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1本の樹でカンキツ100品種! 多品種接ぎ木で、楽しみすぎ果樹

埼玉・宮原恒紀

筆者(73歳)。庭の片隅にあるカンキツ樹。小さな樹だが100品種接ぎ木してある(本誌p102の図も参照)(写真はすべて依田賢吾撮影)

小面積で550品種

 岩手県の九戸くのへ郡野田村という小さな村に生まれ、青森県八戸市の学校を卒業後、東京の測定器メーカーに就職しました。工場があった埼玉県行田市に住むことになり、現在に至っています。

 会社員時代は、測定器の開発・技術サポートやコンピュータ関連のソフトウェア開発などをしていましたが、機械相手の猛烈に忙しい仕事の合間に、植物と付き合うおもしろさを感じ、簡単な果物栽培を手がけるようになりました。

 結婚して60坪ほどの土地を入手したのを機に、植える果物の種類が徐々に増えました。最初は、私が小学生のころに岩手の実家で植えていたスモモやカキ、リンゴなどを育てていましたが、比較的寒い秩父市でのミカン栽培を見て、カンキツ類にも手を出すようになりました。義理の父が使用していた小さな温室が空いたので、アボカドやライチ、南国のリンゴと呼ばれるホワイトサポテなども植え、樹種と品種が急激に増えてしまいました。現在、550品種ほどをたいして広くない土地で育てています。当然、1本の樹に多品種を接ぎ木しています。

庭の隅に並べているフィンガーライムの各品種の苗(左側緑の鉢)と、マンゴー各品種の苗(右の黒い鉢)。中央には多品種接ぎのリンゴ樹が見える
駐車場のカーポートはブドウやキウイの棚。奥のスペースも含めて60坪あり、その他家の庭が40坪、借りた畑が250坪ある

多品種接ぎのメリット

 狭い土地でたくさんの品種を楽しめるほかにも、多品種接ぎには以下のようなメリットがあります。

 一つは、受粉樹も省スペースで育てられること。受粉時以外は必要のないキウイの雄木などを枝の一部に接いでおくことで、スペースが有効に使えます(本誌p88参照)。二つめに、品種特性を早期に確認できること。成木に接ぎ木するので、新しく入手した品種や実生品種も1、2年で着果させられ、味や形を確認できます。三つめに、1本で長期収穫が可能なこと。多品種接ぎの樹を1本植えておけば、手軽に長く収穫を楽しめます。例えば、カンキツはスダチが8月、極早生ミカンが9月に収穫可能で、毎月別の品種が食べごろとなり、翌年8月のヒョウカンまで一年中味わえます。ブドウは7月末の「ヒムロットシードレス」から始まり、12月初旬の「ウルバナ」まで間断なく収穫可能。スモモやプルーンは6月から10月、カキは9月末から12月初旬まで楽しめます。

 一方、害虫が出て薬剤をかけたときに、同じ樹のなかでも薬害の発生する品種があったり、穂木から台木に感染する「高接ぎ病」によって樹全体が枯れるリスクもあります(本誌p89)。また、品種ごとの枝管理が少々複雑となるのも難点でしょうか。

春でもできる「宮式芽接ぎ」

 接ぎ木の方法は、切り接ぎ、割り接ぎ、腹接ぎ、芽接ぎなど各種やっていますが、少し変わった方法も実践しています。私の苗字をとって「宮式芽接ぎ」と呼んでいます。

 一般的な芽接ぎは、台木の樹皮にT字の切れ目を入れて剥ぎ、そこに穂木を差し込みます(本誌p86)。養水分の流動が活発で皮剥ぎしやすい夏から秋が適期ですが、春でもできる方法を工夫しました。

 下の写真のように台形に削った穂木を台木にはめ込み、芽の部分を残して接ぎ木テープを巻くのです。T字芽接ぎと同じように外気への露出が芽だけとなり、完全密封にかなり近づきます。これで穂木の乾燥による失敗を防ぎます。

 近年は、パラフィン系テープの「ニューメデール」が出て、簡単に穂木を完全密封できるようになりましたが、安価な接ぎ木テープのみを使う場合におすすめです。

 芽接ぎは下の写真のように、1本の枝に連続的に何カ所も接ぎ木できます。私の場合、購入した棒苗の途中に数品種接いだり、長い枝に実生品種(性質がそれぞれバラバラ)を続けざまにたくさん接いで、それぞれの特性を確認するときなどに、この方法を活用しています。


 宮式芽接ぎのやり方 

モモの枝で実演。一般的なT字芽接ぎと違って皮を剥がない。樹液流動の少ない春でもできる。

 穂木の準備 

モモは葉芽と花芽が隣り合ってついているので、まず指先で花芽だけを取り除く
1芽残して小さく切った穂木を半分に割く
両端を削って台形型にする

 台木を削って穂木と合わせる 

穂木の長さに台木を削り、両端に切り込みを入れる
台木の切り込みに穂木を差し込む。切り接ぎと違い、1本の枝に連続的に接げる
芽の部分だけを残して接ぎ木テープをまく。念のため、芽の部分のみニューメデールで覆ってもよい

活着しやすい「変形切り接ぎ」

 もう一つ、よく使っているのが「変形切り接ぎ」です。通常の切り接ぎと基本的には同じですが、穂木、台木ともに接着面を木質部がぎりぎり現われる程度しか削りません。そうすることで、左図のように形成層の露出部が多くなり、形成層どうしの接着が容易になります。穂木と台木の太さに大きな差があっても、形成層を合わせやすい方法です。

 これならヤマモモやフェイジョアなど、接ぎ木が難しいといわれる樹種でも成功率が上がります。これらの樹は葉芽(穂木に使用)が細い枝につく傾向があり、一方で台木側は太くて勢いの強い枝でないと活着しません。一般的な切り接ぎでは、形成層を合せるために穂木の位置を台木の切り口の端に寄せる操作が必要ですが、「変形切り接ぎ」の場合は不要。テープで固定するときに枝がずれたりしにくいです。

 また、この方式で削るのは軟らかい皮と形成層だけです。木質部をたくさん削る必要がないので、小さなカッターナイフでも十分できます。


 変形切り接ぎのやり方 

カンキツで実演。穂木も台木も木質部ぎりぎりまでしか削らない。

 穂木の準備 

2〜4芽残して穂木を切る。先端は鋭角にしておく
穂木の芽を残して薄く削る
台木に引っ掛けられるように切り込みを少し入れる

 台木のカット面の違い 

 台木を削って穂木と合わせる 

台木にする枝を斜めに途中切りして、接着面を薄く削る
木質部(薄緑の形成層の内側、白い部分)がぎりぎり現われるくらいに薄く切った
台木にも切り込みを入れて穂木を差し込む。2カ所の切り込みで固定されている
ニューメデールを全体にまく。穂木がずれないように中央部は接ぎ木テープで縛っておく(麻ヒモでもよい)

樹勢が強い品種は下、弱いのは上に接ぐ

 ほとんどの果樹は先端付近ほど勢力が強い傾向があり、先端の高い位置に接ぎ木するほどよく生長します(頂芽優勢)。カンキツもその例外ではありません。

 一方、同じ樹種でも品種ごとに樹勢の強弱があり、勢力の弱い品種を根元付近に接ぎ木すると、樹全体の勢力が弱くなり、多品種接ぎに不向きな状態になります。とくにカンキツは種類が多く、樹勢もまちまちなので注意が必要です。

 私が育てているカンキツの樹勢は、強い順に①オレンジやグレープフルーツなどの中晩柑やレモン、②温州ミカンとその派生品種、香酸カンキツ、③キンカン、④フィンガーライム、となります。

 多品種接ぎで育てる場合、①を根元に近い位置に接ぎ木し、次に温州ミカン、最後に樹の上部にキンカンやフィンガーライムを接ぐのが望ましい樹形です。実際は必ずしもこの順番にならないこともありますが、たとえばフィンガーライムを台木近くに接いで、その先に温州ミカンを接ぐと、樹が大きくなりません。

 庭のカンキツ 100品種接ぎの樹形 

樹勢の強い中晩柑やレモンを下に、温州ミカン類を中間に、キンカンやフィンガーライム(FLと表示)を上部に配置し、樹勢バランスを保たせている
*果実はすべて販売せずに自家消費している。登録品種の穂木の販売・譲渡もしていない。
接ぎ木後は忘れないようにビニールテープなどを貼り付けて日付と品種名を書いておく

異種間接ぎもできる

 ある台木に、まったく異なる遠縁の樹種を接ぎ木することはできませんが、近縁種なら異種間でも接ぎ木でき、栽培もおおむね可能です。ただし、予期しない枯れ込みの発生もあるので、趣味の園芸、盆栽の感覚で楽しむのがよいと思います。

▶︎リンゴ&ナシ

 同じバラ科のナシにリンゴ、あるいはリンゴにナシのどちらでも接ぎ木可能です。ただ、リンゴはナシよりも勢力が弱くなるため、リンゴの品種を先端に、ナシの品種は低い位置に配置。つねにナシの勢力を弱める処理が必要です。

▶︎スモモ&プルーン&モモ

 バラ科の核果類での接ぎ木です。スモモだけでも品種間の樹勢に差があるのですが、これにモモやプルーンも組み合わせた場合、より微妙な生育調整が必要になります。

 たとえば、スモモがメインの樹にモモやプルーンを接ぎ木すると、接いだ直後の生長はよいのですが、伸びた枝についた芽はほとんど花芽になってしまい、葉が出ずに1、2年で枯れてしまうことが多くなります。それを避けるために樹勢の強いスモモの枝を縮小する必要があり、実用的ではありません。モモとプルーンは比較的樹勢が近いので、相性は悪くないと思います。

 現在はプルーン主体の樹にモモとスモモを接ぎ、スモモの枝はあまり大きくしないようにしていますが、そこそこ育ってくれています。

 以上、まったく興味本位の栽培です。遊び心で読んでいただき、何かのヒントになったらうれしいです。

(埼玉県行田市)

接ぎ木の時期の注意点

 ブドウの場合、台木を切断すると樹液が出続ける5月末までは切り接ぎしてもほとんど成功しない。6月ごろの切り接ぎか、緑枝接ぎがよい(本誌p86)。
 キウイは、4月中旬になって葉が数枚開き、台木の枝を切っても樹液が出なくなるころが最適。
 フェイジョアは4月中旬までのまだ新芽が動いていない時期の接ぎ木はほとんど成功しない。穂木の新芽が動くころに、動いた新芽を取り除いてから接ぎ木すると容易に活着する。
 カンキツを含む多くの果樹は芽が動き出す3月中旬までに接ぎ穂を採取し、そのころから接ぎ木をするが、ポリ袋などで密封して冷蔵庫で保管すると夏まで接ぎ木ができる。やや乾燥気味のほうが長期保存しやすい。水分過多だと1週間ほどで芽が死ぬことがある。


記事といっしょに 編集部取材ビデオ


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