栽培のコツ 野菜・草花 経営・就農 菜園 【1作で収穫しきって 減農薬アスパラガス】ウワサの「採りっきり栽培」 2024-05-15 元木 悟 アスパラガスは全国で栽培されていますが、連年でつくっていると病気が入りやすく、長年安定した収穫を維持するのは難しい野菜といわれています。今回ご紹介する「採りっきり栽培」は、病気が定着する前に、1作で収穫を終わらせてしまう栽培法です。 2年目の春に萌芽しだした「採りっきり栽培」のアスパラガス アスパラガスは土壌適応性が広く、水田転換作物の優等生的な品目として全国で広く栽培されています。しかし、収穫と株の維持および養成のバランスをとるのが難しいため、生産者によって収量差が大きく、栽培管理の優劣が問われる野菜です。 従来の露地栽培では、2年株以降になると病気が蔓延しやすいため、暖地ではおもにハウス栽培されています。今回紹介する新たな露地栽培法である「採りっきり栽培」は、病気が定着する前に、1作で収穫を終わらせてしまうやり方です。 この「採りっきり栽培」は、植え付けて2年目の春には太い茎がたくさん収穫できるので、国産アスパラが減り、値段が高くなる4月の端境期に出荷可能です。失敗が少ない栽培法なので、農家の皆さんはもちろん、初めてアスパラガスに挑戦する家庭菜園の愛好家の皆さんにもお勧めです。 農薬散布が大幅削減 図1 「採りっきり栽培」の栽培暦 従来のアスパラの露地栽培では、5月頃にポット苗を定植して1年目はじっくり株養成。翌春の萌芽期は少量を収穫するか未収穫で再び株養成し、一つの株で栽培を10年ほど継続します。 それに対し、「採りっきり栽培」では、2~3月にセル成型苗を早期定植して1年は株養成。翌春の3~6月の約3カ月にわたって、萌芽する若茎をすべて収穫してしまいます。1シーズンで若茎をすべて採りきって終了するので、畑のローテーションも組みやすくなります。 茎枯病や斑点病などの病害虫防除は、従来の露地栽培では、年に15~20回程度の薬剤散布を行なう農家もいるのに対し、「採りっきり栽培」は株が若いので適期防除で薬剤散布を大幅に減らせます。 防除のタイミングは、太い新たな若茎が萌芽するごと。6~11月の養成期間中にだいたい3回です。アスパラの萌芽にはサイクルがあり、根に養分が蓄積され、前の茎より大きくて太い若茎が揃って萌芽してくるまでが40~50日。切り替わったこの若茎が擬葉を展開し始めたころが防除の適期です。株元には次の柔らかい若茎も多く萌芽しているため、効率よく散布できます。台風や長雨を考慮しても、だいたい年5回の防除ですみます。 雨よけを設置すれば、散布回数をさらに減らせる可能性があります。 「採りっきり栽培」用の植え穴をあける道具(新規ホーラー) 深植えで早期定植が可能 図2・3 温暖地における「採りっきり栽培」の栽培カレンダーは図1のとおりです。 定植は2~3月。翌春の収穫にむけて、株養成期間をなるべく長く確保したいので、早期定植します。マルチを張ったウネに、植え穴をあけ、霜害対策として深植えにします。 ウネ間140cm、株間40cmでセル成型苗(1本約80円)を植え付けると、10aあたりの栽植密度は1700~1800株。従来の栽培より通路を狭くしているため、密植傾向です。密植すると普通は病気が出やすいだけではなく、地下部が競合して根が絡み合ってしまうのですが、「採りっきり栽培」の場合は1年で収穫が終わるため、問題ありません。 5~6月に倒伏対策として支柱を立てて誘引…… *月刊『現代農業』2018年3月号(原題:セル苗を早植え ウワサの「採りっきり栽培」)より。情報は掲載時のものです。 「アスパラガスの採りっきり栽培」について、詳しくは、元木悟 著『アスパラガス 採りっきり栽培』(農文協)をご覧ください。 アスパラガス 採りっきり栽培小さく稼ぐ新技術元木悟 著定植~株養成の翌年、春先から高品質若茎を収穫しきる新作型。従来作型と比較して明らかに病気が少なく、低コスト・省力化が期待でき、多品目少量生産指向、直売所向けに最適。初心者にも取り組める。都市近郊での導入も盛んになっている。早期定植(深植え)を可能にした新型簡易移植機を駆使し、1年で力のある株をつくり、翌年の萌芽を極大まで高めるポイントを解説。毎年苗の用意が必要だが、取り組みやすさは格別。輪作にも期待が持てる。水田転換畑での導入もおもしろい。 Tags: 減農薬, 採りっきり栽培, アスパラガス