福岡・古野隆雄
アイガモからホウキングへ
およそ30年前、アイガモ水稲同時作を体系化。アイガモは縦横無尽に水田を泳ぎ回り、条間も株間も関係なく除草してくれました。私はアイガモに、有機農業の面白さを教えられました。
2003年からは乾田直播にトライし、問題となったノビエとケリをつけるため、農機メーカーのオーレックと乾田除草機の開発に取り組みました。しかし株間の除草は、その明確な原理がわからず暗礁に乗り上げていました。
16年、ある朝、愚息から発破をかけられました。「お父さん、EUの農機メーカーが販売している、作物と雑草を識別できるAI株間除草機買おうや。500万円ばい」。それに私は、なんの根拠もなく「作るばい」と即答。
そして倉庫に小麦の除草機を取りに行きました。そこで一本の松葉ぼうきに見つめられたのです。ムギ畑で引いて歩いてみると、そのバネ鋼の針金は土の抵抗で上下左右にしなやかに揺動し、作物は傷つけず草だけを抜いていく……。「選択除草」をしたのです。
試行錯誤の末、4本の松葉ぼうきを組み合わせた株間除草機を作り「ホウキング」(ほうきing)と命名。シンプルで安価で汎用性があり、イネやムギ、大豆や野菜の中耕・株間除草に効果を発揮。そして、日々少しずつ進化するホウキング(1~3号)を、本誌で何度か紹介させていただきました。
「埋める力」で超初期除草
ホウキングの除草のしくみ(図)は「抜く」「切る」「埋める」。特に雑草も作物も極めて小さい超初期は、「埋める」という働きが際立ちます。例えばキンポウゲ(トゲミノキツネボタン)の双葉は長さ1cm程度で、地面に水平に這いつくばっています。一方、ホウレンソウの双葉は3cmあり、垂直に立っています。超初期の埋める除草はその差が大事なのです。
ホウレンソウの超初期除草を可能にしたホウキング3号ですが、土が寄って短い双葉が埋まることがよくあるのが欠点で、葉に載った土はほうきで取り除いていました(20年5月号)。
昨年12月、ホウレンソウの株間をホウキングすると、密生して抜けにくいキンポウゲ93本が、一発で見えなくなりました。ほうきで土を取り除いてから調べてみると、70%は抜けていましたが、30%は根付いたまま。抜けた草も抜けなかった草もすべて土に埋まり、そのままなら光合成を阻害され、早晩弱り、枯れていきます。
しかしホウレンソウの葉に載った土を払うと、せっかく土にうまった雑草も救出することになり、根付いたままの草は生き残ってしまいます。
雑草を埋め、作物を埋めない
雑草だけを抜き、作物は抜かないのがホウキング。超初期除草でも、小さな雑草だけを埋め、作物は埋めない工夫が必要です。
ホウキング3号の特徴は、針金をより細く(2.5mm)、スタビライザーでその動きを小さくコントロールできるようにしたこと。この特徴を深化させ、揺動の幅をより小さく、土に深く突き刺さらないようにしたい。そこで針金の径を1.5mm、長さを計28cm(うち折り曲げ部8cm)にして、思い切り細く短くしました。そして超初期除草ではスタビライザーの位置を思い切り下げ(揺動の幅を小さくし)、ホウレンソウに土が被るのを防ぎます。その後、作物の生育に合わせてスタビライザーを上げていくわけです。
実際に使用してみると、滑らかで軽い動きに驚きました。ホウレンソウに被った土はごくわずか。双葉のキンポウゲに対する除草能力は高く、面白くなってきました。名付けて「スモールホウキング(ホウキング4号)」です。
超初期除草のタイミング
初期除草こそ天下分け目の関ヶ原。ホウレンソウが出芽を始め、位置が確定できるようになったらスモールホウキングの出番です。まずは中耕除草(条間除草)。針金が短いので株際ギリギリまで除草できます。この時、作物の両側の地面の凹凸を均平にしておくと、次の株間除草の際、ホウレンソウの株元に土が寄るのを防げます。
この株際除草で、条間に密生したキンポウゲは一掃できます。草が小さいうちなら、スモールホウキングの「埋める力」は完璧です。
次が本命の株間除草。キンポウゲの・・・
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農文協 編
刈り払い機のきほん、切れ味鋭くラクに速く刈るための工夫、リモコン式草刈り機や鎌の種類と使い方、畑と田んぼの草取りのさまざまな定番道具・アイデア道具、ニワトリ・火力・太陽熱・米ヌカによる除草など。
古野隆雄 著
乾田直播、電柵張りっぱなし、追肥は合鴨の餌を通して…、ついに究めた省力ラクラクの合鴨イネ同時作。田畑輪換、家畜文化の取り戻しも含め、より豊かに広がる技術的世界を大改訂。生物多様性農法の実践的テキスト。