〈農業情報サイト「ルーラル電子図書館」をつかいこなす〉町の図書館と電子図書館で課題を克服する
もっぱら本が情報源
香川県まんのう町で水稲、ブロッコリーを中心とする野菜、直売所向けのイチジクや切り花などを約3haで栽培するなんでも屋です。本や図書館が大好物で、家の光協会の雑誌『地上』で「まんのう読書日誌」という書評コラムを連載しています。
というわけで就農以来、JAの共販品目以外は、もっぱら本が農業技術の情報源です。ヒマを見つけては県立図書館や高松市の宮脇書店総本店に通い、気になる本は片っ端から読みました。
宮脇書店総本店はもともとが本の展示場だった名残で出版社ごとのブースがあり、農文協の本もけっこう古いものから揃っているんですよ。
例えば「自然と科学技術シリーズ」などには、古くても類書がない研究をまとめたものが多いので、県立図書館で借りて読んでみて、これは手元に置いておきたいなと思った本は宮脇書店総本店で買っていました。
図書館は住民と育つ
8年前、まんのう町に待望の町立図書館が開館しました。開館の数カ月前に開催された住民による選書ツアーでは、自分が持ってる持ってないに関わらず、町内で栽培されている品目に役立つ技術書、注目技術の解説書、地域の課題解決に役に立ちそうな本などを、予算を気にせずカゴに放り込んでいきました。もちろんすべて購入してくれたわけではありませんが、楽しかったですねえ。
できた図書館は、使わないと育ちません。図書館は住民といっしょに育ちます。まんのう町はイチジクの栽培が盛んなのですが、中四国で主に栽培されている品種「蓬莱柿」は輸送や雨に弱いため、地元消費向けの小さな産地が多く、そのためかまとまった文献資料もほとんどありません。
そんな中、2015年発刊の『イチジクの作業便利帳』(真野隆司編著、農文協)は蓬莱柿の栽培技術にもけっこうなページを割いていて、これは町立図書館にぜひほしい!と思い、自分でも買いましたが、リクエストして図書館にも入れてもらいました。
図書館の棚に並んで1カ月もたってない頃だったと思いますが、嬉しいことがありました。直売所で私の母親くらいの年齢の、顔見知りのイチジク生産者に「この本図書館で借りたんやけど、よかったきん買うたんよ。あんたも読んでみまい」とメモ紙を渡されました。その紙を開くと『イチジクの作業便利帳』と書いてあったんです。
郷土資料コーナーもおすすめ
ところで、本誌読者の皆さんの中にはまれだと思いますが、時々、本の知識なんか農業の現場では役に立たないという人もお見かけします。
確かに、例えば関東の黒ボク土畑でのブロッコリーの知見が、四国の水田転作畑にそのまま通用するとはかぎりません。そこでぜひおすすめしたいのが図書館の郷土資料コーナーです。
郷土資料コーナーにも農業に関する資料がけっこうたくさんあります。しかもそこにあるのはその土地の気候風土に即したものばかり。県の農業試験場の研究報告や年史、普及事業の活動報告などの資料には、どのようにして産地が形成されてきたか、あるいはどんな作物や技術が導入され、定着したりしなかったりしたかが記述されています。今昔の流通や労働力の事情の違いを考慮しながら読んでいくと、思わぬ温故知新があるでしょう。
また、昨今の緊縮財政と違って予算がたくさんあった頃の農業試験場の基礎研究データも貴重ですから、ぜひ使いましょう。他にも篤農家や退職した研究者の私家版が所蔵されていれば、それは宝の山です。
検索で「メキャベツ大全」も
ついついリアル図書館のことばかりアツく語ってしまいましたが、図書館といえば「ルーラル電子図書館」ですよ! JA青年部や図書館で導入するものというイメージがあったのですが、『農業技術大系』が全部読み放題ですよ〜という農文協の営業さんの誘惑に負けて、個人で導入してしまいました。
新品目・新品種・新作型を追い求めるなんでも屋にとって、ルーラルは検索機能が大変便利です。例えば最近試行錯誤しながら栽培している「メキャベツ」(芽キャベツ)で検索すると、技術大系や入門書による栽培の概要がトップに表示されます。そして加工品のアイデア、メキャベツのなかでも珍しい赤い品種を紹介する『現代農業』の記事と続きます。あっという間に「メキャベツ大全」のできあがりです。去年はうまくできなかった赤いメキャベツも、記事を読み込んで、今年こそちゃんとつくりこなしたいものです。
そういう使い方がメインなので、主に事務所に置いてあるPCでじっくり見ていますね。トップページを表示したタブを常時ブラウザに置いて、すぐにアクセスできるようにしています。
なんでも屋にとってもう一つありがたいのが、登録農薬の検索機能です。農水省の「農薬登録情報提供システム」も最近リニューアルして使いやすくなりましたが、50音順で作物・農薬名・成分名から検索できるルーラルは、直接入力よりも早く便利です。また「混用事例表」は工夫してまとめてあり、問題のある混用例をひと目で把握できます。病害虫の抵抗性管理は大事なので、成分名に「RACコード」(6月号参照)がついてるのも嬉しいですね。
二つの図書館を上手に使う
かつて、まんのう町を含む香川県中西部で発生したパラチオン抵抗性ニカメイガ騒動が、日本で農薬の抵抗性問題が認知されるきっかけとなりました。その当時、中心となって研究にあたった方の回想録を、県立図書館の郷土資料コーナーに見つけて読んだことがあります(尾崎幸三郎著『虫のことむしに聞く 水稲害虫の薬剤抵抗性』)。
じつにスリリングな謎解きでもあり、今も続くこの土地の風土や農家の気質との関係も示唆されていて、抵抗性問題の難しさがわかります。当地では今また、抵抗性シロイチモジヨトウが問題になっています。地域と電子、二つの図書館を上手に使って技術を高め、課題を克服していきたいですね。
(香川県まんのう町)
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*月刊『現代農業』2021年8月号(原題「農業が面白くなるルーラル電子図書館(6)町の図書館と電子図書館で課題を克服する」)より。情報は掲載時のものです。