現代農業WEB

令和6(2024)年
4月20日 (土)
卯月
 友引 甲 寅
旧3月12日

あああ

ホーム » 2021年 » 11月号 » 自分で建てたハウスが強烈台風にビクともしなかった

自分で建てたハウスが強烈台風にビクともしなかった

東京・緒環おだまき暁二ぎょうじ

自分で建てた足場パイプハウス。最大瞬間風速50m超えの台風も耐えた

はじめまして。私は東京の南へ1000km、小笠原村の父島に住んでいます。家族やボランティアさんと、島内向けにミニトマトやキュウリ、軟弱野菜をメインに栽培しています。野菜を栽培するハウスは自分で、足場(単管)パイプで建てました。そこにたどりつくまでを説明したいと思います。

筆者(右から2人目)と家族。左端はボランティアさん

毎年襲いかかる強い台風

 10年前に脱サラし、最初は父島の農家で、従業員として働きながら農業を始めました。そこでは、マンゴーを※足場パイプで囲って栽培していたり、休憩所や倉庫等も足場パイプで建てていたり、足場パイプが身近にありました。ただし私が最初に建てたのは、一般的なアーチパイプのハウスです。

 小笠原諸島は毎年、強い台風に襲われます。ハウスは鉄骨製が主流でしたが、コストがかかるため、近年は25.4mm径のパイプを使うストロングハウスが増えています。私が最初に建てたのも足場パイプで補強したストロングハウスのような造りですが、小笠原の叩きつけるような風を前に、不安を感じていました。また天窓がないため、夏は妻面を開放しても循環扇を回しても、とても暑い。

 そこで面積を増やす際、なにかいいハウスはないかと調べている時に、足場パイプハウスのことを知りました。足場パイプは流通量が多いので、頑丈な割に安く買えます。島では資材や職人をすべて船で運ぶため、例えば家を建てる場合でも、価格は内地の3倍になるといわれます。価格が安いのは、なにより魅力でした。また、ジョイントなどの部品が豊富で、自分で建てられそう。つまり施工費もカットできる。もう、これしかないと思いました。

 2018年、10aの畑に足場パイプハウスを4棟建てました。軟弱野菜をメインに栽培する3棟は間口5m、奥行き36m、高さ3m(一番高い位置)の片屋根ハウス。ミニトマト専用の1棟は間口幅を50cm広く、高さを1m高くしました。

足場パイプとは?

 名前のとおり、建築現場の「足場用資材」としてよく使われるもの。「単管」「単管パイプ」とも呼ばれる。ハウス用パイプに比べて流通量が多く、その分値段も安い。また、ハウス用パイプには太さがさまざまあるが、足場パイプは統一されている。直径48.6mmだ。強度は一般的な国産の足場パイプの場合、長さ1mの真ん中を押したとき、456kg以上の力を加えないと曲がらないといわれている。建築現場で使われているだけあって、相当強靭だ。ホームセンターでは1m単位で販売されていることが多く、一番長いのが6m。値段は1mで500~600円くらいが相場となっている。(編)

マニュアルを基に設計も施工も自分で

 ハウスを建てるうえでまず大事なのは、用途に合わせて設計図を作ること。イチから設計するのは大変ですが、西日本農業研究センターがマニュアルを出しています(本誌47ページ)。私はそれを基に、クランプの位置や取り付け時の隙間など、割り箸で模型を作ったりしてよく考えました。研究センターにも連絡し、細かいところまで丁寧に教えていただきました。

 ハウス建築に当たって新たに購入した機材は、ミニバックホーとレーザーレベラーです。レーザーレベラーは約3万円。なじみのない機械ですが、土地を均平にするのに必須です。平らに見えても、10aの畑全体では高低差が最大80cmくらいありました。

 バックホーはスパイラルアンカー杭(基礎)を押し込むのにも使いました。圃場の土が硬く、電動ハンマーではひ弱すぎて使い物になりませんでした。

 杭をきれいに打ち込んでしまえば、あとは楽勝。ひたすら足場パイプを組み立てるのみです。

建設中の様子。この後のフィルム張りは、36mの1枚張りではなく、3.6mのフィルムを10枚張った。1人で作業でき、破れた所だけ張り替えられる

涼しくて作業しやすく、雨水を溜められる

 完成したハウスには、とても満足しています。

 まず、中がとても涼しい。片屋根の側面フィルム(農PO)は巻き上げ式で、ハウス内の熱い空気をすべて逃がすことができます。猛暑でも、40℃を超えることはほとんどありません。今後、サイドの防虫ネットの目合いを大きくして、ハウス内に遮熱カーテンを展開すれば、夏でも軟弱野菜をうまく栽培できるのではないかと思っています。

側面のフィルムは天井まで巻き上げられ、ハウス上部に溜まる熱い空気を抜くことができる

 また、トマトのハウスは天井が高く、誘引作業にかなり余裕があるのも嬉しい。

 さらに、それぞれのハウスの肩の部分には雨どいを取り付け、1tの貯水タンクに雨水を溜められます。これはアーチパイプの単棟ハウスでは難しく、片屋根ハウスだからこそのメリット。水を引いている農業ダムが枯れてしまうことがあるので、いざという時に助かります。ただし、激しい雨が降るとタンクがあっという間に溢れてしまいます。資金とスペースが許せば10tタンクを設置したいです。

肩に雨どいをつけて、雨水を溜められるようにした
ハウス内。パイプの間隔は1.8mにしたが、1m幅にすればもっと強かった。トラス構造を作って補強している

最大瞬間風速52.7mに耐えた

 そして肝心の頑丈さは――。2019年10月、台風21号が小笠原諸島を直撃し、父島では最大瞬間風速52.7m/sを記録しました。強烈な風で、ストロングハウスが全壊したり、大きな木が倒れたり、家の屋根が吹き飛んだり、島内では非常に大きな被害が出ました。私のアーチパイプハウスも1棟が全壊、1棟は骨組みがかなりゆがんでしまいました。

 一方、足場パイプハウスは、トマト用のハウスだけは屋根のフィルムを外して、それ以外の3棟は特に養生もせず。しかし被害は、PO30枚のうち3枚が破れただけ。パイプは異常なし。ビクともしませんでした。さすが、頑丈さが売りの足場パイプです。

 ただし、この経験から、NOSAIの園芸施設共済に入りました。足場パイプハウスは「前例がない」と建設時は加入できませんでしたが、去年、無事に入ることができました。

耐候性ハウスの4割安い

 ハウス4棟(約10a)の値段は計約700万円。1棟当たり175万円になります。これには雨どいや貯水タンク代も含まれていて、それらを除くと約620万円でした(詳細は・・・

この続きは2021年11月号または「ルーラル電子図書館」でご覧ください

*月刊『現代農業』2021年11月号(原題:自分で建てたハウスが強烈台風にビクともしなかった)より。情報は掲載時のものです。

今月号のイチオシ記事

 2021年11月号の試し読み 

今月号のオススメ動画

今号のオススメ動画は画像をクリックするとルーラル電子図書館へ移動します。動画は公開より3ヶ月間無料でご覧いただけます。

農家が教える 足場パイプ&塩ビパイプで便利道具

農文協 編

配管などに使われる塩ビパイプ、建築現場で使われる足場パイプは田畑や暮らしにも大活躍。塩ビ、足場パイプの基礎知識から作業をラクにする道具、初心者が注意する工作ポイントまで紹介。

農家が教える ハウス・温室 無敵のメンテ術

農文協 編

近年、異常気象による暴風・大雪でハウスが潰れる被害が頻発している。本書は、だれでもかんたんにできるハウスの補強や補修、省エネ術や経費減らしの工夫を収録。