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【農家が教える 鉄のミネラル力】第5回(最終回) 鉄茶で土がふんわり、アミノ酸たっぷりの葉物野菜に

あいかわらず肥料・資材の値上げが止まりません。農文協から、作物の生育促進と食味向上、さらには地力アップに期待できるという「鉄」活用について、「農家が教える 鉄 とことん活用読本」という本が発行されました。この連載では、本書の読みどころをご紹介します。

タンニン鉄とは…?

鉄は生きものにとって最重要なミネラルの一つだが、自然界ではすぐに酸化して、水に溶けずに沈殿するので、循環しにくい。しかし、アミノ酸や有機酸が鉄を包み込んで錯体化(キレート化)すると、水とともに循環し、植物の根から吸収されやすくなる。従来、自然界での主要なキレート剤は、森の腐葉土に含まれるフルボ酸と考えられてきたが、より人間生活に身近なタンニンも鉄のキレート剤であり、鉄分循環のカギを握る物質として注目されだした。

農文協編 『今さら聞けない 農業・農村用語事典』 p88 「タンニン鉄」より

埼玉・板倉大和

鉄入りのソバ茶で目覚めスッキリ

筆者(42歳)。鉄茶をまいたコマツナは旨みがすごい(写真はすべて編集部撮影)

 埼玉県では街路樹のせん定枝と道路・河川の刈り草を材料として堆肥を製造し市民に配布しており、私はその事業の受託業者として20年ほど関わってきました。

 製造の実際を通して微生物や発酵について学び、堆肥と土づくりのノウハウを得てきました。この技術を農業に生かすべく、昨年より春日部市にて70aの耕作放棄地を借り受け、法人(株式会社いた倉)として新規就農しています。

 タンニン鉄との出会いは、昨年11月。知人の開催したイベントで野中鉄也先生と出会ったことからです。現在の自然環境では鉄が循環していないこと、人や作物にとって鉄がいかに有用かを知り、まずは自分が飲むことから始めました。

 従業員と一緒に毎日飲んでいるソバ茶に漬物用の鉄を入れると、ソバのルチン(ポリフェノール)に反応して茶の色が黒くなります。これを飲み始めて2週間ほどで朝スッキリ起きられる感覚を得ました。この原理を私も追求したいと思い、「一般社団法人 鉄ミネラル」の一員となり、研究活動に参加することにしました。

当社で作る雑草堆肥。街路樹のせん定枝や河川の刈り草で作る

鉄茶区は雑草の勢いもよい

 当社が借りた畑「ひのもとファーム」は、20年以上耕作されていませんでした。しかし、地主さんがこまめに雑草の芽が出てはトラクタですき込んできたため、有機物が極端に少なく、リン酸吸収係数の高い関東ローム層がむき出しになったような土壌です。

 今回、鉄茶をまく、まかないの比較試験をするにあたり、1月に当社の雑草堆肥を10a当たり2tとモミガラくん炭を2500lまいて植物性の有機物を一気に増やしました。そのため作付け前はとくにカリが過剰で、石灰、苦土、リン酸、チッソはやや過剰な状態でした。

 試験ではコマツナ、ホウレンソウのタネを播いて、鉄茶を散布したウネと、水をまいたウネとで生育差を比較します。収穫後には土壌の化学性と微生物性の診断や、とれた野菜の成分分析も試みました。

 鉄茶はタネ播きの5日前と発芽して10日後の2回散布。量は長さ5m幅60cmのウネに10lです。

 播種は4月25日で、発芽率に差はなく、初期生育は若干鉄なし区のほうがいいと感じました。しかし、発芽3週間後から鉄茶区は作物も雑草も旺盛に生育してきました。無農薬栽培ですが、虫害は鉄茶のウネが若干少ないように感じる程度の違いでした。

鉄茶区はアミノ酸含有量が高い

コマツナのウネ断面を掘ってみた

 ホウレンソウはあえて除草せずに置いておいたら、途中から雑草に覆われましたが、手除草をしたコマツナは鉄茶区のほうが生育もよく、食べると味がぜんぜん違います。明らかに渋みが少なく、旨みがあり、生でもおいしく食べられました。それに比べると鉄なし区は水っぽく、火を通さないと苦味を感じる味となりました。

 ただし、成分分析に出したところ、糖度こそ鉄茶区のほうが高かったものの、抗酸化力、ビタミンCともに鉄なし区のほうが高く、硝酸イオンは鉄茶区のほうが高いという予想外の結果が出ました。分析方法について検査機関に問い合わせると、この値は検体100g当たりの含有量なので、水分量によって変動するとのこと。株が大きくみずみずしく育った鉄茶区は不利だったようです。

 じつは土壌改良前のやせ土でも同様の比較試験を行なったのですが、そこで育てたホウレンソウのアミノ酸含有量も調べてみました。検査料金が高額なため、やせ土でどれくらいアミノ酸が合成されるかに絞って数値を見たのですが、表1のとおり18種のアミノ酸についてすべて鉄茶区のほうが高い結果となりました。

可給態チッソが効いて、アミノ酸がどんどんできた!?

タンニン鉄。九州の有機無農薬茶園からクズ茶を取り寄せ、鉄材と反応させて作る

 土壌診断の結果(表2)で大きく差が出たのは、まずチッソの動きです。可給態チッソ、全チッソともにかなり減っています。

 可給態チッソとは有機態チッソのなかでも低分子のタンパクやアミノ酸で、微生物により簡単に無機化されるチッソです。全チッソとは植物が利用できない非可給態チッソ(全チッソの98%程度)を含む土壌中のすべてのチッソ量です。鉄茶散布により、微生物が活性化し非可給態チッソが可給態チッソへとどんどん分解されたり、さらに無機化されたりして根に供給されたため、数値が下がったのかもしれません。

 一方、作物は鉄分が補給されて体内での代謝が活発になり、吸収されたチッソがどんどんアミノ酸に合成されていったのではないでしょうか?

 また、可給態リン酸の値も鉄茶区で大きく減っています。鉄茶散布によってリン酸の吸収も上がったのでしょうか?

放線菌が殖えて微生物相も安定する!?

 微生物診断の結果(表3)を見ると、鉄茶区では微生物総数が増えており、なかでも放線菌数が高い値を示しています。

 分析機関の川田研究所によると、放線菌はキチナーゼという酵素を出して、カビの細胞壁を溶かすため、放線菌が殖えると糸状菌数は下がる傾向にあるそうです。病原菌には糸状菌が多いため、その割合が下がると土壌病害が起こりにくく、微生物相が安定した土になるとのことです。

 生育中のコマツナの断面を掘ってみたところ、土の手触りが確かに違いました。鉄茶区はふんわりして根が張りやすそう。微生物の活動で団粒構造が発達するのかもしれません。

 今回、鉄茶散布で野菜の味がよくなる理由を追求するべく、作物と土壌の分析をしてみました。1回の分析で確たることはいえません。今後も継続的に分析し、タンニン鉄散布の効果を掴んでいきたいと思います。

*月刊『現代農業』2020 年10月号(原題:鉄茶で土がふんわり、アミノ酸たっぷりの葉物野菜に)より。情報は掲載時のものです。

鉄の効用やタンニン鉄の作り方、使い方がよく分かる新刊が出ました。

農家が教える 鉄 とことん活用読本

農文協 編

1,760円 (税込) B5 148ページ

「森は海の恋人」運動でも注目されるミネラル分としての鉄。野菜を大きく育て、美味しくするタンニン鉄、イネの根腐れ対策や環境の浄化に活躍する純鉄粉など、驚きの鉄の効果、鉄資材の作り方使い方を大公開。

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