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〈農業情報サイト「ルーラル電子図書館」をつかいこなす〉農家は自然科学者だ

北海道・高林優一

農協を辞めてUターン

 農業は「知らないこと」だらけの職業です。「百姓」というくらい、農家はさまざまな作物をつくり、土木工事や売り先の開拓なども仕事のうち。教科書などありません。いつも手探りです。

筆者。約70haの圃場のうち、一部はJAS有機認証。グローバルGAPも取得している(編)

 私は道立農業大学校を卒業後すぐに実家の農業を継いだのですが、当時は面積も少なく、父がまだ若かったこともあって、3年後には一度農協に就職しました。そして1996年、父の動脈瘤が見つかり手術。ムリができなくなったためにUターンし、改めて就農しました。

 当時は約50haで水稲やビート、麦や大豆、カボチャやアスパラ、トウモロコシなどを栽培していました。また、私が戻ったことで、その分の収益を上げるためにホウレンソウやインゲンも始めました。

化学肥料を減らしたい

 「ルーラル電子図書館」を使い始めたのは2003年、もう20年近く前のことです。その頃のテーマは農薬や化学肥料の削減でした。子どものアトピーがひどく、食べものから変えようと取り組んでいたのです。

 有機農業を本気で推進する(株)マルタに野菜を出荷し始めたり、地域の農家仲間と土曜日限定の直売所を開設して消費者の声を直接聞いたり、安全安心への意識が急上昇している時期でした。ルーラルを使い始めた翌年には、GAPの講習を受け、管内で初めてエコファーマーの認証も受けました。

 しかし、農薬や化学肥料を減らすのは大きな挑戦でした。親の世代は肥料をたくさんやって当たり前。ふたこと目には「肥料が足りない」といわれ続けました。土を酷使してきたせいか、確かに肥料を減らすと収量が落ちてしまい、高い有機質肥料を入れてもうまくいきませんでした。

フライパンで土を炒る

 そこで当時、使い始めたルーラルでよく読んだのは(株)AML農業経営研究所の武田健さんの記事です。単行本『新しい土壌診断と施肥設計』も買って読みました。農協で土壌診断をしていたものの、その処方箋で示される施肥量が、本当にそんなに必要なのか、自分で確かめるための勉強です。

 圃場ごとの仮比重を調べるために、フライパンも買いました。農協の土壌診断では出ませんが、正しい施肥量を計算するには、自分の畑の仮比重を知る必要があるとわかったからです。

フライパンで土の仮比重を調べるやり方は、ルーラルの動画で見ることもできる。「環境保全型農業シリーズ第2集 堆肥活用施肥改善編第1巻 新しい土つくりと施肥の基本」より

 土を100mlとって重さを量り、それをカセットコンロで軽く炒って乾かし、また重さを量る。これで仮比重を計ると、火山灰土壌の私の畑は数値が0・7程度。これを1になるようゼオライトを入れて改善を重ねてきました。

 現在も土壌診断は毎年やり、施肥設計は自分で立てています。その基本はルーラルや本で学んだといっていいかもしれません。

RACコードと脱ネオニコ

 現在もよく使うのは、やっぱり病害虫の診断です。農業を長年やっていますから、自分がつくってきた作物の病害虫や農薬は把握しています。

 困るのは、直売所に出す用のトマトなどの果菜類です。栽培経験があまりなく、キュウリのべと病やナスの半身萎凋病などは、ルーラルで確認して覚えました。カラー写真で、症状が部位ごとに詳しく載っているので、病気の特定に便利です。また、使える農薬の最新情報がすぐにわかるのも助かります。

 私は2016年にネオニコチノイド系の殺虫剤を使わない「脱ネオニコ」を宣言。グリホサート系除草剤(ラウンドアップなど)の使用もやめました。子どもの発達障害の原因や発ガン性を疑われている農薬を、使わないことに決めたのです(8月号)。

 そこで役立ったのもルーラルです。自分が使っている農薬のRACコードを調べてネオニコ系水[4A]を外し、それ以外に使える農薬を探しました。

 こだわった作物はこだわった売り方をしたい。販売先も増えてきました。

ヤマカワプログラムに確信

 10月号で紹介されたヤマカワプログラムとの出会いは2012年12月、マルタの北海道大会で山川良一先生の講演を聞いたのが始まりです。

 畑に耕盤ができる理由、微生物の働き、団粒構造の仕組みについて教えてもらい、まるで目の前の霧が晴れるようでした。山川先生が勧めてくれた『土壌団粒』(青山正和著、農文協)も読みました。

 『現代農業』でもちょうど取り上げられ始めましたが、私も翌春からすぐに取り組みました。土の変化はすぐに現われ、いろいろと反対していた親も、その違いにビックリするほどでした。その年のマルタの大会では、実践報告として、私も発表させてもらいました。

 ヤマカワプログラムの効果で土の水はけと水もちが両立、ここ数年の異常気象にも負けていません。病気が減り、殺菌剤が減り、緑肥混播とヤマカワ堆肥のおかげで、化学肥料も大幅に減らすことができました(10月号)。

道の駅と有機JAS

 最近の関心事は有機農業です。2年前に「道の駅あびらD51ステーション」がオープン。私は準備委員として立ち上げに関わり、移住してきて有機農業で頑張っている人たちを応援するため、直売所に有機農業者コーナーを設けました。売り上げも順調で、全体の1割を占めています。

 そして去年、私も有機JAS認証を取得。そのコーナーの出荷者に加えてもらいました。町内初、地元出身の有機農家になりました。

 さまざまな経験をして、そのたびにルーラルで勉強してきました。山川先生は「農家は自然科学者だ」といいますが、私も今はそう考えています。

(北海道安平町)

<ルーラル電子図書館のスマートフォン用ページ>

スマートフォンで病害虫の診断防除と登録農薬の情報検索ができる専用ページもできて、畑で農薬の使い方を調べたり、店舗で購入前にRACコードを確認できたりするようになった。

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*月刊『現代農業』2021年11月号(原題:農業が面白くなるルーラル電子図書館(8)農家は自然科学者だ)より。情報は掲載時のものです。