【チバッてます! 沖縄雑穀生産者組合】第5話(最終話):五穀にまつわる大予言「赤椀の世直し」―口噛み酒づくりと神歌に込められたメッセージ
2024-11-20雑穀とは、モチキビ、タカキビ、アワなど、主食以外の穀物のこと。近年、雑穀が健康や持続可能な食料生産の観点から注目されています。本連載では、沖縄を舞台に、雑穀の作り方や農家のこと、農耕儀礼などを、沖縄雑穀生産者組合組合長の中曽根直子さんにご紹介いただきます。
最終回は、八重山諸島の口噛みによる当時の神酒作りのことや、神歌に込められた先祖からのメッセージなどについてです。
*連載タイトルの「ちばる」とは沖縄の方言で「頑張る」の意。よくチバリヨーって聞きますよね
中曽根 直子
前回(第4話)でもお伝えしたように、沖縄にとって五穀の中でも特にアワは、祭りや儀礼と深く結びついていました。今も離島地域を中心に、豊年祭やウマチーといった農耕儀礼の際、現在では主に米(アワはほとんど栽培されていないため)でつくった神酒を神に捧げ、そのお下がりを集落の皆でいただき、豊年を祈願するという風習が残っています。
*現代の「神酒」はノンアルコール
口噛みによる神酒づくり
神酒は古くは「口噛み」によってつくられていました。ものの本には、口噛み酒は必ずと言っていいほど、“歯のきれいな乙女”が米やアワなどの穀物を噛み、それを甕などに吐いて醸すとされています。しかしながら、先日、波照間島の介護施設「すむずれの家」で80代後半の方々にヒヤリング調査をさせていただいた際、驚くべき事実を知りました!
「歯がきれいな人が選ばれて口噛みしていたんですよね?」と問う私に、「虫歯だろうが何だろうが噛んでいたよ」。続けて、「だって選んでなんていられなかったのに」とのこと。よく聞けば、口噛みはなかなか大変だったようで、地域の女性が集まって、炊いたアワを口に入れ、細かくなるまで噛んで、壺にペッと吐き出し、それをガーゼで絞り、ガーゼの中に残った粕を再び口に入れ、噛んでは吐く……というのを3〜4回繰り返して、粒のないなめらかな状態に仕上げていたそうです。
「人が噛んだものまで口に入れるんだよ、今、考えたら、気持ち悪くてできないよ。あの頃はもの考えなかったからね」「そうそう、言われた通りにやっていたよ」と、おばあちゃんたちは笑いながら口噛みの実際について話してくれました。そうやって作られた神酒は祭りや儀礼で、まず神に捧げられ、儀礼の後、地域の人もいただいていました。調べてみると口噛みの風習は1900年頃まで日本各地で行なわれていたようです。沖縄については、戦後もしばらく行われていたそうで、このときヒヤリングした昭和9年生まれのおばあちゃんたちは「二十歳頃まではやっていた」と語っていました。
この話を裏付けるかのように、加屋本正一著『波照間島』(荒蝦夷)にも、1955年、波照間婦人会において、口噛みは非衛生であると、廃止されたことが記されています。
日々の祈り
本土よりも50年以上長く口噛みの風習が残っていた八重山諸島。そのおかげで、口噛みを実際に行なっていた人々から話が聞けて、驚きと感動がありました。よく八重山諸島には、原始日本が残っていると言われます。島には家屋を破壊するほどの大きな台風が来ます。そんな厳しい自然環境の中で生活している島の人々は、きっと日々祈らずにはいられないのだと思います。
「今日も無事でありますように」
「食べものが得られますように」
戦後ほどなくして、八重山諸島では五穀はほとんど栽培されなくなりましたが、五穀豊穣を祈る豊作祈願は続いています。そして、祈りに欠かせないと、今も神酒作りは続いています。
ところで八重山の祭りでは、神酒はこのような器に注いで神に捧げているのをご存知でしたか?
五穀豊穣と神歌
沖縄の祭り・儀礼のほとんどは「予祝」〈よしゅく〉です。あらかじめ祝うと書いて予祝。つまり前もって豊作を祝福しておくことで、その状況を実現可能にするわけです。だから儀礼の際に歌われる神歌も、言霊の呪力をふんだんに込めた予祝歌と言っていい。そんな沖縄の神歌の中に頻繁に登場するのが、「赤椀の世直し」という一度聞いたら忘れられないインパクトのあるフレーズです。
「赤椀の世直し」というフレーズは、沖縄本島とその周辺にある離島の神歌にたびたび登場します。
例えば、沖縄県国頭村辺土名〈へんとな〉の神歌では、
あかわん ゆのーしによー (赤椀、世直しの椀に)
なかむら はたゆら (溢れるほどに盛って)
やれやれ ゆぬ ゆぬつらさ (なんとユーは清らかなことか)
また、沖縄県金武町の「六月祭ノオモイ」と題された神歌の中にも、
やまとから くたりたる (大和から下った)
やましろから くたりたる (山城から下った)
赤椀の ゆなわし (赤椀の世直し)
黒のいの ゆなわし (黒塗りの世直し)
この歌には「赤椀」だけでなく、「黒いお椀」も対で登場しています。名護市教育委員会編纂の『やんばるの祭りと神歌』によれば、この歌は「神酒を入れた赤椀、黒椀を讃え、それを神に捧げながら豊穣を祈願することを歌ったもの」とのこと。神酒は、昔はアワやキビなどの五穀でつくられていました。つまり「赤椀の世直し」とは、五穀が豊作になることが世直しになると言い、豊穣がもたらす平和な世を予祝したものと考えられますよね。
これと全く同じ意味合いを持つのが、八重山諸島の神歌に登場する「ユバナウレ」と宮古島の「ユヤナウレ」です。民俗学の本を紐解くと「ユバナウレ」は漢字で「世は稔れ」と書き、「世」は「穀物」を表し、「稔れ」は「直れ」の意味を持つのだと。つまり「ユバナウレ」とは、五穀豊穣であれば世が直る、世の中がよくなると言う意味で、宮古島の「ユヤナウレ」も同様です。
祖先は今を生きる私たちのために、一番大事なことを神歌に託して伝えてくれているのではないでしょうか。「五穀豊穣」。考えてみればとてもシンプルなことですよね。でも、そんなシンプルなことさえできていないのが、今の沖縄です。ほとんどの食べ物を県外からまかなっています。
神歌に託された祖先からのメッセージを予祝にできるよう、五穀豊穣で世直しできるよう、沖縄雑穀生産者組合は、来年、「一般社団法人」として再スタートします。収穫イベントや五穀料理教室なども八重山諸島を中心に行なってまいりますので、ぜひ、インスタをフォローしていただき、仲間になっていただけたら嬉しいです!
そして、神歌や「赤椀の世直し」に興味がある方は、名護博先生の『邪馬台国総合説 赤椀の世直し―沖縄・奄美は原初ヤマトの生みの母体であった―』を読んでみて下さい。沖縄には想像を超える面白い歴史があったかもしれないこと、そして、今も昔も平和をつくるのは女たちの本気が大事なのだと教えてくれる本です。これからの未来もずっとずっと平和でありますように。軍事化がどんどん進む沖縄から、世直し、精一杯チバっていきますね〜!!
これまで全5話、読んで下さって、ありがとうございました!
これからも沖縄の五穀農家のことや、五穀と祭祀の関係、五穀料理など様々に発信してゆきます。沖縄雑穀生産者組合のInstagramのフォロー、よろしくお願いします!
「赤椀の世直し」については、以下のサイトもご覧下さい。
- 浮島ガーデンのブログ 「赤椀の世直し!!」
- 琉球新報の記事 「ムーチー(鬼餅)と女子力の不思議な関係」
中曽根 直子(なかそね なおこ)
北九州市生まれ。五穀料理研究家。沖縄雑穀生産者組合 組合長。
2011年、島野菜と雑穀を使ったヴィーガン・レストラン「浮島ガーデン」を那覇にオープン。沖縄の在来雑穀の復活と種の保存、生産拡大のため「沖縄雑穀生産者組合」を立ち上げる。料理教室や農業イベント(農家と消費者をつなぐマルシェ)、食の映画祭など主催してきた他、沖縄雑穀生産者組合や島野菜の宅配「ベジんちゅ」を立ち上げるなど様々な活動を通して、沖縄の長寿復活に全力投球中。
インタビュー映画のご紹介
「ユバナウレ 〜五穀の祈り〜」
2023年夏に撮影したインタビュー映画をご紹介します。30分程度の短い映画ですが、半世紀以上、五穀栽培に携わってきた竹富島の長老をはじめ、タカキビ栽培をスタートさせた元サトウキビ生産組合長など、島々の農家さんたちが登場します。なぜ、この映画を撮ったのか、詳しくは沖縄雑穀生産者組合のYouTubeに書いてありますので、ぜひ、読んで下さい。インタビュー、面白いですよ〜。
【チバッてます! 沖縄雑穀生産者組合】
- 第1話:五穀の島・沖縄からハイサイ
- 第2話:雑穀のポテンシャル
- 第3話:雑穀で肉・魚・卵・乳製品の味!?
- 第4話:アワで醸し祈る、沖縄の農耕儀礼
- 第5話(最終話):五穀にまつわる大予言!?「赤椀の世直し」
著者の中曽根直子さんが『うかたま』74号(2024年春号)で、ナビゲーターとして登場しました。沖縄の島豆腐の現状と、おからでつくる「おから味噌」について紹介されています。
そだててあそぼう
アワ・ヒエ・キビの絵本
古澤典夫 編
及川一也 編
沢田としき 絵
雑穀類は、長寿食やアレルギーを抑える効果などで注目されている、野性的で栄養タップリのパワフル作物。古代ヨーロッパ人や、お米より古くから縄文人も食べていた大切な主食だった。雑穀の栽培と料理に挑戦しよう。