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あああ

【楽しみ家畜|馬①】神事の馬を飼ってみないか?

父馬のフリッパー(ハフリンガー種)。子馬や牛とともに、島のあちこちの耕作放棄地やスキー場(夏)などに放牧している

連載「楽しみ家畜」より、今回は「馬」。佐渡島の自然や島の空気に魅了されて移住し、馬5頭や牛などを飼いながら暮らしている、佐渡・小岩井重人さんのお話です。馬の飼育を始めたきっかけとは?

執筆者:小岩井重人(新潟県佐渡市)

『現代農業』2026年3月号「神事の馬を飼ってみないか?」より

ちょっと旅行のつもりが

 新潟県本土の沖合い約32kmにある、佐渡島に住んでいます小岩井重人です。旧姓は岡本です。出身は兵庫県の瀬戸内寄りで、まさか自分が日本海に浮かぶ島に住むことになるとは夢にも思いませんでした。そもそも佐渡島がどんな島なのかも知りませんでした。子供の頃に遊んだゲーム「桃太郎電鉄」で隠し金山の物件があったなという記憶くらいでした。

 2006年の春、大学を卒業した僕は住む場所を探して日本を旅して回りました。九州から東北まで素敵なところはたくさんありましたが、なかなか住むには至りません。夏も終わりに近づく頃、神奈川にいた彼女が「佐渡島に行くんだけど一緒に行かない?」と誘ってくれました。まあ2週間くらい、ちょっと旅行してみるか、と軽い気持ちで一緒に行くことにしました。

筆者(42歳)と妻の麻弥。妻が乗っているのが母馬の花恵山(北海道和種)
筆者(42歳)と妻の麻弥。妻が乗っているのが母馬の花恵山(北海道和種)

島らしさにわくわく

 新潟(本土)から佐渡島に渡るフェリーは、当時3ルートも走っていました。地図で見て島までの距離が一番短い、新潟県長岡市の寺泊港から佐渡の赤泊港を目指すことにしました(現在は廃止)。

 海を渡り着いた赤泊港は人が全然おらず、9月初めのまだ暑いなか、ま~ったりとした島時間が流れていました。「うわー、島来たなー」という実感満点の佐渡初上陸でした。佐渡島の玄関口である両津港はもっと賑わっているので、そちらから入っていたら第一印象がまた違ったと思います。

 とりあえずヒッチハイクをして目的地を目指すことにしました。通りかかった方が乗せてくれ、どんどん坂道をのぼっていきました。山のてっぺんあたりまで来ると眺望が開け、向こうのほうにも山が見えました。

「佐渡島の隣にも島があるんですね」と運転手のおじさんに聞くと、笑いながら言われました。「あれも佐渡だよ」。山の上から見ると隣に島が浮かんでいるように見えたんですが、実際には山と山の間は平野でつながっていました。なんかおもしろいところに来たな。ぼくはわくわくしてきました。

馬5頭を放牧

 ちょっと旅行のつもりで行ってみた佐渡島でしたが、とてもいいところで、単身住むことにしました。現在は妻と2人の子供、馬5頭(親2頭・子3頭)と牛3頭(ジャージー牛・黒毛和牛)、ニワトリや猫たちと、佐渡の最高峰金北山の山裾の森のなかで暮らしています。

父馬のフリッパー(ハフリンガー種)。子馬や牛とともに、島のあちこちの耕作放棄地やスキー場(夏)などに放牧している
父馬のフリッパー(ハフリンガー種)。子馬や牛とともに、島のあちこちの耕作放棄地やスキー場(夏)などに放牧している

 朝目を覚ますと新鮮な森の空気を吸い込み、元気に走り回るニワトリたちに挨拶し、馬や牛を見回ります。

 馬や牛たちは、春から秋はあちこちに借りている放牧地に放しています。放牧地には川が流れていたり水路が脇にあったりして、自由に水を飲めるようにしているので毎日世話をしに行く必要はありません。でもやっぱり会いに行くとみんなうれしそうなんで、できるだけ行くようにはしています。

 今回は馬の魅力について。まずはとにかくかわいい。きれいな目、長いまつげ、柔らかい鼻、ピンと立った耳。ぽっこりしたおなかや柔らかな曲線を描く背中、ぷりっとしたお尻。すらっと垂れ下がるしっぽやポコっとした蹄も見逃せません。なでてあげたりして気持ちいいときに、下唇がふるふる震えるのもかわいくてたまりません。

 また力強く美しくもあります。普段はの~んびりと過ごしていますが、元気があり余ったときには走ったり飛び跳ねたりします。躍動感あふれる姿に、つい見とれてしまいます。

 あとやっぱり頭がいいなと感じます。人が出した指示を理解し、言うことを聞いてくれます。牛と比べても、やっぱり馬のほうがスムーズに指示が伝わります。

乗馬体験ツアーも行なっている。馬を引いているのは娘の樂音〈乗馬体験ツアーも行なっている。馬を引いているのは娘の樂音〈たね〉
乗馬体験ツアーも行なっている。馬を引いているのは娘の樂音〈乗馬体験ツアーも行なっている。馬を引いているのは娘の樂音たね

乗って走って一体感!

 そして何よりの魅力は、乗せてくれ、走ってくれることでしょう。馬に乗って走る気持ちよさは、何物にも代えられません。

 馬に乗って歩き揺られていると、身体がほぐれていきます。少しスピードを上げると、タッタッタと速歩(はやあし)になるんですが、馬の体が上下に揺れるので立つ・座るという動作を繰り返し、お尻がドンドンとぶつからないようにします。この乗り方を「軽速歩(けいはやあし)」といいます。リズミカルで気持ちよく、いい運動にもなります。

 そして駆け足。グーングーンと躍動感満点に推進していく馬の体とぴたっと一体化できたとき、本当にすばらしい感覚があります。風景を眺めながら駆け足で走っていると、「あー昔の人もこんな感じだったんだろな」と、ときを超えたような感覚になります。

海辺や海中を歩く乗馬体験もある
海辺や海中を歩く乗馬体験もある

神事の馬がいなくなる!

 ところで、僕はいったい5頭の馬を、何のために、どうやって維持しているのでしょうか。

 ときは遡り07年、僕が佐渡に住み始めて1年目の秋のことです。自給自足の暮らしがしたかった僕は、山の奥の集落の家に住まわせてもらっていました。すべて人力で畑や田んぼをやってみて、その収穫が一段落した頃でした。知り合いから連絡があり、こう聞かれました。

「重人、馬を飼ってみないか?」

 自給自足の暮らしのなかでニワトリくらいは将来的に飼えたらいいな、と思ったことはあったんですが、「馬を飼う」は自分の想像のはるか斜め上をいっていました。「せめてヤギくらいから始めさせて」とも思いましたが、話を聞いてみるとこういう事情でした。

 佐渡島には神事に馬を使うお祭りがいくつもあります。昔はたくさんいた馬も時代とともにいなくなり、その後は趣味で飼っている人が祭りに貸し出していました。しかしその方も高齢になり、もう祭りに馬を連れて行くのはやめたいと言っており、祭りの関係者が困っている。仕方なく新潟の本土から馬を借りてきたが、輸送費や宿泊費がかさむ。そこで関係者が協力して馬を購入することにしたが、肝心の飼育する人が見つからない――。そういったなか、当時森林組合のアルバイトに出ていた、比較的自由の身であった僕に話が回ってきたのでした。

 正直迷いました。馬のことは何も知らないし、そもそも興味もありませんでした。でも子供の頃から動物が好きでムツゴロウ動物王国の番組もテレビで欠かさず見ていました。

 あと、山暮らしは充実していましたが、少し人恋しいと感じてもいました。馬の仕事を引き受けたら、いろんな人とかかわれるかも、という気持ちもあり引き受けることにしました。当時24歳。こうして馬を飼うための準備が始まっていきます。

飾り手綱を付けた花恵山。各集落の神事に貸し出す
飾り手綱を付けた花恵山。各集落の神事に貸し出す

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現代農業 2026年3月号

特集:植え方無限大 イモとショウガの増収術

定価
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