近年急増して大問題となっているイネカメムシ。かつては主要な害虫だったにもかかわらず、1950年代以降は農薬の普及などで激減し、長く姿を見せていなかった。そのため、くわしい生態がほとんどわかっていなかったが、ここ数年で少しずつ明らかになってきた。
執筆者:世戸口貴宏(農研機構植物防疫研究部門)
『現代農業』2025年6月号
イネカメムシは斑点米カメムシ類の一種
水稲栽培では多くの種類の害虫が問題となります。特に近年、イネのモミを加害して玄米の表面の一部を褐変させる斑点米カメムシ類の発生が増加しており、2024年は31道府県で注意報が発令されました。
斑点米カメムシ類とひと言でいっても、その中にはさまざまな種類のカメムシが含まれており、発生状況は年や地域により異なります。24年は九州から関東までの広い範囲でイネカメムシと呼ばれる種類が多発し、注意報を発令した31道府県のうち半数以上となる17府県が注意報の中で言及しています。ここでは、イネカメムシの生態や薬剤を中心とした防除方法を紹介します。
従来より早い時期の防除が必要
イネカメムシは、玄米品質だけでなく収量も低下させるという厄介な害虫です。他の斑点米カメムシ類と同様に登熟後半のモミを加害して斑点米を発生させる(品質低下)だけではなく、登熟前半のモミを加害して発育を停止させ、不稔を発生させます(収量低下)。この不稔被害は、出穂直後の若い稲穂ほど受けやすいことがわかっています。登熟前半の加害を防ぐことが重要です。
従来の斑点米カメムシ類の防除では、穂揃い期以降の薬剤散布が効果的であるとされています。しかしながら、イネカメムシは登熟前半のモミを加害するため、その時期の薬剤散布では不稔被害を十分に防げません。そのため、薬剤散布時期の見直しが必要です。穂揃い期より早い出穂期にジノテフラン剤(スタークルなど)やエチプロール剤(キラップなど)を散布すると、高い不稔防止効果が得られます。
今のところイネカメムシによる被害を防ぐためには、薬剤防除が効果の実証されている唯一の手段ですが、従来の防除に追加してイネカメムシに対する薬剤散布を追加すると、防除コストが増加します。
また、継続的に同じ薬剤を使用し続けて、薬剤に対する抵抗性を発達させてしまうリスクもあります。実際、一部地域での調査では、エチプロール剤の効果が下がっていることがわかっています。発生が多い地域では、薬剤による有効な防除方法について指導機関に相談するようにしてください。
謎に包まれていた生態が明らかに
イネカメムシの効果的な対策のためには、生態を把握することが重要です。まだまだ不明な点がありますが、ここ数年の諸研究機関の調査により、謎に包まれていた生態が少しずつ明らかになってきています。
イネカメムシの1年
▼イネの出穂まで越冬場所でじっと待つ
イネカメムシは冬の間、地表面や落ち葉の下にじっと隠れて寒さをしのいでいます。5月ごろになって暖かくなると越冬場所の近くを歩き始める様子が見られたり、6月ごろには越冬場所を飛び出す準備なのか翅をふるわせる様子も観察されたりします。しかし、越冬場所を離れることはなく、交尾や産卵も観察されません。
越冬場所を離れる時期は年や地域により異なりますが、6月下旬ごろから7月上中旬にようやく離脱します。主要な斑点米カメムシ類であるカスミカメムシ類は4月ごろから雑草地で活動を開始するため、イネカメムシの動き出しはかなり遅いといえます。
また、カスミカメムシ類は春の活動場所である雑草地での発生状況をもとにして水田での発生をおおまかに予測できますが、イネカメムシはイネの出穂直前まで越冬場所を離脱しないため、事前の予測は困難です。
▼イネで最大2世代増殖
越冬場所を離脱したイネカメムシの成虫は、出穂した水田に飛来します。さまざまな地域での事例を蓄積する必要がありますが、一部地域においてはもっとも早く出穂する水田に多く飛来することがわかっています。
その水田で稲穂を加害したイネカメムシは交尾をし、イネの葉に卵を産みつけます。越冬世代は、その後秋までに死亡します。
5日ほど(25°Cの場合)で卵から出てきた幼虫は登熟が進む稲穂を吸汁して発育し、20~30日で成虫に羽化します。羽化した1世代目の成虫は登熟が進んでモミがかたくなったイネには残らず、モミのやわらかい出穂直後のイネを求めて移動します。
地域や時期により異なりますが、1世代目の成虫は移動先のイネでも産卵します。ここから出てきた幼虫が成虫になると、2世代目の成虫が発生することになります。2世代目は産卵せず、エサがなくなる9~10月には水田から越冬場所に向かいます。
▼越冬場所は暖かく湿り気のある場所!?
名前にイネがついているイネカメムシですが、じつは……
この続きは『現代農業』2025年6月号または「ルーラル電子図書館」でご覧ください。
『現代農業』2025年6月号「続 吸汁ゲリラ・カメムシの叩き方」コーナーには、以下の記事も掲載されています。
【田んぼのカメムシ】
- イネカメムシで収量8割減 周囲と出穂が揃う品種に切り替えた 谷川拓也
- アゼにペニーロイヤルミント 薬剤散布なしでも大丈夫 古澤邦敏
- やってよかった! カメムシに消石灰 高橋潤一
- カメムシに いもちに 石灰大好き長崎さんの散布現場を見た(秋田・長崎正子さん)
【畑のカメムシ】
- アブラナ科のカメムシ3種 居ぬ間に防虫ネット、早期に捕殺 小巻秀任
- 果樹カメムシ 繁殖期前の早期防除&バッグ吊り下げ捕殺で数を減らす 栗林寛
- 畑の隅に電撃殺虫機 1日100匹以上倒せる 田邉稔
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