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雑草わずか、土ふかふかの好循環に ホウキングで出芽前除草

福岡・古野隆雄
筆者。有機農業歴約40年。アイガモ水稲同時作7ha、露地野菜3ha、小麦2ha、養鶏300羽ほか(写真はすべて依田賢吾撮影)

赤ちゃん時代にやっつける

 ホウキングは柔軟、アバウト、非力です。大きな雑草にはかないません。戦略はあります。レスラーのように強靭な雑草も必ず弱小な赤ちゃん時代があります。そこで戦えば勝てるはずです。

 ホウキングは3、4回繰り返します。難易度が高いのは1回目です。2回目は1回目のホウキングで土の中の雑草の赤ちゃんをあらかじめやっつけているので、雑草が比較的少ないのです。

 1回目は当然作物は小さく、雑草は生え放題、いっぱいです。そこで創意工夫。図1のように作物も雑草も土の中の赤ちゃん状態でホウキング開始です。生き残り、大きくなり、作物と競合するど根性1番草の出芽を激減させる方法です。

水田輪作による露地畑に播いた葉物野菜をホウキング5号で除草する。針金の揺動により、作物を傷つけず株間除草が可能に

これがホウキング5号だ!

5連の板に針金を4本ずつ設置。針金はゴムチューブで連結して揺動幅を安定化している。板の角度を変えると揺動幅を微調整できる。
1.2mm径の針金(ピアノ線)をL字に曲げ4mm径のナイロンチューブを被せて、作物の葉切れを防ぐ。
柄はマイカー線でフレームに固定。快適な位置で持てるように上下左右にずらして調整可能。

ピアノ線でホウキング5号

 初代のホウキングは針金(バネ鋼)の直径が3mmでした。播種後20日ほど経って作物が根付いてから除草を開始していましたが、それまでに生える雑草は手をこまねいて見るばかりでした。

 改良を重ね、最新のホウキング5号は直径1.2mmか1.4mmのピアノ線(細いバネ鋼)。これで、作物の出芽前や双葉のときから除草できるようになりました。径が細いので、土の表面のごく浅くを削るように動かします。しかし、ピアノ線のままだと弾かれて葉を切ることがありました。そこで、写真のように直径4mmのナイロンチューブを被せました。

 チューブの中空が作物のクッションとなり、「葉切れ」を防ぎます。

ホウレンソウは地中2cmに播種。雑草のタネは地下1cmから発芽
背伸びしながら出芽へ向かう

集中的に出芽前ホウキング

 発芽の3要素は水、酸素、温度だそうです。ホウレンソウのタネを播くと、条件が整えば3、4日で図1のようにシーダーテープの中のタネから一斉に白い根が出てきます。ネギやシュンギク、コマツナはやや遅れます。

 雑草は土の中でばらばらに発芽。小さな子葉、長く屈曲した胚軸、そして細い根。土の中には軟弱徒長で折れやすい雑草の赤ちゃんがいっぱいです。

 ここでホウキング開始。5号の針金の先端が垂直に近い角度で土に刺さるようにして引っ張ります。土の中の雑草の赤ちゃんは針金の上下左右前後の揺動で、かき乱され、破壊され、枯れていきます。

 深さ2〜3cmのところにあるホウレンソウのタネは見えないので心配ですが、ナイロンチューブがストッパーの役割を果たし、針金はそれ以上深く刺さりません。さらに、針金を立てて引っ張るので、作物のタネを引っ掛けて動かすことはほとんどありません。

 出芽後にするホウキングと違って、作物の茎や葉はまだ育っていないので、連続・集中的に2〜3回ホウキングします。

 出芽前ホウキングには次の二つの働きがあります。

①地上と地中の雑草の赤ちゃんの除草
②土を細かくふかふかにする

 いろいろな作物の播種直後、強い雨が降ると土壌表面がパンの皮のように硬くなることがあります。出芽前ホウキングをするとパンの皮が壊れ、ふかふかになり、作物の出芽を容易にします。雨後のホウキングも有効です。

 なお、図2のようにホウレンソウは土の中で背伸びしていくので、出芽直前のタイミングだと土中で傷つけるリスクがありそうです。出芽前までの期間は約1週間。条件によるので、いつも土の中のタネを観察しましょう。

[ことば解説]

子葉(しよう)
 種子内の胚の一部で、発芽して最初に出る葉。双子葉類の場合、「双葉」ともいう。

胚軸(はいじく)
 もともとは種子内の胚の一部で、発芽後の幼根と子葉をつなぐ軸の部分。茎でも根でもない。

出芽前除草の瞬間を見る

カメラを固定し定規で示した40cm幅の変化を観察(左ページ写真)。

通過の前後を上から見る

右ページのウネを上から見た。目視で40本の雑草の双葉を確認。
端にあった3本以外は見えなくなった。引き抜かれた草もあった。
表面の土を手で払ってみた。土に埋もれた草が19本あった。早晩枯れる。

百発百中、揺動ヒットマン

 この原稿を提出後の3月3日、春風でアイデアが花開きました。補記します。

 5号の20本の針金が奮闘努力しても、確率的にヒットしない雑草が生じます。そこで、図3のように針金の先端を連帯させました。これが深さ1cmほどのところで上下左右前後に揺動。地上と地下の軟弱徒長の雑草の赤ちゃんをすべて倒していきます。揺動のおかげで抵抗なく引っ張れて、ゴルゴ13のように百発百中。「揺動ヒットマン」と名づけました。

 雑草が小さく、土がふかふかなら、ヒットマンは出芽前除草だけでなく中耕除草でも一線を画する働きをします。しかし、作物の出芽後の株間除草はできません。

[ことば解説]徒長(とちょう)
 作物が細長く軟弱に生育すること。弱光、高温、多湿、水分過多、チッソ過剰、密植などの条件で発生しやすい。

①②で通過した場所の雑草すべてにヒット。③で撹乱。④⑤で土を均平化する。ヒットマンはコの字形のピアノ線をナイロンチューブの中空に通して固定する

超初期の双葉でもラクラク

 さて、1週間くらいでホウレンソウは出芽。出芽前ホウキングをしっかりしていれば、この時点で出芽している雑草はわずかで、土はふかふかです。

 ホウレンソウの双葉が6cmほどになったら超初期除草に移ります。ヒットマンを付けていない5号を用い、先端が地面と垂直になるよう、持ち上げ気味にしてゆっくり引いていきます(図4)。雑草だけでなく、作物の双葉が土で埋まるのを防ぐためです。

本体を浮かせ気味にし、なるべく針金を立てて進む。表面の土は横移動して双葉に被らない。鋭角にすると土コロが持ち上がってしまう

 従来のように針金の先端が地面に対して鋭角になるように進むと、土が針金に沿って高く持ち上げられ、作物の双葉も埋まってしまいます。針金が地面に対して垂直に刺されば、土は高く上がらず、地表面を横移動するだけ。作物は埋まりません。もちろん、土中にある出芽前の雑草は撹乱されて、枯死。地上の雑草はふかふか土で埋もれます。ラクラクホウキングです。

 以上のように、出芽前ホウキングから出発すると、出芽後の超初期、本葉展開後の初期生育の期間を通じて、雑草僅少、土ふかふかの好循環が続いていきます。作物と同時期に出芽する1番草を土中でやっつける効果は絶大でした。そのまま生き延びれば、レスラーのように強靭な雑草になってしまうからです。

 英語のunderstand(アンダースタンド)は下に立って初めて本当の理解ができるという意味だそうです。今回、土の中をよく観て、この言葉が実感できました。

(福岡県嘉穂郡桂川町寿命824)

ホウキング5号でホウレンソウの超初期除草。本体を若干浮かせ気味に走らせることで、作物の双葉が埋もれるのを防ぐ

ホウキングの作り方・使い方の質問:右住所、古野まで

*古野農場では研修生を募集しています。自分の目で土の中を見ましょう。

『現代農業』取材ビデオ 「ホウキング5号で出芽前除草」

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