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大規模法人 手探りで業務用ブロッコリーを始める

石川県白山市・(有)安井ファーム

マークは本誌176ページに用語解説あり
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出荷前の業務用ブロッコリー。茎は不要なので、花蕾だけにしてある(写真はすべて田中康弘撮影)

 ブロッコリーに追い風が吹いている。
 ここ10年ほどで、農家の作付面積も1世帯当たりの年間購入量も右肩上がりの2割増。外食や総菜、学校給食、冷凍食品などの業務用でも、輸入品ではなく国産品を使いたいという要望が高まっている。
 収量アップ、安定供給への機運が高まるブロッコリーの生産現場で、そのやりがいや課題を探ってみたい。

(有)安井ファームの代表、安井善成さん(50歳)。社員は11人。水稲(41ha)やダイズ(17ha)なども含めた総売り上げ約3億円のうち、2億3000万〜2億4000万円がブロッコリー

稲作から野菜へド素人からの出発

 (有)安井ファームは2021年に84haものブロッコリーを栽培した。「面積で計算すると、石川県産の3個に1個がうちのです」と代表の安井善成さん。今年は作付けが100haに迫る勢いだという。

  安井ファームが誕生したのは01年。当時は稲作が主体だったが、いつまでも転作の補助金にばかり頼っていられないので、安井さんは常々、ダイズの代わりになにか野菜ができないかと考えていた。しかし、身内から待ったがかかる。

「先代の父に『野菜は手間も暇も技術もいる。稲作農家がやったところで、うまくいかないぞ』って言われましてね。本人も過去に失敗したんで、念押ししてくれたんです」

 それでも04年、安井さんが自ら法人の代表になるのと前後して、ブロッコリーを導入。反対を押し切って、断行したのはいいものの、やはり現実は厳しかった。

「なにせ、ド素人ですからね。肥料のやり方にしろ、雑草対策や排水対策にしろ、腕前が追いつかなくて、かなり苦労しました」

 ブロッコリーがちゃんと育たず、いつのまにか畑から「消えちゃう」こともあった。平ウネに植えたのが災いして、病気で腐って全滅し、一つも収穫できないこともあった。

「期間借地」で規模拡大

 最初は失敗続きでも、努力の甲斐あって、どうにかこうにか軌道にのってきた。作型としては、米、ブロッコリー、ダイズの「2年3作」を確立。この場合、ブロッコリーはイネ刈り後に定植し、翌年の春から収穫する。

 さらに「期間借地」も安井ファームの大きな強みだ。地域では9月に米をとり、6月にムギをとり、ダイズへと続く輪作がすすめられている。ただ、ダイズの機械を持っていない人などは、ムギのあと、田んぼを寝かせることも多いので、安井さんはそこに着目。期間限定で借地して、年内どりのブロッコリーをつくるのだ。

 貸し手にとっては、田んぼを休ませているあいだの管理が省けるうえに、地代まで入る。再びイネづくりをするときは、ブロッコリーの残肥があるので、元肥ゼロでよく、しかも10俵近くとれるという。

 いっぽう、借り手にとっても、地代が安くすむので助かる。期間借地を始めた頃の相場が10a当たり年間1万4000円ほどだったので、半年分の7000円ほど支払うことにしている(現在は相場が約1万円に下がったが、賃借料は据え置き)。ブロッコリーの生育にも都合がいい。

「地主が米とムギをつくってくれるので、連作を回避できるんです。根こぶ病なんて、今まで一度も見たことありませんよ。それ用の農薬も使わずにすんでいます」

 貸し手と借り手、双方が得をする期間借地。そのおかげもあって、20aから始まったブロッコリー栽培が急拡大していった。

青果用と業務用は畑も栽培方法も同じ。1ウネ2条植え、株間35cm、条間50cm。近年はゲリラ豪雨で「アホみたいに降る」ので、根腐れや病気を防ぐため、高ウネ(20〜25cm)や明渠などの排水対策を徹底

青果用はL、業務用は2L

 さて、安井さんは去年から新たに挑戦していることがある。業務用ブロッコリーだ。大手コンビニがサラダの野菜を国産に切り替えるというので、卸売業者を通じて取り引きするようになった。

 今までの青果出荷では、Lサイズ(花蕾径12〜14cm)が主体で、その前後の規格は安く買い叩かれていたという。しかし、業務用は最終的に花蕾をバラバラに切り分けて利用するので、大きいほど農家の実入りは増える。というより、安井さんの勘定では「2L以上にしないと採算が合わない」。青果用はL20玉を基準に箱単位で値がつくが、業務用は10kgいくらの世界。両方を比較するためにブロッコリー1個当たりの単価を出すと、業務用はLだと青果用より安く、2Lでようやくトントンになるという。

 それなら、もっと巨大なブロッコリーをつくれば、農家は儲かる! と、そう単純な話でもないらしい。

業務用は主に2Lを出荷。青果用はLが基準なので、2LとMは値が下がってしまう

より大きくしたいけど……

「農家サイドからすると、利益がでかいんで、3Lや4Lを出したいところですけど、そうなると品質がね。日持ちが悪く、傷んできちゃうんです」

 たとえば、ドームが広がり、フワフワしているのはダメ。「死花」といって、花蕾の粒がところどころ茶色っぽくなると、クレームにつながる。収穫したときはよくても、出荷したあとに劣化する場合もある。

 そんなわけで、取引先からは「あんまり大きくしすぎないで」といわれているそうだ。安井さんは今のところ、Lか2Lを業務用にしている。

 また、品種選びにも配慮する。ざっくりいうと、早生系は老化が早いので晩生系にしたほうがいい。特に中晩生の「グランドーム」は草勢が強く茎が太くなり、花蕾を大きくしても品質が落ちにくい。ただ、この品種は暑さに弱いので、つくる時期が限られてくる。

どちらの写真も収穫を遅くしすぎた際に起こりやすい障害。左は花蕾の一部が茶色く枯れている。右は花蕾が開いて、隙間ができている

バラつきが難点

 現状、安井ファームの業務用出荷は、11〜12月の年内どりだけ。青果用と畑を別にしているわけではなく、状況に応じて収穫のタイミングを見定めている。

 いずれにせよ、ブロッコリーで問題になるのは生育のバラつきだ。花蕾の大きさがまちまちなので、ムダなく収穫するには、同じ畑に10回ほど通わないといけないという。

 安井ファームでは、スマート農業をすすめる国の事業で収穫機を借りて実証試験をしているが、これもなかなか一筋縄ではいかない。

「機械で一斉収穫といっても、寒い時期の年内どりはどうしても花蕾の揃いが悪くなるんで、ちょうどいいサイズの隣に大きいのがあったり小さいのがあったりします。それだとロスが大きいですよね」

 打開策として、最初の6回までは手で「選択収穫」をし、あとは花蕾を十分に大きくしてから機械で「一斉収穫」する試験をしてみた。その結果、10a725kgだった収量が860kgに増えたという。

 また、3〜6月にとる作型なら花蕾が一気に太り、よく揃うので、機械の出番があるかもしれない。

異物混入にシビア

 ただし、業務用の春どりには大きな障壁がある。害虫だ。葉が食われる分にはいいのだが、ヨトウムシなどが花蕾の中に入り込むとタチが悪い。農薬が届きにくいし、仮にうまく防除できたとしても、その場で死なれると困る。

「業務加工用は異物混入にすごく厳しい。スーパーなどに並ぶ青果の場合、お客さんが『ああ、虫がおる』で終わらせてくれるのか、クレームはほぼありません。だけど、それがコンビニのサラダだと話は別。大騒ぎになってしまいます。たとえるなら、ジャガイモでは許せても、ポテトチップスから虫が出てきたら大問題……ということでしょうか」

 ともあれ、異物混入は青果用よりも業務用のほうがよっぽどシビア。そのため、取引先では害虫の少ない冬場のみ国産品を扱い、それ以外の暖かい時期は標高の高いところで栽培した外国産を使っているようだ。今後もし、春以降も業務用の要望があれば、安井さんは防除回数を増やすしかないと考えている。

収穫がメチャクチャ速い

 去年、安井ファームでは年内どりのブロッコリーを週に3回、50コンテナ(1コンテナ10kg)ずつ業務用として納品していた。出荷時期も出荷量もこのままなら、収穫は手作業で間に合うという。業務用は茎がいらないので、長さを気にせず、花蕾のすぐ下を切れば、それでおしまい。「クラウンカット」や「ステムカット」と呼ばれる、ドームだけの状態で流通させるのだ。青果用のように、いちいち葉(葉柄)を切り落としたりしなくていい。

どちらも畑でこの形にする。業務用は花蕾のすぐ下で切る。青果用は茎の途中で切り、葉(葉柄)を整える
収穫する際の切る位置の違い

「メチャクチャ速い! 青果用の倍以上です」

 データをとって1時間の収穫量を比べてみると、青果用の200〜250個に対して、業務用は528個。これは収穫機に匹敵する速さだ。

「よーいドンで競争すると、人も機械もほぼ一緒なんです。だから、どうなのかな。機械だって買うと高いでしょ。正直、国の事業がなくなったら使わないと思います」

 そうはいうものの、機械のほうが疲れないのも事実だ。青果用は畑で葉を切り落とすとき、小休止できるのだが、業務用はひたすら中腰の姿勢が続く。そう、作業の速さが2倍なら、身体への負担も2倍。業務用はまだそれほど量が多くないのでなんとかなっているが、従業員からは「1日やれといわれたらムリ」「身体が持ちません」「ちょっと休ませて」といった悲鳴まじりの意見が出ている。

「機械の導入は、みんなの声を聞いてからですね。まだ、なんともいえません」

出荷もスイスイ

 いっぽうで、出荷作業は気がラクだ。荷造りの際、青果用はサイズや向きを揃えて、きれいに並べないといけないが、業務用はあまりこだわらず、規則性のない「大小混み玉」でよい。また、業務用のコンテナはリースなので、青果用の発泡スチロール箱を買うよりも安くつき、コストが半分ぐらいですむ。さらに、売り値も安定。

「最近は生産者が増えて、どこもかしこもブロッコリー。青果用は相場が崩れ気味です。その点、業務用は単価がぶれないのが魅力ですね」

右は選果営業部部長の畑中健太郎さん。(有)安井ファームは社員のアイデアを積極的に取り入れ、直売所「花蕾屋」をオープンしたり、『日本一バズる農家の健康ブロッコリーレシピ』を出版したりしている
業務用はコンテナに入れ、サイズや向きをしっかり揃えなくてもよい。青果用は発泡スチロール箱に整然と並べ、氷も詰める

 また、安井さんは直売所でもブロッコリーを売っている。丸々はもちろん、花蕾をバラして袋詰めした商品も好評。お客さんにとっては、「ゴミが出ない」「気軽に食べられる」ので重宝する。安井さんにとっては、ハネものの有効活用にもなる。今は一つ一つ包丁で切り分けているが、いずれは専用のカット機を買い、販路を広げるつもりだ。(編)

下の写真のように、バラバラにした花蕾を袋詰めして直売所で販売。1袋150g入りで120円
一つの花蕾を分解したもの。小房に切り分けた状態をフローレットという

記事といっしょに 編集部取材ビデオ


[ことば解説]

輪作(りんさく)
 同じ畑で異なる作物を順につくること。土の養分の偏りを防ぎ、土壌病害虫の防除効果も期待できる。
連作(れんさく)
 毎年、同じ畑で同じ作物をつくり続けること。作物が弱ったり、土壌病害虫にやられたりする「連作障害」の原因にもなる。
根こぶ病(ねこぶびょう)
 ハクサイやキャベツ、ブロッコリーなどのアブラナ科野菜で問題になる土壌病害。根に「こぶ」ができ、水が吸えなくなる。ひどいときは地上も枯れる。
花蕾(からい)
 蕾のこと。ブロッコリーやカリフラワーなどは蕾の集合を食用にし、これらを特に花蕾と呼ぶことが多い。
草勢(そうせい)
 茎葉が伸長する勢力、強さのこと。


最新農業技術 野菜vol.14

農文協 編

アスパラガスの生理と栽培、精農家7人の事例のほか、業務・加工用野菜の露地野菜の生育予測・出荷調整システム、ブロッコリーの大型花蕾生産技術・機械化一貫体系、タマネギの東北での初冬どりセット栽培など。

ブロッコリー・カリフラワーの作業便利帳

藤目幸擴 著

ブロッコリー、カリフラワーと新しい仲間のつくりこなし方。ブロッコリーでは茎ブロッコリーやミニタイプ、頂・側花らい兼用種、カリフラワーでは花らいが黄色や紫の品種、ロマネスコタイプなど新しい種類、品種が多く多くなっている。スプラウト(カイワレ)や巨大花らいなど意外な商品も開発されている。また、2本仕立てや2本植えなどの多収技術、側花らいや極早生種、低温にあたっても紫色にならないアントシアンフリー品種の利用などで単価の高い時期に収獲する方法などちょとした工夫で稼げる意外な新栽培法。

業務・加工用野菜

藤島廣二・小林茂典 著

輸入野菜は国内需要の20%を超えた。その70%以上は業務・加工用野菜。この、業務・加工用野菜の生産・販売が注目され、広がっている。業務用は外食・中食(給食も含めて)などそれぞれの目的にあった品質や大きさが求められるので、売り先が市場や量販店から中食・外食へ変わるだけでなく、規格や流通のしかたも変わる。そのため、きめ細かい対応が必要で、業務需用版産直など小規模なものも登場してきている。生産から規格や流通、販売の考え方やポイントを、大規模から小規模まで産地事例も含めて解説したのが本書。