗のため弾力があり、潰れることもない

10a、補給なしで植え終えた

 田植えは5月30日。自分の田植え機を持っていない児島さんは、毎年近所の吉川さんに作業をお願いしている。吉川さんの田植え機だと、坪50株が疎植の限界。この設定で2、5抜きするので、坪約33株植えとなる。

児島さんの22aの圃場。東西に長い圃場だが、あえて南北植えにする。条抜き部分を風の通り道に利用して、倒伏のリスクを軽減する
2、5抜きで植えていく。最初に積み込んでしまえば苗の補給はほぼいらないので、手の空いた児島さんは植わった苗をチェック

 10aの圃場で植え始めると、奇異な田植えの様子に、農道を行く人が足を止める。中には「あんなんじゃとれないよ」「さすがに、オレはやろうと思わないな」という声も。

「まぁ、私は変わり者かも。普通、安心できる技術しかやらないからね。でも、私が何年かやって、条抜きでもとれることを証明できれば、他にも取り組む人が出てくるかも」と笑う児島さん、じつは以前高校の教員だった。辞めた今でも周囲に「先生」と呼ばれる理由は、この研究肌にあるようだ。

 この10a圃場、最初に田植え機に8枚苗を積んだら、途中でまったく補給せずに植え終えてしまった。使った苗箱は、なんと6枚台。細植えにしたことで、思った以上に減ったようだ。植え終わった圃場は、ビックリするほどスッカスカ。児島さんは「去年大丈夫だったし、大丈夫でしょ」と、自分を信じ込ませるように言うが、傍目に見るとやっぱり不安な光景だ――。

 はたして条抜きイネはどう育っていったのか。次回以降に乞うご期待。(編)

田植え後、スカスカの圃場。細植えにしようとかきとり量を最低まで落としたが、播種量が多いので平均3〜4本植えとなった。欠株は少ない
10a当たりに使った苗箱は、わずか6箱ほど
当初は10aに苗箱8枚程度を使うと考え、さらに余裕をもって33枚育てていたが、実際に使ったのは32a合計で20.6枚。翌年(22年)は苗の購入数をさらに減らす予定

記事といっしょに 編集部取材ビデオ


[ことば解説]

乾モミ(かんもみ)
 催芽(芽出し)していない状態のイネの種モミ。播種量を表わす際などに「乾モミ○g」と使われる。なお、催芽後のモミ(催芽モミ)は水分を含むため、乾モミのおよそ125%の重さになる。
密播・密苗(みっぱ・みつなえ)
 育苗箱1枚当たり、乾モミ250〜300gと通常の2〜3倍の量の種モミを播くことで、使用する育苗箱の枚数を減らせるイネの低コスト育苗・移植技術。田植えでは太植えにならないよう、密播した苗を細かくかき取ることができる田植え機を使う。
 高い密度で生えた苗は、通常苗より老化・徒長しやすい欠点がある。植え付け後の活着や生育に悪影響が出ることもあるため、基本的には2週間程度でのコンスタントな播種・移植が前提条件となる。
出芽(しゅつが)
 植物の芽が土壌表面から頭を出すこと。一方、土との位置関係に関わらず、芽が種皮を破って出てくることを「発芽」という。「苗箱の中で種モミが発芽し、覆土を破って出芽する」という順序となる。
元肥一発肥料(もとごえいっぱつひりょう)
 速効性の化成肥料の他、溶出期間の違う数種類の被覆肥料を混合し、生育期間中にちょうどいい肥効が出るよう調整された肥料。追肥が省略できる肥料として、各地で一般的になってきている。
 しかし、被覆肥料が溶け出す速度は水温が高いほど早いため、天候によって肥効が左右される。夏の高温で肥料が早く効いて後期に肥切れしたり、下位節間伸長期に効いてイネが倒伏したり、といった問題も起こりやすい。


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担い手や集落営農による水田の集団化が進み、より省力的なイナ作への関心が高まっている。とりわけ近年、イネの苗に関わる作業の省力、高温障害回避による米の品質向上などをねらい、メーカーによる対応機の開発・普及もあって、疎植栽培が拡大中。また、直播栽培は乾田・湛水を問わず、多くの研究機関で次々と成果が出されているが、「地下灌漑法」や「アイガモ水稲同時作」との組み合わせなど、生産現場での技術の蓄積も進んでいる。さらに有機栽培の広がりから、除草剤に頼らない省力的な抑草技術も。今回これらの技術を中心に掲載。