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くん炭8割でもムレ苗なし カギは水を切らさないこと!

新潟・川瀬雄介

マークは本誌148ページに用語解説あり
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筆者(36歳)。就農15年目で、(株)川瀬農園代表。もち品種「わたぼうし」とコシヒカリを中心に、水稲約30haを生産。育苗枚数は6000枚ほど

2ハウス分廃棄の大失敗!

 私が就農した頃は、秋に三角形の小型くん炭器でモミガラくん炭をやき、赤土に混ぜ込んで、育苗用の床土を作っていました(覆土はずっと粒状培土)。しかし、やけるくん炭の量が限られていたため、当時の割合は体積比で赤土7:くん炭3。赤土だけよりは軽いものの、育苗枚数が多いと腰が……。若いとはいえ、田植えが終わる頃まで腰痛が治まりませんでした。

「これでは、数年で身体がダメになってしまう」という強い思いから、7、8年前に割合を赤土5:くん炭5に変更。苗は問題なく育ちました。

 その後、業務用くん炭機を導入したこともあり、思い切って赤土2:くん炭8の床土を作ってみました。播種後の苗はとても軽くてよかったのですが、育苗が始まると今まで起こらなかった問題が次々と出始めました。

 3月末に播種して平置きしたもち品種の苗は、寒さから2週間経っても芽が出ない。出たと思ったら苗箱の中でまだらに育ち、覆土から種モミが浮き出る始末。田植え時にはうまく爪でかきとれず、頻繁に「苗詰まり」を起こしてしまいました。結果的に約2ハウス分の苗のほとんどを廃棄し、品種構成を変え、苗を購入して植えました。

赤土2:くん炭8の床土で育てたコシヒカリの苗。乾モミ150g播きでハウスプール育苗。時期により、育苗期間は14〜25日。稚苗で移植する
現在使う半自動くん炭機「スミちゃんB-1型」(エスケイ工業、税込約170万円)。9時間でフレコン1.5杯分のくん炭が作れる。筆者はくん炭の販売も手がけるほか、スミちゃんの販売代理店でもある

苗箱が潤った状態を保つ

 一体何がよくなかったのか? 試行錯誤が続きました。酸性を好む水稲では、土壌がアルカリに傾くとムレ苗が発生しやすくなります。くん炭はアルカリ性なので、これが影響したことが考えられます。

 ただ、播種時のかん水直後にpHを測ってみると、水で緩和されるのか7程度まで下がっていました。また、プール育苗で水に浸されると、くん炭培土でもアルカリの影響を受けにくくなると聞きます。そういえば、失敗した苗は、寒さで出芽が遅れたことで土が乾いていた。それがムレ苗の原因だったのでは?と気が付きました。

 つまり、くん炭育苗で失敗を減らすためには、播種〜芽出しの期間中、常に苗箱が潤った状態を保つことが重要だということです。そこで私は、以下の3点を工夫することにしました。

▶︎播種時に多くかん水する

 以前の播種時かん水量は1箱1.3l程度でしたが、2lに変更。苗箱も底の穴数が64と少ないものに替えたことで、水持ちがよくなりました。

▶︎寒い時期は、育苗器で出芽させる

 気温が高い場合はハウス平置きで十分ですが、春先の気温が上がらない時期は29.5℃設定の育苗器に2日半ほど入れ、土が乾く前に出芽させます。

▶︎プール育苗にする

 せっかく出芽しても、その後土壌が乾いてしまっては、苗が黄化する場合があります。そこで、大失敗の翌年(2019年)からプール育苗に変更。苗が常に水の中にあれば安心です。

 この3点を守ることで、失敗することはなくなりました。

サチュライドで水が浸透

 3年前からは、床土に「サチュライド」というヤシ殻由来の透水材を箱当たり3g入れています。播種時のかん水量が多くても床土にすぐ浸透するので、種モミが流れなくなりました。

床土作りに使う回転式混合器「マゼールK-180」(熊谷農機)。中古品を3万円で入手した。圃場が雪で閉ざされる2月中にガンガン稼働。1日に43回ほど混合する(1回37箱分)

 苗はとても軽く、ケイ酸が豊富なため根張りもよく、田植え機で問題なく植えられます。唯一の問題は、プールを極端な深水にすると、軽すぎてぷかぷか浮かんでしまうことです(笑)。

 昨年は、試験的に覆土を100%くん炭にしてみました。最初は心配でしたが問題なく育ち、経験したことがないくらい苗が軽く、田植えがとてもラクでした。今年はすべての箱で覆土をくん炭にしようと考えています。

 ポイントを押さえれば、土でなくても苗は育ちます。誰でも簡単にできる軽量苗づくり。一度、挑戦してみてはいかがでしょうか?

(新潟県新発田市)

昨年実験的につくった覆土100%くん炭の苗(床土はくん炭80%)。根張りがいい

[ことば解説]

モミガラくん炭(もみがらくんたん)
 イネのモミガラを蒸しやきにして、形を残したまま炭化させたもの。円筒状で煙突の付いた「くん炭製造器」でやくことが多く、野やきの他、保米缶の中で大量 にやく方法などもある。
 保水性・ 通気性の両方に優れ、ケイ酸分に富む。非常に軽いのが特徴で、市販の培土にくん炭を混ぜると、苗箱が圧倒的に軽くなる。イネでは高pHによる障害がネックとなるが、プール育苗にすると問題にならないことがわかっており、中には100%くん炭で育苗する人もいる。
床土(とこつち)
 種モミを播種する土。苗箱育苗の場合は通常厚さ2cmほど詰める。pH4.5〜5.5程度で、保肥力の高い土が望ましいとされる。
覆土(ふくど)
 播種したモミの上にかける土。厚さは6mmほど。発芽時の芽による持ち上がりを避けるため、粒状培土などがよく使われる。
出芽(しゅつが)
 植物の芽が土壌表面から頭を出すこと。一方、土との位置関係に関わらず、芽 が種皮を破って出てくることを「発芽」という。「苗箱の中で種モミが発芽し、覆土を破って出芽する」という順序となる。
育苗器(いくびょうき)
 播種したイネの苗箱に温度をかけて、出芽させる装置。苗箱を入れて真っ暗く被覆し、電熱式のヒーターや蒸気で加温する。温度がかかる分、出芽がよく揃うが、温度をかけすぎてひょろんとした姿になりやすい。


DVDブック モミガラを使いこなす

農文協 編

このたび本とDVDの両方で、農家のモミガラ活用術保存版を編集しました。
モミガラは、日本に稲作がある限り毎年必ず生み出されてくる地域資源。いろんな技で使いこなしている人がいます。風のある日でもサラサラくん炭をやく方法、モミガラと米ヌカのマルチで雑草を抑える方法、ブルーシートで簡単に極上モミガラ堆肥をつくる方法、カキガラやトウガラシ入りモミ酢活用術などは、記事でもDVDでも楽しめて現場の空気感まで伝わります。月刊「現代農業」から生まれた本なので、農家の知恵と工夫が満載。

DVD 未利用資源活用法1 モミガラを極上の資源に

(社)日本農村情報システム協会 企画・制作

モミガラだけを利用した育苗培土、モミガラ培土を成型マット化する研究など、新しい活用の可能性、また昔ながらのくん炭を積極的に活用して成果をあげている農家を訪問し、活用技術の実際や考え方などを紹介する。