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農家6人で「特定地域づくり事業協同組合」を立ち上げた

青森・山本又一

 2020年農林業センサスによると、基幹的農業従事者は136万3000人で(うち7割を65歳以上が占める)、5年間で22%も減ったという。頼みの綱だった外国人技能実習生も新型コロナで入国できず、農家の人手不足はいよいよ深刻だ。そこに登場した制度が「特定地域づくり事業協同組合」(本誌p290参照)。農家の評判は上々である。

外国人の受け入れはコロナで頓挫

 青森県三戸郡南部町では、サクランボや西洋ナシ、スモモやウメ、食用ギクやナス、サヤインゲンなどの栽培が盛んです。これらの生産量は県内一を誇りますが、担い手の農家は、比較的小規模な家族経営が中心です。また、新規就農者は少なく、農家の高齢化で労働力が低下。耕作放棄地が増えて年々目につくようになってきました。

 以前から仲間と集まっては、人手を増やすいい方法はないかと話し合っていたわけです。みんな同じ地域に住み、同じ悩みを抱えた農家です。

 外国人技能実習生の受け入れも考えました。日本の農業技術は世界に誇る高いレベルにあるはず。海外の人を受け入れるのは、国際貢献にもなると思いました。そこで2020年に組合を設立、実習生を受け入れる準備も整えました。ところが、新型コロナウイルスの影響で外国人が日本に来られなくなり、頓挫してしまったのです。

地域の担い手を育てる新しい事業

 別の手を模索している時に仲間の山田賢司さんが調べてきてくれたのが、総務省の「特定地域づくり事業協同組合」制度です。再び仲間たち5人に声をかけて、南部町役場の方々と改めて協議しました。

 これは、地域の担い手である人材が安心して活躍できるように、さまざまな仕事を組み合わせて、年間を通して働けるよう環境を整える事業。仲間と組合をつくって職員を雇い、それぞれの圃場に派遣して働いてもらう仕組みです。最大の特徴は、雇用した職員の人件費のうち半分を、国と市町村が助成してくれること。助成を利用して一定の給与水準を確保できれば、若者が定住してくれるはず。外国人に頼らなくてもすむ。とてもいい制度だと思いました。

組合の従業員たちに作業を説明する筆者。2haで果樹を栽培し、市場や直売所、インターネットなどで販売する
モモの収穫作業をする従業員(派遣職員)

組合の事業は農業に特化

 事業を進めるため去年5月、青森県庁にて「特定地域づくり事業協同組合」の認定を受けました。「人材サポートなんぶ協同組合」の立ち上げメンバーは計6人。理事5人(私が代表理事)、監事1人で、全員が農家です。出資金120万円は6人で20万円ずつ出し合い、事務所は商工会議所に間借りしました。

 メンバー全員が農家ということもあり、組合の事業内容は「農業」に絞りました。特定地域づくり事業はさまざまな仕事を組み合わせられるのが大きな特徴ですが、多業種の組合にしてしまうと、農業に特化した人材確保が難しくなると考えたのです。

 また、農業だけでも、南部町には果樹も水稲も野菜もあり、6次産業化で加工に取り組む仲間もいます。それらを組み合わせればなんとか通年雇用できるのではないかと思い、まずは農業一本で始めることにしました。

 いっぽうで積雪する冬場に仕事を確保できるか、そもそも本当に農業をやりたい若い人がいて、南部町に来てくれるのか。心配ごとは尽きませんでした。

IターンやUターンの若者が来た

 ところが、人集めには意外と苦労しませんでした。事務局は、仲間の知人(町内在住)にお願いしました。1人目の職員(派遣職員)は東京都出身の加納良介君(33歳)です。事業を開始する直前、南部町に家族でIターンを検討している若者がいると聞いて、声をかけたのです。事業開始と同時に、職員になってもらいました。

 その後の人材募集はハローワークなども利用しましたが、求人サイトIndeedインディードの反応がよく、関東在住のUターン希望者などが応募してくれ、加納君以外に20代の若者3人を採用しました。農業をしたい人がたくさんいたことにビックリでした。

 彼らは本当によく働いてくれます。例えば7月初旬の1週間を例にすると、月〜水曜日は4人全員に私の園地でサクランボの出荷作業を手伝ってもらい、木・金曜日は別の組合員の園地で、ウメやアンズの収穫作業に従事してもらいました。10月以降はリンゴやナガイモ、ゴボウなどの収穫作業や、水稲農家で収穫したモミの袋詰め作業などをしてもらいました。

 仕事は週5日、土日祝日は休み。1日の実働は8時間で、基本は8〜17時勤務(休憩1時間)。ただし事前に打ち合わせておけば、変更もできます。夏場は朝早く働き始めて、お昼休みを長めにとったりするのも可能です。

 彼らが誰の畑で働くかは毎週予定を立てています。現在は加納君がLINE(ネット上の連絡ツール)で各農家の要望を聞いて、シフトを組んでくれます。一軒の農家だけで人を雇うと、職員はその作目の仕事しか経験できません。各農家をローテーションしてさまざまな農業を経験できるのは、組合ならではの働き方だと思います。各農家の急な予定変更や天候不順にも対応できます。

農家が組合に払う利用料(1人当たり1時間1100円)が職員の給与となる。
国や町から給与と同額の助成金が出るので、社会保険料や手当など人件費に充てている。

月給20万円、各種保険完備

 職員の賃金は月給20万円(時給1100円)。青森県の農業では高めの設定です。正規雇用で、社会保険と労働保険(労災保険と雇用保険)も完備。通勤手当もあります。また、年1回の健康診断を設けています。

 各種手当については、22年度以降少しずつ増やしていきたいと考えています。彼らのモチベーションアップにも繋がるはずです。

 これら人件費のうち半分は町の助成金(その半額は国の交付金)で賄います。残り半分が、組合員の負担となります。職員に仕事を頼むと1人当たり1時間1100円(税込み)の利用料(職員の時給)を組合に納める仕組みです。その他に賦課金として組合に毎月1万円を払っています。事務費などに必要な諸経費です。

ナガイモの収穫作業。去年は例年より約10日早く終わった
南部町のニンニクを食べて育ったが、皮むきは初めて

目下の課題は冬場の仕事確保

 現在は、冬場の仕事確保という問題に直面しています。ニンニクを栽培する組合員が黒ニンニクの加工に取り組んでいて、当初はそれも冬の仕事になると考えていました。ところが事業内容を農業に絞ったため、食品加工は組合の事業とは認められなかったのです。想定外でした。

 果樹農家は冬場にせん定作業もありますが、技術を体得するのに何年もかかるため、すぐには任せられません。そこで、つい先日開催された地域のせん定講習会には、職員たちも参加してもらいました。勉強を重ねてもらい、せん定作業も冬場の仕事にできれば助かります。

 さらに最近、組合員(農家)が新たに3人増えました。町内で説明会を開いていて、22年度も数人加入してもらえる予定。冬仕事のある農家を特に募集しています。近年は加工やネット販売をする農家も増えてきたので、冬場の仕事不足は解決できそうです。

園地のじゃまな樹を伐採。チェンソーも扱えるようになった

いつかは地元で就農してほしい

 職員のうち2人は農業高校出身ですが、卒業後は別の職種で働いており、事実上、全員が農業未経験者としてスタートしました。それでも、農家の教えをしっかり受け止めながら主体的に働く若者たちなので、のみ込みが早く、日を追うごとにスキルアップしている印象です。

 彼らのおかげで去年、ナガイモの収穫作業を例年より10日ほど早く終えることができたという農家もいます。ホームページやインスタグラム(ネット上の写真共有サービス)で情報発信もしてくれて、事業を始めた成果が少しずつ表われ始めているようです。

 また、若者たちは明るく、一緒に働いていてとても楽しいのです。私は去年、母を亡くし、園地に一人でいることが増えました。今では、彼らが自分の園地に来てくれるのが楽しみになっています。以前から仕事をお願いしているパートさんたちも、若者とコミュニケーションをとって盛り上がっています。彼らが来てくれて、地域が明るく活性化したような気がしています。

 彼らは働き始めてまだ1年も経っていないので、甘いところもまだたくさんあります。しかしこの組合で、稼ぎながらさまざまな農業を学んでもらい、いずれはこの地域で、自分で農業経営してくれるようになったら本当に嬉しいです。

(青森県南部町・人材サポートなんぶ協同組合)


農家・法人の労務管理

福島邦子・福島公夫 著

農業で雇用が増えているにもかかわらず、他産業の労務管理の本はたくさんあっても、農業のものはほとんどない。農業と他産業の労務管理の最大の違いは、労働時間・休憩・休日など労務管理の重要なポイントで、農業は労働基準法の適用除外になっていることだ(労働基準法第41条)。たとえば労働時間は、農業は天候に左右されることなどから、労基法の「1日8時間以内」という原則が適用されない。農業の労務管理のポイントを適切に解説している本書を、農業経営者や農業指導者だけでなく、就農希望者・従業員の方々にも読んでいただきたい。

就農への道

堀口健治・堀部篤 編著

実際に就農した人を親元就農、新規独立就農、雇用就農の三つのタイプに分け、その数や特徴、就農の工夫、受け入れる側の対応や工夫、課題等を多様な事例を紹介しながら解説。国や自治体、農協等の支援・推進政策も。