私にもできた! 10a苗箱6枚の条抜き栽培(新連載)2、5抜きで植えてみた
神奈川県海老名市・児島晴夫さん
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2019年5、7、8月号の連載「千葉で見つけた! 疎植栽培の村」では、千葉県君津市の
そんな鳥海さんの連載に感化を受けて、条抜きにチャレンジし始めた人は多い。神奈川県海老名市の児島晴夫さんもその一人だ。教員を退職し、現在32aの田んぼでイネを育てる児島さんを惹きつけたのは――「なんといっても、コストの安さだよね」。
10a当たりに必要な苗箱が、18枚から6枚に――大幅に減ったのだ。
もっと苗代を減らしたい
児島さんの以前の使用苗箱数は、32aで合計55枚程度(10a当たり17〜18枚)。播種機を買うほどではないため、JAから苗を購入していた。完成苗だと1枚700円するので、児島さんは播種直後の苗(1枚500円)を購入し、庭先で1カ月弱育苗。それでも毎年の苗代は2万7500円と、決して安くはなかった。
さてさて、「育苗スペースを減らしたい」「コストを下げたい」といって、育苗枚数の削減技術を取り入れる大規模農家は多い。最近よく聞くのが、たくさん播種して(◆乾モミ300gなど)疎に植える「◆密播・密苗」や、直播の技術などだ。ところが、密播にしても直播にしても、専用の田植え機やら直播機やらが必要になり、大きな投資や栽培体系の見直しを迫られる。小規模の面積でちょこっと取り組もうと思っても、ハードルが高そうだ。
一方、条抜きであれば、今使っている田植え機でも、どんな規模からでも取り組める。児島さんが惹かれた理由は、ズバリそんな点だった。
条抜き栽培とは
田植え機の一部の条に、苗を載せずに植える(条を抜く)疎植栽培。通常、田植え機は条間の広さを変えられないため、栽植密度は株間の広さで調整する。しかし、例えば条間30cmの田植え機で1条抜けば、抜いた場所は条間60cmとなり、田植え機の設定以上の疎植ができる。条抜き部分の脇の株は養分をよく吸い、太陽光もよく当たるのでのびのび育つ。大株になるので倒伏に強く、疎植なので病気にも強い。ただし、広い条間の雑草、分けつ不足による収量減、などが課題となる場合もある。
庭先露地プールで健苗づくり
イネの苗は環境によって性格を変え、水を絞ってつくると「畑苗」、水たっぷりだと「水苗」となる。畑苗は蒸散を抑える仕組みが発達するので、田植え時に根が切れても萎れにくく、ガンガン蒸散して萎れてしまう水苗と比べ活着が早い。児島さんはプール育苗ながら、節水気味に管理。水は底面吸水で与え、緑化後4〜5日頃には乾きを経験させるために葉が巻くほど水を切るという。もう一つのこだわりが「苗踏み」だ。これも鳥海さんに習ったワザ。苗の伸びや老化を抑え、腰の低いガッチリ苗に仕立てる。
平均反収以上とれた
児島さんが条抜きに初めて挑戦したのは、一昨年、20年のことだ。鳥海さんの連載を読んで、すぐさま本人に直接連絡。ノウハウを教えてもらいながら、2、5抜きで植えてみた。使用苗箱数は、反当18枚から10枚に減ったという。4月頭にコシヒカリを植える鳥海さんと、5月末に「はるみ」を植える児島さんとでは、時期も品種も違うため、最初は恐る恐るだったが――疎植の株はグングン育ち、地域平均より30kg多く(480kg)とれた。
「苗が減った分、最初から得。平均だったとしても、増収したようなもん」
手応えを得た児島さん、取材した21年にはより細植えにするつもりで、育苗枚数を33枚に減らした(10a当たり8枚を想定)。5月7日に播種直後の苗を購入し、庭先で積み重ねて、ビニールシートをかけて◆出芽。5月12日にはプールの床へと並べ、緑化後すぐの5月14日に苗踏みを開始したという。かなりのスパルタ育苗だ。
こうしてできた苗は、鞘葉が短く腰が低い。催芽モミ240gと播種量は多いが(多いほど苗は徒長・老化しやすい)、徒長もさせず活着力の強い苗に仕上げる。分けつ力がものを言う条抜きでも、活躍してくれそうだ。
10a、補給なしで植え終えた
田植えは5月30日。自分の田植え機を持っていない児島さんは、毎年近所の吉川さんに作業をお願いしている。吉川さんの田植え機だと、坪50株が疎植の限界。この設定で2、5抜きするので、坪約33株植えとなる。
10aの圃場で植え始めると、奇異な田植えの様子に、農道を行く人が足を止める。中には「あんなんじゃとれないよ」「さすがに、オレはやろうと思わないな」という声も。
「まぁ、私は変わり者かも。普通、安心できる技術しかやらないからね。でも、私が何年かやって、条抜きでもとれることを証明できれば、他にも取り組む人が出てくるかも」と笑う児島さん、じつは以前高校の教員だった。辞めた今でも周囲に「先生」と呼ばれる理由は、この研究肌にあるようだ。
この10a圃場、最初に田植え機に8枚苗を積んだら、途中でまったく補給せずに植え終えてしまった。使った苗箱は、なんと6枚台。細植えにしたことで、思った以上に減ったようだ。植え終わった圃場は、ビックリするほどスッカスカ。児島さんは「去年大丈夫だったし、大丈夫でしょ」と、自分を信じ込ませるように言うが、傍目に見るとやっぱり不安な光景だ――。
はたして条抜きイネはどう育っていったのか。次回以降に乞うご期待。(編)
記事といっしょに 編集部取材ビデオ
[ことば解説]
乾モミ(かんもみ)
催芽(芽出し)していない状態のイネの種モミ。播種量を表わす際などに「乾モミ○g」と使われる。なお、催芽後のモミ(催芽モミ)は水分を含むため、乾モミのおよそ125%の重さになる。
密播・密苗(みっぱ・みつなえ)
育苗箱1枚当たり、乾モミ250〜300gと通常の2〜3倍の量の種モミを播くことで、使用する育苗箱の枚数を減らせるイネの低コスト育苗・移植技術。田植えでは太植えにならないよう、密播した苗を細かくかき取ることができる田植え機を使う。
高い密度で生えた苗は、通常苗より老化・徒長しやすい欠点がある。植え付け後の活着や生育に悪影響が出ることもあるため、基本的には2週間程度でのコンスタントな播種・移植が前提条件となる。
出芽(しゅつが)
植物の芽が土壌表面から頭を出すこと。一方、土との位置関係に関わらず、芽が種皮を破って出てくることを「発芽」という。「苗箱の中で種モミが発芽し、覆土を破って出芽する」という順序となる。
元肥一発肥料(もとごえいっぱつひりょう)
速効性の化成肥料の他、溶出期間の違う数種類の被覆肥料を混合し、生育期間中にちょうどいい肥効が出るよう調整された肥料。追肥が省略できる肥料として、各地で一般的になってきている。
しかし、被覆肥料が溶け出す速度は水温が高いほど早いため、天候によって肥効が左右される。夏の高温で肥料が早く効いて後期に肥切れしたり、下位節間伸長期に効いてイネが倒伏したり、といった問題も起こりやすい。
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担い手や集落営農による水田の集団化が進み、より省力的なイナ作への関心が高まっている。とりわけ近年、イネの苗に関わる作業の省力、高温障害回避による米の品質向上などをねらい、メーカーによる対応機の開発・普及もあって、疎植栽培が拡大中。また、直播栽培は乾田・湛水を問わず、多くの研究機関で次々と成果が出されているが、「地下灌漑法」や「アイガモ水稲同時作」との組み合わせなど、生産現場での技術の蓄積も進んでいる。さらに有機栽培の広がりから、除草剤に頼らない省力的な抑草技術も。今回これらの技術を中心に掲載。