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山菜大好き、やっちゃんと春の野山を歩く

愛媛県西予市・山内泰子さん、勇雄さん

山内泰子さんと勇雄さん。大量のツクシが採れて大満足(写真はすべて田中康弘撮影)

春になるとウズウズしてくる

 漬物作り四〇年。「やっちゃん」こと山内泰子さん(六三歳)。春になると毎日のように夫の勇雄さんと近くの山に行って山菜を採ってくるのだが、その量は半端じゃない。毎年ツクシは二〇〇kg、ワラビも二〇〇kg、最近人気のイタドリにいたっては二t。他にも、ウド、タケノコ、フキノトウ、ツワブキなどをごっそり採ってきては、ほとんど漬物にして、家で食べ、人にあげ、直売所で売る。

「私ね、十二月から二月頃までは冬眠生活みたいに静かにしとるんやけど、山に行く夢を見るの。もう山に行きたくてウズウズする。ウフフフ」

「どこそこの山でワラビがたくさん採れたとか、これを寝言でやりよる」と、すかさず勇雄さんが笑う。

 そんなやっちゃん夫婦と、ツクシが出始めたという三月上旬、一緒に山を歩かせてもらった。

長靴に履き替えて、カッパを着て、山へ入る準備をする2 人
いつでも山に行けるように車のトランクには山菜採りに必要な鎌や袋などの道具が入っている

初物のワラビは嬉しくなっちゃう

 勇雄さんの運転で最初に向かったのは毎年ワラビがいちばん早く出るという山。ものすごく急な斜面で藪と化している。やっちゃん、袋と鎌を手に持つと、急な藪の中をポンポン下りていった。ほどなくすると…… 「あった!」「ここにも。ほら、ここにも!」と、やっちゃんの声が響いた。

急斜面の藪を颯爽と下り ていく、やっちゃん

「やっぱり出てたねえ。急に温くなったからね。去年より一〇日も早い。初物よぉ~。私ね、ワラビを見ると嬉しくなっちゃうの」

 やっちゃんは、山に入ると動きが俊敏になったように見える。

「友達にね、『平地ではよー走らんけど、山では走る』って言われるのよ。アハハハー(笑)。だって次から次にワラビが見えるから自然に体が動くんよ。それにね、私はワラビがよく見えるの」

とっても急な山だが、ワラビ採りに夢中な2 人

 いつも勇雄さんの二倍くらい採るというやっちゃんは、藪の中でワラビを見つけるコツがあるという。目線は探したい場所の一カ所に集中するのではなく、少し上から順々に下に向けていくと、小さなワラビも発見しやすくなるそうだ。

「あ、痛たたたー。夢中になると転ぶんよー。この姿も写真に撮る? アハハー(笑)」。山にいるときのやっちゃんは、本当に嬉しそう。

こんなところにワラビがあったー!
ワラビ

「山歩きは一石二鳥にも三鳥にもなるけんね。急な斜面を歩くのはしんどいけど、健康にもいいし、美味しいものが採れる。しかも初物は長生きするって言うやろう。これだけは売らんの。お世話になっている人にあげるようにしてる」

 そんな話をしながら、あっという間に初物のワラビが三〇本ほど採れた。

大量のツクシに、心弾むわ~

 次に向かったのはツクシが出ている山。知り合いのミカン園で、さっきの山より平坦で見晴らしもいい場所だ。地面を覗くと、あるわあるわ、一面にツクシが生えている。

「お父さん(勇雄さん)、もうこんなに伸びとるよ! 二日前に来たときはまだ少しだったのに、よう伸びたな。何ぼでもある。心弾むわ~」

 やっちゃん、勇雄さんと二手に別れてツクシを採り始めた。

コウブシの草の中に生えているツクシは、伸びがよくて頭も締まっているから漬物には最適
左は胞子がまだ飛んでないツクシ。中央は揺すると飛ぶ。右は すでに飛んでしまったもの。左のようなツクシがいい

「ボンボンさん(頭の部分)が締まってて、茎が硬いのが漬物にするには美味しいの」。頭が開いているツクシは胞子が飛んでしまったものだが、締まっていれば残ったまま。この胞子にほんのりとしたえぐみがあって、漬物にしたときに何ともいえない味わいになるという。それが好きなお客さんが多いのだ。

 ちなみにツクシの胞子には、希少なミネラルが含まれていて、重度のスギ花粉症を直したり、男性の精子を作る元になるともいわれている(『野山の薬草』DVDブック参照)。身体にも相当よさそうだ。

 無我夢中のやっちゃんは、座りながら採ったり、ときには四つん這いになったり。急いで採るときは四つん這いがいいそうだ。

 頭の上ではホーホケキョとウグイスが鳴き、心地よい風が吹いてきた。

ツクシさん、せっかく伸びてきて申し訳ないけど、ちょっといただくわね

「あー気持ちいい! 山に来ると機嫌がよくなるから夫婦喧嘩したときもいいんよね(笑)。ツクシは袴を取り除く下準備に手間がかかって、それが嫌で採らんという人も多いけど、私は苦にならんの。昨日も徹夜で袴取りよ。ちょっと眠かったけど、山に来るとすぐ元気になる。山が呼んどるんよ。ウフフ」

 そんなこんなで約一時間、二人で一〇kgほどのツクシが採れた。

やっちゃんの後ろの茶色に枯れた樹のような株がイタドリ。「この周辺にイタドリの芽が出てくる」

一年中食べてほしいから漬物に

 若い頃から漬物作りが大好きだったやっちゃん。二〇代で嫁に来た後、婦人会や子供たちのPTAの会合には、お手製の漬物を必ず持っていった。とても喜ばれるからだ。

 そんなある時、高校のバザーで漬物を出してほしいと頼まれて、粕漬けを出したら、一日で一〇〇パック以上売れた。「これは商品として売ったほうがいい」「看板作ってあげるから」などと友達に口々に言われ、あれよあれよという間に漬物屋さんになった。それが一五年ほど前のこと。

 現在、やっちゃんの漬物のレパートリーは四二種類もある。春の山菜から始まって、タマネギにニガウリ、ショウガ、ダイコンなど。さらに、ギンナン、クリなんかも漬けるので、近所では「やっちゃんにかかると何でも漬物になる」と評判なのだ。

「漬物は日持ちするやろう。中でも粕漬けが一番。冷凍すれば何年でも持つから、山菜だって一年中食べられる。そこが漬物のいいところ」

もったいないから漬床を再利用

 プラスチックの弁当容器に詰めたメイン商品の漬物セットは、いろんな味を楽しめるように考えたものだ。その中に必ずといっていいほど入れるのがツクシの粕漬け。コリコリとした食感で、甘みがあって、ほんのり苦味もあって、じつに美味。粕漬けなのに、まるで浅漬けのような食べやすさ。

「昔の漬物は塩をいっぱい使って辛かったやろう。だから今風に食べやすいように考えたんよ。最初はシロウリだけを粕漬けにしとったんだけど、ふつう一年漬けたら漬床は捨てる。でも、これじゃもったいないと思って、一年使った古床を水で少し薄めて、みりんとか焼酎なんかを入れて調味液のようにして漬けてみた。そうしたら美味しいのができたの」

 やっちゃんの漬物は粕漬けが多いが、ほとんどがこの漬床再利用方式だ。だから、うす塩で食べやすい。材料によって下ゆでの時間を変えるので、歯ごたえも抜群で風味もいい仕上がりになっている。

金持ちじゃなくて人持ち

 漬物パックは直売所を中心に毎年一〇〇〇パックほど売れている。その他、お節句や法事、冠婚葬祭のときにもよく頼まれる。そういう時は大きな丸いお皿に盛り付けて、オードブル仕立てにすると、とても喜ばれる。また地元の知人に頼まれて、六年前からはインターネット販売も始めている。おかげで県外のリピーターも増えた。

 漬物の売上は年間一〇〇万~一五〇万円。作っているものを全部売ればじつは三〇〇万円くらいになるのだが、やっちゃんは気前がいいので人にどんどんあげてしまうのだ。

「儲けが目的じゃないんよ。喜んでもらえると嬉しいの。だからね、私は金持ちにはなれないけど人持ちなの」

 心が通ってきた人にはついついあげてしまう。そうすると、「畑ごとダイコンをもっていけ」とか、「ワラビが出たから採りに来て」とか、そういう人がどんどん増えてくる。実際、漬物の材料はほとんどが、このようなもらいもの。つながりができると嬉しいから、どんなに忙しくてもまた山に行ってしまうやっちゃんなのである。


ツクシの粕漬けの作り方

1.山から採ってきたらすぐに袴を取る。1kgで1時間かかる作業で、10kgだと10時間。この時期は子供たちの力も借りて家族総出で夜な夜な袴を取る

2.80度のお湯に塩を入れ(塩分濃度は海水が目安。3.5%くらい)、袴をとったツクシを30秒くらいさっと塩ゆで。すぐにあげないとコリコリした食感がなくなる

3.1年使った粕漬けの漬床に、水やみりん、焼酎、砂糖などを加え、トロトロの調味液にする。味は自分の好みに合わせる

4.ゆでたツクシを熱いうちに調味液に漬ける。そのまま冷凍すると、細胞の組織が壊れて調味液が浸みやすくなるので、たった1週間で浸かる。常温だと1カ月くらいかかる

塩ゆでしているところ
友達が作ってくれた看板

*月刊『現代農業』2013年5月号(原題:山菜大好き、やっちゃんと春の野山を歩く)より。情報は掲載時のものです。