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【アイガモさんいらっしゃい!】第3話:放鳥の準備―アイガモ小屋作り、いざ田んぼデビュー

この記事は「現代農業WEB」でしか読めないオリジナル連載です。今年(2023年)、はじめてアイガモ農法にチャレンジする著者と、アイガモの成長、地域のようすなどを月に1回お届けします。

大分・長野恵里子

6月14日に迎え入れた、生まれたばかりのヒナたち。アイガモ農法では、通常2~3週齢の少し大きくなったヒナを田んぼへ放つ。それまでの間は「育すう期間」として、我が家の土間でヒナを育てることにした。今回は、ヒナが到着したあとのこと、①水慣らし  ②小屋の準備  ③柵とテグスの設置 についてご紹介します。

田んぼデビューまでに「羽づくろい」を覚えさせる

「苗半作」という言葉を聞いたことがあるだろうか。苗の出来によって作柄の半分が決まる、つまり初期の生育管理がその後の生育や収量に大きく影響するという、農家の諺(ことわざ)だ。アイガモの飼育にあたっても私はこの言葉を意識して、ヒナの様子を観察しながら、「給餌」「水慣らし」そして必要な「温度管理」を行なうよう心がけた。

飼育初日から、なるべく毎日【OK?】日中30分ほど桶の中でヒナを泳がせる。水慣らしの後はしっかり体を乾かすことが大切
飼育初日から、日中30分ほど桶の中でヒナを泳がせる。水慣らしの後はしっかり体を乾かすことが大切

まずは水慣らし。これはヒナたちが田んぼ環境に順応するための準備だが、とくに「羽づくろい」を覚えさせることが重要だ。我が家で飼っている小猫も熱心に舌で毛づくろいをするが、アイガモの場合は、尾っぽ付近にある「尾脂腺(びしせん)」から分泌される脂を、口ばしや頭を使って全身に塗り込んでいく。こうして羽毛の撥水性が高まり、体を保温できるというわけだ。アイガモの師匠、森岡さんのやり方も参考にしながら、さっそくヒナ到着の翌日から、段階的に水慣らしを行なっていった。

背中の尾っぽ付近にある尾脂腺
背中の尾っぽ付近にある尾脂腺
飼育2日目は、屋外の飼育場で1時間ほど過ごす。飼育3日目以降は日中屋外で過ごし、水と外気温に慣れさせる
飼育2日目は、屋外の飼育場で1時間ほど過ごす。飼育3日目以降は日中屋外で過ごし、水と外気温に慣れさせる
放鳥前後の水田での水慣らしのようす。アイガモ小屋から水面まではスロープを設置。小屋の周りの小区画(6畳程度)をネットで囲い、鳥よけのテグスも張る。夜間は自宅の小屋に戻す。
放鳥前後の水田での水慣らしのようす。アイガモ小屋から水面まではスロープを設置した。小屋の周りの小区画(6畳程度)をネットで囲い、鳥よけのテグスも張る。夜間は自宅の小屋に戻す。

アイガモ小屋づくり

続いて小屋づくりについて。アイガモ農法では、①アイガモを常時水田に放育する方法 と ②夜間のみ小屋に入れて飼育する方法 の2通りがある。理想は、朝夕の小屋の出し入れが不要である、水田での常時放し飼いができること。ただしそのためには、アイガモが逃げ出さないためのネット柵と、野生動物からアイガモを守るための高さ1mほどの電気柵(あるいは両方が一体化した電気ネット柵)を設置しなければならない。今回我々は、資材が全て揃わなかったので、夜間は小屋で飼育する方法とした。

そして、その小屋はなんと!大家さんの農業仲間にとても手の器用な若者がおり、彼が制作してくれることに。広さは約1畳の高床式の木造で、屋根はトタン、床面は木枠の上に強度のあるプラスチックネット(トリカルネット・黒)を、前後方面はビニール亀甲金網(緑)をはっている。完成した小屋を見て、思わず心が躍った。

小屋(母屋)づくりの様子

床面のサイズは縦91cm×横180cm。入口の高さは100cm。木材には水性の外壁塗料を塗っている。これくらいの広さならば、成鳥で15羽程度入る。
床面のサイズは縦91cm×横180cm。入口の高さは100cm。木材には水性の外壁塗料を塗っている。これくらいの広さならば、成鳥で10数羽入る
地面に杭を打ち、その上に小屋を備え付けているので、後で移動することも可能
完成!高床でネット仕様なので、床の糞は水で洗い落とすことができる
スロープを取り付けて完成! 高床でネット仕様なので、床の糞は水で洗い落とすことができる

ネット柵の設置

最後は、田んぼを囲うテグスとネット柵(緑)の設置。テグスは、黄色やピンクなどの防鳥用の糸をつかっている。大家さんの田んぼは昨年、収穫直前にイノシシに入られて荒らされてしまったので、今年は、念を入れて電気柵を設置することにした。

アイガモ農法のネット柵は、通常田んぼの中(畔との境)に設置するが、今回は省力化のため、試しに、畔に設置した高さ1mの電気柵の支柱を利用(共有)して、ネットを張ってみた。またテグスも同様に、3メートル間隔に設置された電気柵の支柱を用いて、田んぼの対角線上にジグザグに張り、縦方向にも数本糸を張った。

大家さんと農業仲間たちが、ネット柵の設置とテグス張りをしてくれた
大家さんと農業仲間たちが、ネット柵の設置とテグス張りをしてくれた
電気柵の一部は上の段の田んぼに設置しているため、テグスにも傾斜がある
電気柵は上の段の田んぼにも設置されているため、テグスをその支柱に張ると自然と傾斜がつく。上の田んぼと下の田んぼは、2.5mほど高低差があるため、張ったテグスの下で人が作業できる
図
テグスと電柵の位置関係

田んぼ生活スタート

6月25日、いよいよ放鳥の日。友人、知人、親戚らが集まり、ヒナたちの田んぼデビューを見守ってくれた。

私は親鳥心で、彼らの田んぼ生活の始まりに、心の中で大きなエールを送った。

放鳥の日。友人、知人、親戚らが集まった
はじめての放鳥の日。友人、知人、親戚らが集まった
待ちに待った、ヒナを放す瞬間
待ちに待った、はじめてヒナを放す瞬間
動画再生

「水慣らし」の甲斐あって、放鳥直後からスイスイと田んぼを泳ぎ回るヒナたち *クリックすると動画がご覧になれます

次回は、「イネの出穂とカモの大移動」です。 乞うご期待ください。

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長野 恵里子(ながの えりこ)
長野 恵里子(ながの えりこ)

農業系出版社や国際協力(アフリカ駐在)などを経て、現在、国際耕種株式会社に勤務。主に途上国の農業開発に携わる。移住先の大分県竹田市の古民家でリモートワークしながら、農業に興味を持つ若者たちとともにアイガモ稲作や自給菜園を実践中。

「草刈り動物」のオススメ本

草刈り動物と暮らす ヤギ・アイガモ・ガチョウの飼い方 

髙山耕二 著

ヤギ、アイガモ、ガチョウが除草に大活躍!生態から繁殖法、電気柵の設置や健康管理のポイント、卵・肉・糞の利用法までよくわかる。ニワトリも登場。

著者の長野さんが「アイガモ農法」の参考にした本

そだててあそぼう

アイガモの絵本

古野隆雄 編
竹内通雅 絵

アイガモは、アヒルの雌×マガモの雄。水田でイネを栽培しアイガモを育てよう。雑草や害虫を食べ、肥料効果もあり、楽しいよ。ヒナの入手から育雛箱の作り方、外敵予防、水田での管理、丸ごと一羽食べ尽くすまで。

合鴨ドリーム

小力合鴨水稲同時作

古野隆雄 著

乾田直播、電柵張りっぱなし、追肥は合鴨の餌を通して…、ついに究めた省力ラクラクの合鴨イネ同時作。田畑輪換、家畜文化の取り戻しも含め、より豊かに広がる技術的世界を大改訂。生物多様性農法の実践的テキスト。