70歳以上の農家に話を聞くと、幼少期にヤギ乳で育ったという人は意外と多いようです。今回は、ヤギ乳のおいしさや搾乳の工夫、保存などをご紹介いただきました。
執筆者:今井明夫(新潟県三条市)
『現代農業』2025年9月号 「楽しみ家畜 第7回 ヤギ 乳用種①」より
私はヤギの子?
私が生まれたのは、1944(昭和19)年2月です。
太平洋戦争の終末期に父に召集令状が来ました。フィリピンのルソン島に渡った父はアメリカ軍の攻撃にさらされてルソン島北部の山岳地を逃げ回る毎日が続き、多くの戦友が亡くなりました。武装解除を受けてモンテンルパの捕虜収容所に入れられ、3年間は日本へ帰還することができませんでした。
その間、母は私と兄の2人の息子を連れて実家に戻りましたが、稲作と養蚕の作業に追われて母乳が出なくなりました。そこで実家の祖母が、近所で飼っていたヤギの乳を毎日もらってきて、私に飲ませて育ててくれたそうです。
大学を卒業して新潟県職員になることが決まっていましたが、スイスの大学の先生から国際技術系学生交流研修組織IAESTEを紹介され、採用保留という形で研修のために海を渡りました。
スイス連邦農業試験場で6カ月、スイス連邦技術科学大学畜産研究農場で18カ月研修しました。スイスの生活では標高2000mのアルプスの放牧地で牛を放牧し、乳を搾ってフレッシュチーズをつくり、まさにアルプスのペーターとハイジのような経験もしました。その後英国に渡って家畜改良センターと農務省ウェールズ地方試験場で1年間研修し、ようやく帰国しました。
新潟県では主に家畜の飼料の研究に従事して、試験用家畜としてヤギとヒツジと牛を担当。83年に畜産試験場に近い集落に家を建てて畑も手に入れて、自宅でヤギを飼い始めたのでした。
1日3~4L、7カ月間も
ヤギにはたくさんの種類があり、世界中で飼育されています。有名なのはヨーロッパで飼育されて世界中に広まったスイス原産のザーネン種ですが、トッケンブルグ種、アルパイン種などの乳用種やそれらの雑種の他に肉用種もたくさんあります。
日本では明治初期に導入されたザーネン種に日本在来のシバヤギを交配して気候適応性を付与した、日本ザーネン種が多く飼育されています。
ザーネン種は秋に発情が来て種付けすれば5カ月後の春に出産します。初産のヤギは出産後1カ月で乳量が1日1.5~2.5Lですが、2産以降では3~4Lにもなります。
泌乳期間は初産で4カ月程度、2産以降は6~7カ月搾乳することができます。種付けの時期を遅らせることで6月に出産させて晩秋まで搾乳することもできます。
おいしくて飲みやすい
ヤギ乳の特徴は次の通りです。
- 脂肪球が小さいので牛乳のようにホモジナイズ(均質化)しなくても消化吸収がよい。
- 牛乳アレルギーの主なアレルゲンであるαs1-カゼインが少ないのでアレルギーを起こしにくいとされ、犬や猫の栄養食としても販売されている。
- 野草や雑草を主体に飼料給与することでβ-カロテンを多く摂取。体内でビタミンAに変換される。
- 四季ごとに異なる野草を食べるのでさまざまな風味を楽しめる。
ヤギ乳は独特の風味があり、昔ヤギ乳で育った人には「臭い」という人もいますが、ヤギ小屋の不潔な管理によって乳房が汚れたり、搾乳時に周辺の臭気を吸収してしまうせいだと思います。小屋を常に清潔にすること、エサ箱と水桶はヤギ房の外に置くこと、風通しのよい場所で搾乳することが、おいしいヤギ乳を飲むために必要です。
ヤギ用の搾乳枠を作った
私はヤギの搾乳がやりやすいように搾乳枠を自作しました。ヤギが搾乳されるのを嫌い、足を上げて搾った乳をこぼしたり、バケツに足を入れられたりした経験のある人も多いでしょう。
搾乳枠の前方に飼料箱を置いて首輪を保定すれば、暴れることは少なくなります。搾乳枠では横からでも後ろからでも搾ることができます。
搾乳枠がなくとも、ヤギ小屋内で搾乳する場合はヤギを壁面につなぎ、ヤギ小屋内で搾乳する場合はヤギを壁面につなぎ、首輪を短くして首元にエサ箱を置きます。手搾りに慣れていない初産のヤギでも3日くらいで搾らせてくれるようになるのですが、ヤギを乱暴に扱うことは厳禁です。
「全国山羊ネットワーク」と「ヤギの相談室」
92年から始まった小学校の生活科では動物の飼育が勧められ、「ヤギを飼いたい」という小学校が増えてきました。しかし自家用ヤギの飼育は減少し続け、村の中でヤギを見ることが少なくなりました。
そこでヤギの種付けや子ヤギの入手が容易にできるように、新潟県ヤギネットワークという飼育者の連絡網をつくり、県内のヤギ仲間から子ヤギを入手して小学校に「入学」させました。
全国山羊ネットワークにも入会して小学校におけるヤギ飼育の意義について紹介すると各地から反響が大きく、全国の会の代表も務めました。現在は世話人として、一般飼育者からの相談や質問にアドバイスする「ヤギの相談室」を担当しています。相談者への返答はメールやFAXで行ない、全国山羊ネットワークが年2回発行する会誌『ヤギの友』に掲載。ネットワークのHPサイトでも、相談室の応答を読めます。
自然な草を中心に飼える
ヤギのエサは自然な草が一番です。秋に種付けして春に出産し、栄養豊富な草を食べて子育てをするヤギのライフサイクルは四季とマッチしています。
雪国では春先に一番早く食べる自家用野菜は折り菜(ナバナの一種、とう菜)ですが、家族で食べきれずに花が咲いてしまっても、ヤギのエサとしては最高のごちそうになります。
当今井農園では畑を1.2ha持っていますが、半分は牧草地にして放牧や青刈りで利用しています。また畑の周辺や農家が耕作しなくなった休耕地や川の土手には、自然とヨモギやセイタカアワダチソウが繁茂してきます。これらはヤギの嗜好性がよく、刈ってもすぐに再生するので、春から秋まで青刈り利用するだけでなく、サイレージにすることも可能です(別途紹介)。
小学校に貸し出して出産して育児(自然哺乳)を終えた母ヤギが6月になって当家に帰ってくると、毎日の搾乳が必要になります。私は搾ったミルクを低温殺菌して、ウイスキーの瓶に入れて冷蔵庫で保存しています。飲みきれない分は知り合いに届けます。地元の三条市立笹岡小学校では、子供たちが搾乳を体験し、ヤギミルクを使った調理実習も行なっています。
次回は種付け、エサ、危険な植物について紹介します。
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