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殺虫剤が\見えた!/の体験

巻頭特集

広く普及しつつある「RACコード」。 もともとはローテーション防除のためのツールだが、 その意味をひもとけば、 農薬にグッと近づく道標ともなる--。

殺虫剤が\見えた!/の体験

岐阜・岩井政義

筆者(72歳)

農薬に対する知識不足

 育てたものを一年を通じて食べられることを目指し、約5aの畑で野菜づくりをしています。

 2009年に、約40年間のサラリーマンとの兼業生活を終え、専業農家に転身。母から畑を受け継ぎ、わずかながら直売所でも販売できるようになりました。ところが、初めてタマネギを出そうとした際、栽培履歴を提出したところ、「オルトラン粒剤1Bはタマネギに適用がない」と言われてしまいました。母が使っていた農薬は、オルトラン、スミチオン1B、マラソン1B程度でしたが、私が見よう見まねでやった結果が「出荷できず」だったのです。

 私はこの件で、農薬に対する知識不足を痛感。同時に、興味を持つきっかけともなり、新しさにも惹かれて多くの剤を買い増していました。

当初は手に入りやすく、安い有機リン系(1B)ばかり使っており、効果が弱くなっても原因がわからなかった

「系統」という存在に目からウロコ

 栽培履歴を提出するために、適用表に沿って防除することで、個々の農薬については適切に使えるようになりました。でも、適用のある剤が複数ある場合、どの農薬を選ぶのかは、毎回「これでどうだ?」と、なんとなくの判断でした。

 そんなときに『現代農業』2015年6月号で農薬の系統に対する特集が組まれ、非常に興味深く拝見しました。まさに「目からウロコ」でした。

 さっそく、手持ちの農薬を本で確認すると、同じ系統の剤がいくつもあり、トレボン乳剤1Bがあるのにアディオン乳剤3Aを買ったりと、ムダな買い物が多かったことがわかりました。

 また、特集のおかげで、系統を考慮することで虫の抵抗性を鍛えない「ローテーション防除」を知りました。思い返せば、母から畑を継いだ当初、殺虫剤が効かないことがしばしばありました。有機リン系の剤ばかり使っていたためかもしれません。

『現代農業』2015年6月号
特集「農薬のラベルに『系統』の表示が必要だ」で、RACコードの利点やローテーションの重要性を大々的に訴えた。以後、継続的に取り上げている

作物ごとに一覧表を作成

 系統別に整理して使うことが、農薬使用の道しるべになると考え、一覧表に整理し始めました。なんとなく「さぁ、何を散布するか?」と判断するのではなく、経験と過去の使用歴、そして整理した表から「よし、今回はこれ」と、即断できるようにするのが目的です。

 整理にはパソコンのエクセル(表計算ソフト)を使いました。もちろん、手書きでも可能ですが、労力の問題が……。まずは、フォーマット作りです。一番左の列にRACコード、そのすぐ右に剤の名称を記入できるようにします。さらにその右に、希釈倍率、使用量、使用時期、使用回数、適用病害虫名などを記入できるよう、適用表に沿って欄を作ります。

 フォーマットができたら、手持ちの農薬を欄へ記入していきます。このとき、系統が同じものをまとめることが重要です。たとえば、マラソン乳剤とスミチオン乳剤は同じ有機リン1B系統なので、上下に連続した行とします。しかし、トレボン乳剤は合ピレ3A系統なので、1Bとは区分して同系統をまとめます。このようにして、手持ちの農薬の一覧表ができあがりました。

 なお、表は栽培する作物の品目分を用意しています。登録内容は作物ごとに異なるので、作目の数だけ必要となるためです。根気勝負ですが、こうすれば後がラク。たとえば、自分は「ナス」に使える農薬は何と何を持っているか。それらをどうローテーションして定植~収穫終了まで防除するか。この1枚でざっと構想を組み立てられ、実際の散布方法までわかるようになります。

使い回しの道しるべに

 私の防除は、単に系統の異なる農薬を回し使っているだけで、ローテーションといえるほどのやり方ではないかもしれません。しかし、ナスや冬キャベツ、ハクサイなど、害虫の多い時期が長期にわたる栽培において、農薬選択の判断材料、防除の「道しるべ」として、十分に有効性を感じています。

 各農薬には使用回数に制限があり、違う農薬を使った場合でも、同じ成分が含まれれば1回とカウントされます。知らない間に使いすぎるのを避けるため、私は同じ系統の農薬が複数ある場合、その年は1種類しか使わないようにしています。

 また、栽培期間の長い作物には、「使用回数」の多い農薬から優先して使い始めることで、ローテーションの行き詰まりを防止しています。アニキ乳剤6など幅広い虫にピシャッと効く剤は、犯人不明のときに使いたい。「使用回数」が少ないため、なるべく使わず切り札として残しています。


ナスに使える手持ちの殺虫剤一覧表(筆者の実際の表を一部改変)

(こちらをクリックすると、別ウィンドウで画像が表示されます)

実際の表には、問い合わせられるように農薬メーカーや登録番号、他に保管場所なども記載してある。なお、同時防除の参考になるよう、害虫の欄には他の作物で適用があるものも書いておく。たとえば、マラソン乳剤はナスでは「アブラムシ類」「ハダニ類」しか登録がないが、「アザミウマ類」(ネギなどで登録あり)なども記載。殺菌剤についても、作目ごとに同じような表を作っている

実際の殺虫剤散布(昨年9月のナスの例)

同じ系統が続かないよう意識。散布実績もエクセルに記録し、どの剤を何回使ったか、効果はどうだったか、なども書き残しておく。大潮防除(孵化直後の1齢幼虫を叩く)も実践。
筆者の農薬類。ホームセンターや農協の資材店から、なるべく容量の小さいものを購入している

同時防除も見えてきた

 系統を把握して防除し始めてからは、薬が効きにくい、ということがなくなりました。また、表をもとに防除履歴をきちんと残すことで、直売所へ提出する栽培履歴への記入がラクになりました。

 作物ごとの一覧表を横並べにすることで、思わぬ効果を得られることもありました。たとえばアファーム乳剤6は、ダイコン、ブロッコリーへの適用があります。ダイコンの場合はアオムシ、コナガに有効とあり、ヨトウムシには有効性が書かれていません。一方、ブロッコリーの場合はアオムシ、コナガ……、ヨトウムシに有効とあります。

 ダイコン畑でヨトウムシを見つけたとき、アファーム乳剤以外を探す必要があるかというと、そんなことはありません。ブロッコリーでヨトウムシに有効性が書かれていることから、アオムシ防除のつもりでダイコンにアファーム乳剤を散布すれば、ヨトウムシも退治できるのです。表をよくよく見ることで、こうした発見もあります。

目的の作目で登録がなくても、別の作目で登録がある虫には、その農薬は効く(同時防除)。表を作ったことで見えてきた

 農薬を購入する際、同じ系統のものを重ねて買うのではなく、異なるものを購入することが防除効果を上げるための基本だと考えるようになりました。有効活用することで農薬の生産量を減らせるとしたら、「脱炭素化」への貢献になるかもしれない、とも考えます。

(岐阜県多治見市)


今さら聞けない 農薬の話 きほんのき

農文協 編

農薬の成分から選び方、混ぜ方までQ&A方式でよくわかる。たとえば、農薬の「成分」って何のこと? 商品名は違うのに成分が同じ農薬は多い? ミニトマトはトマトと同じ農薬でいいの? といった「基本的なことだけど大事な話」が満載。さらに、RACコードって何? 混ぜると効き目がアップする農薬は? 多品目畑で使いやすい農薬は? といった現場の悩みにも応える。農薬の効かせ上手になって減農薬につながる一冊!

★「現代農業別冊 今さら聞けない農薬の話 きほんのき」が書籍になりました。